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第11輪「前門の危機と、後門のおおかみ」
⑪-7 アリオーソ①
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「ら、ラウル…………⁉ なんで、あんたが!」
「お前、孤児院へ押しかけた奴だな⁉」
ラウルと呼ばれた男はそれぞれの反応を無視すると、処置ベッドから起き上がろうとするレンを見つめた。
「間に合わなかったか」
「なんだと⁉」
激しく反応を見せるアルベルトは、銃口を向けられながらもレンの前に立ちはだかった。ラウルは窓枠を軽く飛び越えると、銃口を向けながら処置室へ降り立った。
「何者だ!」
「…………痴れたことを」
「何ッ⁉」
ラウルは口元を緩ませながら、アルベルトへ銃口を向けて嗤った。それでも怯むことなく、アルベルトがその銃口を掴もうと前へ突き進んだ。
「ラウル」
突然のレンの声に動揺したラウルには、一瞬の隙が生まれる。アルベルトはその隙を逃さず、素早く銃口を掴むと下へ叩き落とし、踵で後方へ蹴り飛ばした。ラウルは子供をあしらうようにアルベルトを踏みつけると、すぐに肩にかけていた別の銃へ手を伸ばした。
「動かないで!」
マリアが素早く拳銃を拾い、ラウルへ向ける。
「そんな銃、俺には効かんぞ」
「何ですって⁉」
「試しに撃ってみるか?」
ラウルは構わずに肩から銃をおろし、至近距離でアルベルトへ銃口を押し当てた。
「避けられまい」
「……やめて! ラウルも、やめてよ!」
「黙れ、人形」
「なッ……」
人形という言葉に、マリアは狼狽えてしまい、その銃口を下ろしてしまう。すぐさま血だらけのティナが立ち上がり、両腕でもってマリアを庇った。
「下がれ! ティナさん、危険だ!」
「ラウルやめて。アルベルトさんを撃たないで。お願い、マリアを撃たないで……」
「フン」
ラウルは銃口をアルベルトへ更に押し当てた。
「ラウル。どうして、どうしてそんな事をするのですか? 優しい貴方は何処へ行ってしまったのです」
「今更、姉面とは滑稽だな」
マリアの拳銃を握る手に力が入り、ラウルへその銃口を向ける。
「黙りなさいよ!」
状況のわからないアルベルトだったが、その眼はラウルから移ることはない。
マリアはティナの前世とラウルが古の姉弟であったことを知っているものの、相対しているのを見るのは、あの襲撃の時以来だ。
「ラウル……‼ その足を退けなさい!」
ティナは隠していた拳銃を取り出すと、その銃口をラウルへ向ける。ガラス破片による切り傷から血が溢れており、ティナの腹部は真っ赤に染まっている。
「やめてくれ、ティナ! 下がるんだ!」
アルベルトの決死の呼びかけに、ティナは首を横に振って応えた。
「アルベルトさん、ラウルは私の弟なのです……」
「なんだって?」
アルベルトの視線がティナへ移った瞬間、ラウルはアルベルトを再び踏み付けようと足を振り上げた。ラウルの足が離れる瞬間、アルベルトは後方へ飛ぶと、マリアに支えられる形で体の自由を取り戻す。ラウルは舌打ちをしたが、すぐにレンを嬉しそうに見つめた。
「ティニア、こっちへ来るんだ」
ラウルの呼びかけに、処置ベッドに座っていたレンは無言で頷いた。
「いってはダメ!」
「…………行くな!」
「動くな」
ラウルは銃口をティナへ、そして後方のアルベルトへ向ける。ティナの、そしてアルベルトの叫びに何の表情も変えず、レンはラウルの横へ当たり前のように寄り添った。
ラウルは腰からもう一丁の拳銃取り出すと、持っていた拳銃をレンへ手渡した。素直に受け取るその仕草に、ラウルは笑みを浮かべ、レンの頬へ自身の頬をあてがう。
それは獣が親しい獣と頬をすりあわせ、抱擁するかのようである。
レンは無表情でありながら、艶めかしい二人の邂逅に、アルベルトは憤り叫ぶ。
「やめろ! 触るな!」
アルベルトの叫びに、レンは表情を一切変えず無表情のままだ。その声に反応したレオンが傷口を抑えながら前へ出た時、レンがリボルバーを光らせた。
刹那、乾いた銃声が響くと同時に、レオンが脇腹を抱えて床へ崩れ落ちた。
そのレンの動きに、ラウルは口元を歪ませて嗤った。
「グッ…………」
「レオン!」
「先生!」
アルベルトとマリアの悲鳴、そして声にならないティナの叫び。
拳銃を握るのはレンは、その拳銃から煙を放っていた。今のレンには、かつてのアルビノの少年やティニアとしての優しい面影はなかった。
「ティニア……お前、なんで……」
アルベルトの言葉も虚しく、レンは表情を変えることはなく、その瞳を虚ろにしたままだ。
沈黙を保ったまま、その銃口をアルベルトへと向け、冷たく囁く。
「動かないで下さい、撃ちますよ」
「お前、孤児院へ押しかけた奴だな⁉」
ラウルと呼ばれた男はそれぞれの反応を無視すると、処置ベッドから起き上がろうとするレンを見つめた。
「間に合わなかったか」
「なんだと⁉」
激しく反応を見せるアルベルトは、銃口を向けられながらもレンの前に立ちはだかった。ラウルは窓枠を軽く飛び越えると、銃口を向けながら処置室へ降り立った。
「何者だ!」
「…………痴れたことを」
「何ッ⁉」
ラウルは口元を緩ませながら、アルベルトへ銃口を向けて嗤った。それでも怯むことなく、アルベルトがその銃口を掴もうと前へ突き進んだ。
「ラウル」
突然のレンの声に動揺したラウルには、一瞬の隙が生まれる。アルベルトはその隙を逃さず、素早く銃口を掴むと下へ叩き落とし、踵で後方へ蹴り飛ばした。ラウルは子供をあしらうようにアルベルトを踏みつけると、すぐに肩にかけていた別の銃へ手を伸ばした。
「動かないで!」
マリアが素早く拳銃を拾い、ラウルへ向ける。
「そんな銃、俺には効かんぞ」
「何ですって⁉」
「試しに撃ってみるか?」
ラウルは構わずに肩から銃をおろし、至近距離でアルベルトへ銃口を押し当てた。
「避けられまい」
「……やめて! ラウルも、やめてよ!」
「黙れ、人形」
「なッ……」
人形という言葉に、マリアは狼狽えてしまい、その銃口を下ろしてしまう。すぐさま血だらけのティナが立ち上がり、両腕でもってマリアを庇った。
「下がれ! ティナさん、危険だ!」
「ラウルやめて。アルベルトさんを撃たないで。お願い、マリアを撃たないで……」
「フン」
ラウルは銃口をアルベルトへ更に押し当てた。
「ラウル。どうして、どうしてそんな事をするのですか? 優しい貴方は何処へ行ってしまったのです」
「今更、姉面とは滑稽だな」
マリアの拳銃を握る手に力が入り、ラウルへその銃口を向ける。
「黙りなさいよ!」
状況のわからないアルベルトだったが、その眼はラウルから移ることはない。
マリアはティナの前世とラウルが古の姉弟であったことを知っているものの、相対しているのを見るのは、あの襲撃の時以来だ。
「ラウル……‼ その足を退けなさい!」
ティナは隠していた拳銃を取り出すと、その銃口をラウルへ向ける。ガラス破片による切り傷から血が溢れており、ティナの腹部は真っ赤に染まっている。
「やめてくれ、ティナ! 下がるんだ!」
アルベルトの決死の呼びかけに、ティナは首を横に振って応えた。
「アルベルトさん、ラウルは私の弟なのです……」
「なんだって?」
アルベルトの視線がティナへ移った瞬間、ラウルはアルベルトを再び踏み付けようと足を振り上げた。ラウルの足が離れる瞬間、アルベルトは後方へ飛ぶと、マリアに支えられる形で体の自由を取り戻す。ラウルは舌打ちをしたが、すぐにレンを嬉しそうに見つめた。
「ティニア、こっちへ来るんだ」
ラウルの呼びかけに、処置ベッドに座っていたレンは無言で頷いた。
「いってはダメ!」
「…………行くな!」
「動くな」
ラウルは銃口をティナへ、そして後方のアルベルトへ向ける。ティナの、そしてアルベルトの叫びに何の表情も変えず、レンはラウルの横へ当たり前のように寄り添った。
ラウルは腰からもう一丁の拳銃取り出すと、持っていた拳銃をレンへ手渡した。素直に受け取るその仕草に、ラウルは笑みを浮かべ、レンの頬へ自身の頬をあてがう。
それは獣が親しい獣と頬をすりあわせ、抱擁するかのようである。
レンは無表情でありながら、艶めかしい二人の邂逅に、アルベルトは憤り叫ぶ。
「やめろ! 触るな!」
アルベルトの叫びに、レンは表情を一切変えず無表情のままだ。その声に反応したレオンが傷口を抑えながら前へ出た時、レンがリボルバーを光らせた。
刹那、乾いた銃声が響くと同時に、レオンが脇腹を抱えて床へ崩れ落ちた。
そのレンの動きに、ラウルは口元を歪ませて嗤った。
「グッ…………」
「レオン!」
「先生!」
アルベルトとマリアの悲鳴、そして声にならないティナの叫び。
拳銃を握るのはレンは、その拳銃から煙を放っていた。今のレンには、かつてのアルビノの少年やティニアとしての優しい面影はなかった。
「ティニア……お前、なんで……」
アルベルトの言葉も虚しく、レンは表情を変えることはなく、その瞳を虚ろにしたままだ。
沈黙を保ったまま、その銃口をアルベルトへと向け、冷たく囁く。
「動かないで下さい、撃ちますよ」
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