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第10輪「白銀の涙を取り零ス」
⑩-6 夜汽車①
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アルベルトは柔らかな温かみを感じ、その微睡の虚ろから目を覚ました。目の前で寝息を立てて眠る女性を抱えたままなのだ。
「なんだ、これは…………」
一瞬で覚める頭で、状況を整理する。魘される彼女に寄り添い、抱き寄せたまま頭を撫でていた筈だ。落ち着いてく彼女の寝息を耳に当て、眠ってしまったというのだろうか。
あどけなく眠る女性はすうすうと寝息と立てている。美しく跳ねる金髪を撫でながら、そっと吸い込まれるように唇へ触れた。
「ん…………」
ティニアの声が漏れるのを聞いて、慌てて手を引いた。ティニアの美しい長いまつ毛がゆっくりと動き、青く輝く瞳の輪郭がはっきりとする。
「……あれ、起きたんだ。おはよう」
「起きたんだって……。寝てたのはお前だろ」
「いや。少し前に一度、目が覚めたよ」
隣で添い寝する男に違和感も感じず、そのままもう一度寝たというのだろうか。この腕を振りほどこうとは思わなかったのか。それ程までに、自分は男として見られていないのか。アルベルトの頭には様々な思いが巡っては消えていく。
「おい、体の具合は?」
「問題ないよ。ごめんね、よく覚えてないんだ。僕は倒れたの?」
「ああ。気を失ったから、診療所に……」
ゆっくりと髪をかき上げて起き上がる女性は襟元がはだけており、下に着ている下着の紐やレースが露わとなる。アルベルトは男であり、その胸元へ目を奪われてしまうのはどうしようもなかった。だが、その会話を忘れて黙り込んでしまい、ティニアは何故なのかがわからずに首を傾げ、更に胸元が露わになる。
「まだ寝ぼけてるの?」
「いや…………」
「眠れた?」
突拍子のない言葉に、気の抜けたアルベルトは自然とその唇へと視線をうつしてしまう。
「あ、ああ……。悪い、こんなとこで、寝てしまって」
「眠れてないんでしょ。少しは寝た方がいいよ。でも、僕が起き上がれないから、一回起きてもらえない?」
そこでアルベルトは、自分の体でティニアを拘束していたことを知り、慌てて起き上がった。アルベルトはシーツや布団を引っ張ってしまい、ティニアがバランスを崩す。
「わわっ」
「すまん!」
アルベルトは慌ててティニアの腰に手をついた。不覚にも、ティニアを至近距離で抱きしめる形となったのだ。
「わ。悪い! これは、その……」
「いきなり動き過ぎだよ。びっくりするじゃない」
目の前の、数センチに迫る瞳。そして、その唇から目が離せず、挙動不審のアルベルトの眼に、ティニアのまっさらな瞳が襲う。
「まだ、ぼんやりしてる?」
「え、いや。ああ、まあ……」
曖昧な返答をすると、ティニアは片膝を付くと、ゆっくりとベッドにしゃがみこんだ。そしてそのまま、無造作に前髪をかき上げると、アルベルトの額へ近づいた。触れた二人の額に、アルベルトは息を飲んだが、それはすぐに離されてしまった。
「まだちょっと熱っぽいね」
口づけを期待していたアルベルトは、目の前の女性が顔も赤らめず淡々と熱を測った上、冷静に判断したのに肩を落とした。それは寂しく、そして虚しく。過去にあった出来事を思い出すかのようだった。昔もこうやって誰かに熱を測られたのだ。母親だろうか。
「何度触れ合っても、熱が出るのは俺だけだ」
「うん?」
アルベルトは無意識にティニアを抱き寄せた。そのぬくもりには覚えがあり、そして悲しくもあった。そのままティニアの首筋に口を添わせるが、反応は一瞬だけであり、体を緊張させるだけだった。
「んんん。なに? 人肌が恋しいの?」
その言葉は、まさか首筋にキスをされたのだとは気付いていないかのようだ。それはティニアらしく、虚しくもある。
「人肌って、……どういう意味だよ」
「いや、僕は抱き枕か何かなのかなって思って」
「なんだよ、それ」
「だって。君は僕を抱き寄せたらすんなり寝ちゃうじゃない」
アルベルトは目を見開くと、その首筋から顔を離した。数センチ前の女性は、未だに頬を赤らめる事もなく、キョトンとした瞳で男をじっと見据える。
「そうだとしたら、どうする」
「どうするって? 僕を抱き枕にしてもいいかってこと?」
「察しがいいじゃないか」
「うーん」
ティニアは首を傾げるものの、淡々としており、そして意味がよくわかっていないかのようだ。
となれば、きっと。恐らく。彼女の回答はこうだ。
「君が眠れるなら、僕は構わないよ」
「なんだ、これは…………」
一瞬で覚める頭で、状況を整理する。魘される彼女に寄り添い、抱き寄せたまま頭を撫でていた筈だ。落ち着いてく彼女の寝息を耳に当て、眠ってしまったというのだろうか。
あどけなく眠る女性はすうすうと寝息と立てている。美しく跳ねる金髪を撫でながら、そっと吸い込まれるように唇へ触れた。
「ん…………」
ティニアの声が漏れるのを聞いて、慌てて手を引いた。ティニアの美しい長いまつ毛がゆっくりと動き、青く輝く瞳の輪郭がはっきりとする。
「……あれ、起きたんだ。おはよう」
「起きたんだって……。寝てたのはお前だろ」
「いや。少し前に一度、目が覚めたよ」
隣で添い寝する男に違和感も感じず、そのままもう一度寝たというのだろうか。この腕を振りほどこうとは思わなかったのか。それ程までに、自分は男として見られていないのか。アルベルトの頭には様々な思いが巡っては消えていく。
「おい、体の具合は?」
「問題ないよ。ごめんね、よく覚えてないんだ。僕は倒れたの?」
「ああ。気を失ったから、診療所に……」
ゆっくりと髪をかき上げて起き上がる女性は襟元がはだけており、下に着ている下着の紐やレースが露わとなる。アルベルトは男であり、その胸元へ目を奪われてしまうのはどうしようもなかった。だが、その会話を忘れて黙り込んでしまい、ティニアは何故なのかがわからずに首を傾げ、更に胸元が露わになる。
「まだ寝ぼけてるの?」
「いや…………」
「眠れた?」
突拍子のない言葉に、気の抜けたアルベルトは自然とその唇へと視線をうつしてしまう。
「あ、ああ……。悪い、こんなとこで、寝てしまって」
「眠れてないんでしょ。少しは寝た方がいいよ。でも、僕が起き上がれないから、一回起きてもらえない?」
そこでアルベルトは、自分の体でティニアを拘束していたことを知り、慌てて起き上がった。アルベルトはシーツや布団を引っ張ってしまい、ティニアがバランスを崩す。
「わわっ」
「すまん!」
アルベルトは慌ててティニアの腰に手をついた。不覚にも、ティニアを至近距離で抱きしめる形となったのだ。
「わ。悪い! これは、その……」
「いきなり動き過ぎだよ。びっくりするじゃない」
目の前の、数センチに迫る瞳。そして、その唇から目が離せず、挙動不審のアルベルトの眼に、ティニアのまっさらな瞳が襲う。
「まだ、ぼんやりしてる?」
「え、いや。ああ、まあ……」
曖昧な返答をすると、ティニアは片膝を付くと、ゆっくりとベッドにしゃがみこんだ。そしてそのまま、無造作に前髪をかき上げると、アルベルトの額へ近づいた。触れた二人の額に、アルベルトは息を飲んだが、それはすぐに離されてしまった。
「まだちょっと熱っぽいね」
口づけを期待していたアルベルトは、目の前の女性が顔も赤らめず淡々と熱を測った上、冷静に判断したのに肩を落とした。それは寂しく、そして虚しく。過去にあった出来事を思い出すかのようだった。昔もこうやって誰かに熱を測られたのだ。母親だろうか。
「何度触れ合っても、熱が出るのは俺だけだ」
「うん?」
アルベルトは無意識にティニアを抱き寄せた。そのぬくもりには覚えがあり、そして悲しくもあった。そのままティニアの首筋に口を添わせるが、反応は一瞬だけであり、体を緊張させるだけだった。
「んんん。なに? 人肌が恋しいの?」
その言葉は、まさか首筋にキスをされたのだとは気付いていないかのようだ。それはティニアらしく、虚しくもある。
「人肌って、……どういう意味だよ」
「いや、僕は抱き枕か何かなのかなって思って」
「なんだよ、それ」
「だって。君は僕を抱き寄せたらすんなり寝ちゃうじゃない」
アルベルトは目を見開くと、その首筋から顔を離した。数センチ前の女性は、未だに頬を赤らめる事もなく、キョトンとした瞳で男をじっと見据える。
「そうだとしたら、どうする」
「どうするって? 僕を抱き枕にしてもいいかってこと?」
「察しがいいじゃないか」
「うーん」
ティニアは首を傾げるものの、淡々としており、そして意味がよくわかっていないかのようだ。
となれば、きっと。恐らく。彼女の回答はこうだ。
「君が眠れるなら、僕は構わないよ」
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