173 / 257
第10輪「白銀の涙を取り零ス」
⑩-4 漂泊者のうた②
しおりを挟む
「そうだと思います。私は戦闘時、運悪くコアを撃ち抜かれ、その衝撃から記録を再生できなくなり、ショックであのような状態になっていたのだと思うのです。でなければ、その間の記憶がある筈ですから」
「コア……」
「コアと魂は同一、私の魂そのものなのです。よって修復は不可能です。私はいずれ、ラウルのように狂ってしまうかもしれませんし、壊れて動かなくなるかもしれません」
「そんなの嫌よ。どうにかならないの?」
「わかりません。以前の、精霊のレンであれば、何か出来たのかもしれません。でも、今のレンを責めたくはありません」
ティナが、レイスが壊れてしまうというのか。そうなってしまえば、自分はまた一人ぼっちになってしまう。マリアは自分よがりな考えを振り払い、冷静に返答を、言葉を選び出した。
「私とティナの信号、コードは敵組織には知られていないのよね」
「はい。私と貴女のコードは随分前に抜いてあります。捕捉はされることはありませんが、貴女に連絡を取る事も出来ませんでした。ただ、今のティニアが何のために存在しているのかは、私にもわかりません。存在意義も不明です。敵対していると明確に表現しない以上、敵ではないと判断できますが、そこだけは注意するようにしてください。それから、重ねて謝罪します。マリア、ごめんなさい」
ティナは深々と頭を下げてお辞儀をすると、すぐに目線を上げた。思いつめた表情からは、後悔の念が滲み出ている。
「レンはあの後、私が逃げた後にどうなったの」
「ここからは推測に過ぎません。それでもよければ」
「話して。それか、ラウルを問い詰めればいいのね」
「ラウルはまだ、彼らの、敵の組織に所属している筈です。拠点をどれだけ破壊できているのかはわかりませんが、まだ素性を知られてはいけないのでしょう。でなければ、私たちに連絡を取る筈です。そう云った事から、ラウルに接触するのは危険なのです、マリア」
「…………推測を話して」
ティナは目を閉じて深く深呼吸すると、その青い瞳をマリアへ向け直した。どこか迷いのある瞳だ。
「拠点では、人造人形を廃棄処分後に再利用し、再構築が成されていました」
「さ、再利用?」
「コアを抜き取り、別の体に埋め替えるのです。彼らはコア=魂の研究をしていましたので、実験体の魂が戻らなかった体に、人形の再利用のコアを埋め込んで新たに人形として使っていたのです。拠点に居たレイリーを覚えていますか? 娘の蘇生を願っていた彼は、奴らに良いように使われてしまいました」
「…………」
マリアはその恐ろしい再利用を聞き、鳥肌以上のものを感じ取った。命を、魂を何だと思っている連中であるのか。怒りが込み上げ、自然と手足に力が込み上げる。
「じゃあ、レンは…………」
「恐らく、人工的に作った私の前世を模した肉体で魂をおろそうとしたのでしょう。ですが、肝心の私はレイスとして生きていました。存在している魂、コアが肉体に降臨することはありません。困った彼らは、廃棄処分となっていたレンのコアを埋め込んだ。ですから体だけが別で、レンの魂であるコアが宿った。レンは本人の意思に関係なく、ティニアとして生まれ変わったのだと」
「そんな、何の為に……」
「それは、私にもわかりません……」
そんな事が可能であるというのだろうか。それでなくては説明のつかぬ事だ。レンはティニアになった。レンは、あのアルビノの少年は、本当に死んでしまったというのか。
「ここで、もう一つの推測があります。それは、レンの正体がバレていたということ」
「レンの正体って。まさか、精霊だっていう?」
「それもあるでしょう。死期を悟ったレンは、ただの人間として生まれ変われば無力ではあるものの、人造人間に改造されればすぐに力を得られると、自ら志願して人買いに売られ、改造されたのです」
「敵の拠点を内部から暴くという目的もあったのよね」
「そうです。少年だったレンを連れてきたのは、ラウルでした。二人で計画、拠点のを破壊するということが、バレていた可能性があります」
マリアは頭を抱えるしか出来なかった。激しい重みを、頭の締め付けられる感覚に陥った。レンは、ティニアはそんなにも辛い現実を生きていたというのか。そこで一つの疑問が浮かび上がる。
「コア……」
「コアと魂は同一、私の魂そのものなのです。よって修復は不可能です。私はいずれ、ラウルのように狂ってしまうかもしれませんし、壊れて動かなくなるかもしれません」
「そんなの嫌よ。どうにかならないの?」
「わかりません。以前の、精霊のレンであれば、何か出来たのかもしれません。でも、今のレンを責めたくはありません」
ティナが、レイスが壊れてしまうというのか。そうなってしまえば、自分はまた一人ぼっちになってしまう。マリアは自分よがりな考えを振り払い、冷静に返答を、言葉を選び出した。
「私とティナの信号、コードは敵組織には知られていないのよね」
「はい。私と貴女のコードは随分前に抜いてあります。捕捉はされることはありませんが、貴女に連絡を取る事も出来ませんでした。ただ、今のティニアが何のために存在しているのかは、私にもわかりません。存在意義も不明です。敵対していると明確に表現しない以上、敵ではないと判断できますが、そこだけは注意するようにしてください。それから、重ねて謝罪します。マリア、ごめんなさい」
ティナは深々と頭を下げてお辞儀をすると、すぐに目線を上げた。思いつめた表情からは、後悔の念が滲み出ている。
「レンはあの後、私が逃げた後にどうなったの」
「ここからは推測に過ぎません。それでもよければ」
「話して。それか、ラウルを問い詰めればいいのね」
「ラウルはまだ、彼らの、敵の組織に所属している筈です。拠点をどれだけ破壊できているのかはわかりませんが、まだ素性を知られてはいけないのでしょう。でなければ、私たちに連絡を取る筈です。そう云った事から、ラウルに接触するのは危険なのです、マリア」
「…………推測を話して」
ティナは目を閉じて深く深呼吸すると、その青い瞳をマリアへ向け直した。どこか迷いのある瞳だ。
「拠点では、人造人形を廃棄処分後に再利用し、再構築が成されていました」
「さ、再利用?」
「コアを抜き取り、別の体に埋め替えるのです。彼らはコア=魂の研究をしていましたので、実験体の魂が戻らなかった体に、人形の再利用のコアを埋め込んで新たに人形として使っていたのです。拠点に居たレイリーを覚えていますか? 娘の蘇生を願っていた彼は、奴らに良いように使われてしまいました」
「…………」
マリアはその恐ろしい再利用を聞き、鳥肌以上のものを感じ取った。命を、魂を何だと思っている連中であるのか。怒りが込み上げ、自然と手足に力が込み上げる。
「じゃあ、レンは…………」
「恐らく、人工的に作った私の前世を模した肉体で魂をおろそうとしたのでしょう。ですが、肝心の私はレイスとして生きていました。存在している魂、コアが肉体に降臨することはありません。困った彼らは、廃棄処分となっていたレンのコアを埋め込んだ。ですから体だけが別で、レンの魂であるコアが宿った。レンは本人の意思に関係なく、ティニアとして生まれ変わったのだと」
「そんな、何の為に……」
「それは、私にもわかりません……」
そんな事が可能であるというのだろうか。それでなくては説明のつかぬ事だ。レンはティニアになった。レンは、あのアルビノの少年は、本当に死んでしまったというのか。
「ここで、もう一つの推測があります。それは、レンの正体がバレていたということ」
「レンの正体って。まさか、精霊だっていう?」
「それもあるでしょう。死期を悟ったレンは、ただの人間として生まれ変われば無力ではあるものの、人造人間に改造されればすぐに力を得られると、自ら志願して人買いに売られ、改造されたのです」
「敵の拠点を内部から暴くという目的もあったのよね」
「そうです。少年だったレンを連れてきたのは、ラウルでした。二人で計画、拠点のを破壊するということが、バレていた可能性があります」
マリアは頭を抱えるしか出来なかった。激しい重みを、頭の締め付けられる感覚に陥った。レンは、ティニアはそんなにも辛い現実を生きていたというのか。そこで一つの疑問が浮かび上がる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる