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第10輪「白銀の涙を取り零ス」
⑩-5 漂泊者のうた③
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「……待って。最初から、改造される目的で、レンは……。レンは犠牲になったというの?」
「そうだったとしか思えません。そして私と出会っても、私を巻き込まぬようにと何も言わなかったのでしょう。私が人造人間に改造されるのを止められなかったと、悔いていましたから」
「どうしてそんな惨い事をしてまで、力を得ようとしていたの?」
惨いなんてものではない。どうしてそこまでして、力を得ようとしていたのか。マリアには理解できない。
「そこまでは、わかりません。ただ、生まれ変わった少年のレンは変わらない優しさを見せていました。大人の目を盗んでは、私を気に掛けてくれ、よく食べ物を分けてくれていました。彼女の自己犠牲と優しさ。その危うさに、何かあるのではないかと考えています。レンは私だけでなく、他の子どもたちにも食べ物を分け与えていましたから」
「だからレンは、あんなにも小さく、酷く痩せていたのね」
「……あの時の私には全てが信じられず、受け止められなかった。当時の私には前世が記憶は無く、その存在を信じたことも有りませんでした。もっと早く受け入れていたら、レンだけではなく、ラウルの力になれたのかもしれません」
「その時のレイスは幼かったのでしょう? だったら、仕方のない事だわ。……今は、前世の記憶があるの?」
「……はい。ラウルの眼を読み取り、全てを思い出しましたから」
「眼を読み取るって……。まさかラウルの右眼にある、レンの眼のこと?」
「そこまで知っていたのですね」
そこでマリアは、ミュラー夫妻から聞いた話を。ラウルは昔、狂わされていた事、レンの前世はラウルの眼を破壊する事でラウルを止めたこと。レンは深手を負いながら、その眼をラウルに移すことでラウルを助けたこと。そして、ラウルのオッドアイの右眼は、レンの金目であるという事を話したのだった。
◇◇◇
「そうですか。ミュラー夫妻は、アレン財団はそこまで把握していたのですか。そうです、ラウルの右眼、あの金目はレンの、精霊のような存在であったレンの眼です。その力によって、私は記憶を取り戻しました」
もはやマリアの想像をはるかに超えていた。アルベルトは、これらを信じられるのだろうか。
恐ろしい人造人間などという存在を作り出す技術。そして惨たらしい魂の研究も、レスティン・フェレスの知識なのだろうか。それとも、人間の傲りが発展した実験や研究だというのか。それでも、人道から外れたことはあってよいものであろうか。そんな非人道的なことが許されて良いはずはない。
マリアは憤り、そして力になれなかった自身への無力さを感じた。
「何なの? その、奴らの組織は……」
ティナはマリアをじっと見据える。やはり、ティナは全てを知っていたのだ。
「レスティン・フェレスの黒龍という、竜を信仰する組織です。彼らは、アンチ・ニミアゼル。そう語っていました」
「アンチ・ニミアゼル?」
「ニミアゼルとは、レスティン・フェレスの女神に仕えた聖女の事です。そして、その女神と相対していたのが、黒龍だといいます」
「黒龍……」
ティナは静かに頷く。そして、窓の向こうに広がる空を眺めると、ポツリとその言葉を零した。
「黒龍とは、レスティン・フェレスの空に浮かぶ、巨大な月の幻影のことです」
月の幻影。その言葉は、末恐ろしく、そして身近に感じられる。
「そうだったとしか思えません。そして私と出会っても、私を巻き込まぬようにと何も言わなかったのでしょう。私が人造人間に改造されるのを止められなかったと、悔いていましたから」
「どうしてそんな惨い事をしてまで、力を得ようとしていたの?」
惨いなんてものではない。どうしてそこまでして、力を得ようとしていたのか。マリアには理解できない。
「そこまでは、わかりません。ただ、生まれ変わった少年のレンは変わらない優しさを見せていました。大人の目を盗んでは、私を気に掛けてくれ、よく食べ物を分けてくれていました。彼女の自己犠牲と優しさ。その危うさに、何かあるのではないかと考えています。レンは私だけでなく、他の子どもたちにも食べ物を分け与えていましたから」
「だからレンは、あんなにも小さく、酷く痩せていたのね」
「……あの時の私には全てが信じられず、受け止められなかった。当時の私には前世が記憶は無く、その存在を信じたことも有りませんでした。もっと早く受け入れていたら、レンだけではなく、ラウルの力になれたのかもしれません」
「その時のレイスは幼かったのでしょう? だったら、仕方のない事だわ。……今は、前世の記憶があるの?」
「……はい。ラウルの眼を読み取り、全てを思い出しましたから」
「眼を読み取るって……。まさかラウルの右眼にある、レンの眼のこと?」
「そこまで知っていたのですね」
そこでマリアは、ミュラー夫妻から聞いた話を。ラウルは昔、狂わされていた事、レンの前世はラウルの眼を破壊する事でラウルを止めたこと。レンは深手を負いながら、その眼をラウルに移すことでラウルを助けたこと。そして、ラウルのオッドアイの右眼は、レンの金目であるという事を話したのだった。
◇◇◇
「そうですか。ミュラー夫妻は、アレン財団はそこまで把握していたのですか。そうです、ラウルの右眼、あの金目はレンの、精霊のような存在であったレンの眼です。その力によって、私は記憶を取り戻しました」
もはやマリアの想像をはるかに超えていた。アルベルトは、これらを信じられるのだろうか。
恐ろしい人造人間などという存在を作り出す技術。そして惨たらしい魂の研究も、レスティン・フェレスの知識なのだろうか。それとも、人間の傲りが発展した実験や研究だというのか。それでも、人道から外れたことはあってよいものであろうか。そんな非人道的なことが許されて良いはずはない。
マリアは憤り、そして力になれなかった自身への無力さを感じた。
「何なの? その、奴らの組織は……」
ティナはマリアをじっと見据える。やはり、ティナは全てを知っていたのだ。
「レスティン・フェレスの黒龍という、竜を信仰する組織です。彼らは、アンチ・ニミアゼル。そう語っていました」
「アンチ・ニミアゼル?」
「ニミアゼルとは、レスティン・フェレスの女神に仕えた聖女の事です。そして、その女神と相対していたのが、黒龍だといいます」
「黒龍……」
ティナは静かに頷く。そして、窓の向こうに広がる空を眺めると、ポツリとその言葉を零した。
「黒龍とは、レスティン・フェレスの空に浮かぶ、巨大な月の幻影のことです」
月の幻影。その言葉は、末恐ろしく、そして身近に感じられる。
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