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第11輪「前門の危機と、後門のおおかみ」
⑪-4 D-Mollの消失④
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フリージアが着替えをすませた頃、部屋外から物音とアルベルトの叫び声が耳に入ってきた。慌てて部屋を出ると、アルベルトが力なく意識を失ったティニアを抱きかかえ、部屋から出て来た所だった。
激しく動揺したフリージアは顔に手を当て、絶叫する。
「てぃにあさま? てぃにあさまああああ‼」
少女の絶叫はアルベルトの心を深く突き刺し、今までとは違った絶望を感じ取る。
「なんでいきなり。意識を失ってしまった」
「そんな……ティニア様、めをあけて!」
よろよろと近づいたフリージアは、ぐったりとしたティニアを見つめる。まるでアルビノのように、その肌は血の気が引いたように白く、異常なまでに冷たそうに見える。
幼いフリージアの胸は一瞬で張り裂けそうになり、いつも微笑みを絶やさなかったティニアの無表情を虚しく見つめた。
「フリージアは、ここで大人しく待っててくれ」
「え、ティニア様は⁉」
「すぐに診療所へ連れていく」
アルベルトは震える手でティニアを抱きかかえると、その青ざめた顔でフリージアを見つめる。その狼狽はフリージアへも伝わり、激しく動揺を誘う。フリージアはティニアの傍へ駆け寄り、アルベルトよりも震える手でティニアの腕を掴んだ。しかしその腕は冷たく、まるで人形の様だ。
「だ、だいじょうぶなの?」
「…………息はしている。いつもと違うが、きっと大丈夫さ」
それは自分に言い聞かせる言葉。
目の前が脆く崩れ去り、足元から奈落の底へ落ちるかのようだ。
「とにかく、家に居てくれ!」
アルベルトはティニアを抱き、診療所へ駆け出した。フリージアはその場に立ち尽くし、開いたままのドアを見つめ、その場に崩れ落ちた。アルベルトの遠ざかる足音だけが、フリージアの耳に残っていった。
◇◇◇
診療所へ駆け込んだアルベルトは息を切らせており、言葉にならない。只ならぬ予感を感じたレオン医師は、その腕に抱えられるティニアの異様な光景に目を疑った。ティニアは呼吸はしているものの、肌は異常に白く、そして血の気がない。
「処置室へ!」
無言で処置室へティニアを横たわらせると、アルベルトはその場に崩れ落ちた。レオンはすぐに脈拍を計測するものの、何も感じられない。浅くもない通常の呼吸だけが繰り返されており、その胸が上下する。しかし、その異常なまでの白い肌は冷たい。
「何があったのですか!」
「あ……。ティニアが急に倒れて。前兆として可笑しくなるようなことも、ほとんどなかったんだ! 口調は少し、可笑しかった。それで突然、何かの切れるような小さい機械音がしたんだ。それで、すぐその場に崩れ落ちて……、何かを訴えるように俺を見つめて……」
その言葉に、レオンは深い不安を覚えた。
「…………待合室で待っていてください」
「レオン! お願いだ、こいつを助けてくれ……」
「全力で対応します、さあ……」
アニー看護師が駆け付け、力なく項垂れたアルベルトを支え、処置室を後にする。レオンはティニアの症状の違和感に、見覚えがあった。しかしそれがはっきりと思い出せない。
ぼんやりと浮かぶ光景。それは海岸であり、そして――。
「そうだ……。ティナさんを保護した時と、似ている……」
ティナは最初人形ではないかと思うほど白く、そして衰弱していた。人魚姫伝説を思い浮かべていた時、その呼吸を確認したのだ。しかし脈拍だけはあり、その状態だけがティニアと異なっていた。
「ティニアさん……」
「再起動がかかっています」
突然背後からした声に驚き振り返ると、そこにはティナが静かに立っていた。ティナの表情は重く、凍り付いている。
激しく動揺したフリージアは顔に手を当て、絶叫する。
「てぃにあさま? てぃにあさまああああ‼」
少女の絶叫はアルベルトの心を深く突き刺し、今までとは違った絶望を感じ取る。
「なんでいきなり。意識を失ってしまった」
「そんな……ティニア様、めをあけて!」
よろよろと近づいたフリージアは、ぐったりとしたティニアを見つめる。まるでアルビノのように、その肌は血の気が引いたように白く、異常なまでに冷たそうに見える。
幼いフリージアの胸は一瞬で張り裂けそうになり、いつも微笑みを絶やさなかったティニアの無表情を虚しく見つめた。
「フリージアは、ここで大人しく待っててくれ」
「え、ティニア様は⁉」
「すぐに診療所へ連れていく」
アルベルトは震える手でティニアを抱きかかえると、その青ざめた顔でフリージアを見つめる。その狼狽はフリージアへも伝わり、激しく動揺を誘う。フリージアはティニアの傍へ駆け寄り、アルベルトよりも震える手でティニアの腕を掴んだ。しかしその腕は冷たく、まるで人形の様だ。
「だ、だいじょうぶなの?」
「…………息はしている。いつもと違うが、きっと大丈夫さ」
それは自分に言い聞かせる言葉。
目の前が脆く崩れ去り、足元から奈落の底へ落ちるかのようだ。
「とにかく、家に居てくれ!」
アルベルトはティニアを抱き、診療所へ駆け出した。フリージアはその場に立ち尽くし、開いたままのドアを見つめ、その場に崩れ落ちた。アルベルトの遠ざかる足音だけが、フリージアの耳に残っていった。
◇◇◇
診療所へ駆け込んだアルベルトは息を切らせており、言葉にならない。只ならぬ予感を感じたレオン医師は、その腕に抱えられるティニアの異様な光景に目を疑った。ティニアは呼吸はしているものの、肌は異常に白く、そして血の気がない。
「処置室へ!」
無言で処置室へティニアを横たわらせると、アルベルトはその場に崩れ落ちた。レオンはすぐに脈拍を計測するものの、何も感じられない。浅くもない通常の呼吸だけが繰り返されており、その胸が上下する。しかし、その異常なまでの白い肌は冷たい。
「何があったのですか!」
「あ……。ティニアが急に倒れて。前兆として可笑しくなるようなことも、ほとんどなかったんだ! 口調は少し、可笑しかった。それで突然、何かの切れるような小さい機械音がしたんだ。それで、すぐその場に崩れ落ちて……、何かを訴えるように俺を見つめて……」
その言葉に、レオンは深い不安を覚えた。
「…………待合室で待っていてください」
「レオン! お願いだ、こいつを助けてくれ……」
「全力で対応します、さあ……」
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「ティニアさん……」
「再起動がかかっています」
突然背後からした声に驚き振り返ると、そこにはティナが静かに立っていた。ティナの表情は重く、凍り付いている。
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