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第10輪「白銀の涙を取り零ス」
⑩-9 フリージア②
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少女は指を指されたアルベルトを見つめると、トコトコとゆっくり歩み寄った。足取りは若干ふらついており、何もない床に躓き、転倒しそうになった。
「あ」
「危ない!」
ティニアやアルベルトより先に駆け寄ったのは傍にいたレオンであった。少女の足取りが覚束ないのを見ていたのだ。
「足元をよく見て、しっかりと足を上へ上げて歩くようにしてください」
「だっ、大丈夫?」
「落ち着いて、ゆっくり歩けば大丈夫だ」
「ごめんなさい。はい、大丈夫です。せんせいとおねえちゃん、おにいちゃん、ありがとう」
少女はレオンに頭を下げると、ティニアとアルベルトへ向かって笑顔で答えた。はにかむ少女は気を遣っているのだ。
「手を繋いで歩いていこうか。君も片手を持ってあげて」
「俺は身長差があるから、抱っこしていった方がいいんじゃないか?」
「それじゃあリハビリにならないよ。家に帰ったら、万が一に備えて帽子を作ってあげるから、念のために被っておこうね」
ティニアは少女の白い髪を撫でると、少女らしい自然な笑みを浮かべた。アルビノの少女は肌も青白く、腕は血管がくっきりと見える。
「それから、君の名前をどうするかですが……」
レオンの問いかけに、ティニアは即座に返答を返す。用意されていたかのように即座に返答し、それはアルベルトにとっても予想外であった。
「フリージア。君の名前は、フリージアだよ」
「フリージア……」
「白くて、可愛らしくて、いい香りのする花なの。僕はその花がとっても好きなんだ」
ティニアは本来、白いフリージアを好まない。アジア系の花を好み、香りの強くない花を好むというまたしても意に反する彼女の言動だ。
アルベルトは医師であるレオンも居る前で、あえて触れようとはしなかった。それでも心はざわつき、今すぐにでも否定して抱きしめたくなった。それを止めたのは、ティニアと少女の抱擁と、自身との比較だ。
ティニアは手で花の形を作って見せ、再び少女フリージアを優しくふわりと撫でた。しかし、愛らしい少女の視線はすぐにアルベルトへ向けられる。その視線に応えるかのように、アルベルトは丁寧に見えるようにお辞儀をした。
「よろしくな、フリージア。俺はアルベルトだ。なんだかんだ名乗ってない、こいつは……」
ティニアの名前について言い淀むアルベルトだったが、すぐにティニアがその名を名乗る。
「僕は、ティニアだよ。よろしくね」
「よろしくお願いいたします」
畏まった返事をして深い角度でお辞儀をするフリージアに、三人は異国の香りを感じ取った。フリージアはアジア風のお辞儀をするのだ。アジアから来た孤児であろうか。
「そんな畏まらなくていいよ。えっと、普通にしていていいからね?」
「そうだぞ。もう遠慮しないほうがいい。特にこいつの前ではな」
「そうそう、こいつの前ではのびのびするといいよ」
「お前なぁ……」
二人は誰の眼から見ても喧嘩ではなく、じゃれあいだ。二人のいつもの反応に安堵したレオンは、アルベルトを呼び止める。
「アル、ちょっといいかい」
「どうしたんだ」
「それじゃあ先生、お世話になりました。会計は後で支払いに来ますね。このところ何度もごめんね」
「おい、ちょっと待ってろって」
「じゃあ受付の前のソファーにいるよ。フリージア、行こう」
こくりと頷くフリージアは、その長い髪を揺らした。
「先生、ありがとうございました」
「……はい。念のために来週は検診にきてください。それから、具合が悪いと思ったらすぐに来ることです」
「はい」
二人は手を繋ぐと病室を後にした。その姿は宛ら親子のようであった。
「あ」
「危ない!」
ティニアやアルベルトより先に駆け寄ったのは傍にいたレオンであった。少女の足取りが覚束ないのを見ていたのだ。
「足元をよく見て、しっかりと足を上へ上げて歩くようにしてください」
「だっ、大丈夫?」
「落ち着いて、ゆっくり歩けば大丈夫だ」
「ごめんなさい。はい、大丈夫です。せんせいとおねえちゃん、おにいちゃん、ありがとう」
少女はレオンに頭を下げると、ティニアとアルベルトへ向かって笑顔で答えた。はにかむ少女は気を遣っているのだ。
「手を繋いで歩いていこうか。君も片手を持ってあげて」
「俺は身長差があるから、抱っこしていった方がいいんじゃないか?」
「それじゃあリハビリにならないよ。家に帰ったら、万が一に備えて帽子を作ってあげるから、念のために被っておこうね」
ティニアは少女の白い髪を撫でると、少女らしい自然な笑みを浮かべた。アルビノの少女は肌も青白く、腕は血管がくっきりと見える。
「それから、君の名前をどうするかですが……」
レオンの問いかけに、ティニアは即座に返答を返す。用意されていたかのように即座に返答し、それはアルベルトにとっても予想外であった。
「フリージア。君の名前は、フリージアだよ」
「フリージア……」
「白くて、可愛らしくて、いい香りのする花なの。僕はその花がとっても好きなんだ」
ティニアは本来、白いフリージアを好まない。アジア系の花を好み、香りの強くない花を好むというまたしても意に反する彼女の言動だ。
アルベルトは医師であるレオンも居る前で、あえて触れようとはしなかった。それでも心はざわつき、今すぐにでも否定して抱きしめたくなった。それを止めたのは、ティニアと少女の抱擁と、自身との比較だ。
ティニアは手で花の形を作って見せ、再び少女フリージアを優しくふわりと撫でた。しかし、愛らしい少女の視線はすぐにアルベルトへ向けられる。その視線に応えるかのように、アルベルトは丁寧に見えるようにお辞儀をした。
「よろしくな、フリージア。俺はアルベルトだ。なんだかんだ名乗ってない、こいつは……」
ティニアの名前について言い淀むアルベルトだったが、すぐにティニアがその名を名乗る。
「僕は、ティニアだよ。よろしくね」
「よろしくお願いいたします」
畏まった返事をして深い角度でお辞儀をするフリージアに、三人は異国の香りを感じ取った。フリージアはアジア風のお辞儀をするのだ。アジアから来た孤児であろうか。
「そんな畏まらなくていいよ。えっと、普通にしていていいからね?」
「そうだぞ。もう遠慮しないほうがいい。特にこいつの前ではな」
「そうそう、こいつの前ではのびのびするといいよ」
「お前なぁ……」
二人は誰の眼から見ても喧嘩ではなく、じゃれあいだ。二人のいつもの反応に安堵したレオンは、アルベルトを呼び止める。
「アル、ちょっといいかい」
「どうしたんだ」
「それじゃあ先生、お世話になりました。会計は後で支払いに来ますね。このところ何度もごめんね」
「おい、ちょっと待ってろって」
「じゃあ受付の前のソファーにいるよ。フリージア、行こう」
こくりと頷くフリージアは、その長い髪を揺らした。
「先生、ありがとうございました」
「……はい。念のために来週は検診にきてください。それから、具合が悪いと思ったらすぐに来ることです」
「はい」
二人は手を繋ぐと病室を後にした。その姿は宛ら親子のようであった。
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