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第10輪「白銀の涙を取り零ス」
⑩-10 フリージア③
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病室に残った二人は顔を合わせると、お互いに思わず笑みがこぼれた。あまりに二人の親子っぷりが親子のそれなのだ。
「なんだかんだ、打ち解けられそうですね」
安堵したレオンに、アルベルトがその問いを投げかける。
「なんだよ、話って。あ、もしかしてさっきの小言か? あれは本当に何でもないんだ」
「いえ、そうではなく。良かったのですか? せっかく二人で暮らしていたというのに」
「ああ。まあ、俺が居候しているだけなのは事実だからな。拒否権はないさ」
「そうではなく。告白もまだなのでしょう?」
告白という言葉に、一瞬たじろいでしまう。アルベルトは悪戯そうな笑みを浮かべると、別の事を指摘し始めた。
「お前も、ティナさんに告白してないんだろ」
「なっ……」
レオンは顔を赤らめると絶句し、立ち尽くしてしまった。そして、一瞬で青ざめていく。
「知らないとでも思ったのか? 早く告って来いよ。ティナさんだって、待ってるかもしれないだろ」
「それを言うなら、ティニアさんだって」
「それはない。絶対にない。あいつ、俺の事は何とも思ってないよ。俺が横で寝ていたって恥じらいもしない。悔しいくらいにな」
自虐的な笑みが自然と浮かぶ。改めて、ティニアへの想いを再確認するアルベルトだった。
(それでも、傍に居られるなら、それだけで十分なんだ……)
「それで枕にしようと?」
「それは忘れてくれ!」
あらぬ誤解を慌てて解こうとすると、レオンは声をあげて笑った。思わぬレオンの笑みに、アルベルトも自然と笑みが零れていく。
「お前もそんな風に笑うんだな」
「ははは。すまない。あの子の事を、宜しくお願いします」
「それはフリージアのことか?」
「ええ。そうですね……」
余りに、歯切れが悪い。
「ああそうか。お前、女苦手だもんな」
「そんなことまで、バレていましたか」
「お前がティナさんの前で挙動不審なのは、別なんだろ」
赤面するレオンに対し、アルベルトは再び意地悪な笑みを浮かべる。
「ティニアに対しても普通に接するのは、ちょっと面白くないな」
「ええ! それはティニアさんが診療所で働く仲間だからですよ?」
「そういう事にしておいてやる。いくらなんでも他の奴に奪われるのだけは、ごめんだよ」
「それについては同感です」
レオンは何度も頷くと、悪戯そうに笑みを浮かべる。二人は笑いあうとアルベルトはレオンにエールを送った。
「お前も、再会できたら食事にでも誘っておけよ」
「アルベルト」
「なんだよ」
「君も、頑張れ」
「余計なお世話だ」
雨は上がり、屋根から滴り落ちる雫の音が、笑い声の中に混ざると、空を喰らていた雲が解かれて光が差し込んだ。
奇妙な親子、一家となったティニア、アルベルト、そしてフリージアは仲良く診療所を後にしたのだった。
アルベルトの腕には小さな椅子が抱えられており、その椅子が少女への最初のプレゼントになるとは、作成したアルベルト本人にとっても予想外の事であった。
「なんだかんだ、打ち解けられそうですね」
安堵したレオンに、アルベルトがその問いを投げかける。
「なんだよ、話って。あ、もしかしてさっきの小言か? あれは本当に何でもないんだ」
「いえ、そうではなく。良かったのですか? せっかく二人で暮らしていたというのに」
「ああ。まあ、俺が居候しているだけなのは事実だからな。拒否権はないさ」
「そうではなく。告白もまだなのでしょう?」
告白という言葉に、一瞬たじろいでしまう。アルベルトは悪戯そうな笑みを浮かべると、別の事を指摘し始めた。
「お前も、ティナさんに告白してないんだろ」
「なっ……」
レオンは顔を赤らめると絶句し、立ち尽くしてしまった。そして、一瞬で青ざめていく。
「知らないとでも思ったのか? 早く告って来いよ。ティナさんだって、待ってるかもしれないだろ」
「それを言うなら、ティニアさんだって」
「それはない。絶対にない。あいつ、俺の事は何とも思ってないよ。俺が横で寝ていたって恥じらいもしない。悔しいくらいにな」
自虐的な笑みが自然と浮かぶ。改めて、ティニアへの想いを再確認するアルベルトだった。
(それでも、傍に居られるなら、それだけで十分なんだ……)
「それで枕にしようと?」
「それは忘れてくれ!」
あらぬ誤解を慌てて解こうとすると、レオンは声をあげて笑った。思わぬレオンの笑みに、アルベルトも自然と笑みが零れていく。
「お前もそんな風に笑うんだな」
「ははは。すまない。あの子の事を、宜しくお願いします」
「それはフリージアのことか?」
「ええ。そうですね……」
余りに、歯切れが悪い。
「ああそうか。お前、女苦手だもんな」
「そんなことまで、バレていましたか」
「お前がティナさんの前で挙動不審なのは、別なんだろ」
赤面するレオンに対し、アルベルトは再び意地悪な笑みを浮かべる。
「ティニアに対しても普通に接するのは、ちょっと面白くないな」
「ええ! それはティニアさんが診療所で働く仲間だからですよ?」
「そういう事にしておいてやる。いくらなんでも他の奴に奪われるのだけは、ごめんだよ」
「それについては同感です」
レオンは何度も頷くと、悪戯そうに笑みを浮かべる。二人は笑いあうとアルベルトはレオンにエールを送った。
「お前も、再会できたら食事にでも誘っておけよ」
「アルベルト」
「なんだよ」
「君も、頑張れ」
「余計なお世話だ」
雨は上がり、屋根から滴り落ちる雫の音が、笑い声の中に混ざると、空を喰らていた雲が解かれて光が差し込んだ。
奇妙な親子、一家となったティニア、アルベルト、そしてフリージアは仲良く診療所を後にしたのだった。
アルベルトの腕には小さな椅子が抱えられており、その椅子が少女への最初のプレゼントになるとは、作成したアルベルト本人にとっても予想外の事であった。
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