【完結】暁の荒野

Lesewolf

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第10輪「白銀の涙を取り零ス」

⑩-4 漂泊者のうた②

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「そうだと思います。私は戦闘時、運悪くコアを撃ち抜かれ、その衝撃から記録を再生できなくなり、ショックであのような状態になっていたのだと思うのです。でなければ、その間の記憶がある筈ですから」
「コア……」
「コアと魂は同一、私の魂そのものなのです。よって修復は不可能です。私はいずれ、ラウルのように狂ってしまうかもしれませんし、壊れて動かなくなるかもしれません」
「そんなの嫌よ。どうにかならないの?」
「わかりません。以前の、精霊のレンであれば、何か出来たのかもしれません。でも、今のレンを責めたくはありません」


 ティナが、レイスが壊れてしまうというのか。そうなってしまえば、自分はまた一人ぼっちになってしまう。マリアは自分よがりな考えを振り払い、冷静に返答を、言葉を選び出した。

「私とティナの信号、コードは敵組織には知られていないのよね」
「はい。私と貴女のコードは随分前に抜いてあります。捕捉はされることはありませんが、貴女に連絡を取る事も出来ませんでした。ただ、今のティニアが何のために存在しているのかは、私にもわかりません。存在意義も不明です。敵対していると明確に表現しない以上、敵ではないと判断できますが、そこだけは注意するようにしてください。それから、重ねて謝罪します。マリア、ごめんなさい」

 ティナは深々と頭を下げてお辞儀をすると、すぐに目線を上げた。思いつめた表情からは、後悔の念が滲み出ている。

「レンはあの後、私が逃げた後にどうなったの」
「ここからは推測に過ぎません。それでもよければ」
「話して。それか、ラウルを問い詰めればいいのね」
「ラウルはまだ、彼らの、敵の組織に所属している筈です。拠点をどれだけ破壊できているのかはわかりませんが、まだ素性を知られてはいけないのでしょう。でなければ、私たちに連絡を取る筈です。そう云った事から、ラウルに接触するのは危険なのです、マリア」
「…………推測を話して」

 ティナは目を閉じて深く深呼吸すると、その青い瞳をマリアへ向け直した。どこか迷いのある瞳だ。

「拠点では、人造人形を廃棄処分後に再利用し、再構築が成されていました」
「さ、再利用?」
「コアを抜き取り、別の体に埋め替えるのです。彼らはコア=魂の研究をしていましたので、実験体の魂が戻らなかった体に、人形の再利用のコアを埋め込んで新たに人形として使っていたのです。拠点に居たレイリーを覚えていますか? 娘の蘇生を願っていた彼は、奴らに良いように使われてしまいました」
「…………」

 マリアはその恐ろしい再利用を聞き、鳥肌以上のものを感じ取った。命を、魂を何だと思っている連中であるのか。怒りが込み上げ、自然と手足に力が込み上げる。

「じゃあ、レンは…………」
「恐らく、人工的に作った私の前世を模した肉体で魂をおろそうとしたのでしょう。ですが、肝心のはレイスとして生きていました。存在している魂、コアが肉体に降臨することはありません。困った彼らは、廃棄処分となっていたレンのコアを埋め込んだ。ですから体だけが別で、レンの魂であるコアが宿った。レンは本人の意思に関係なく、ティニアとして生まれ変わったのだと」
「そんな、何の為に……」
「それは、私にもわかりません……」

 そんな事が可能であるというのだろうか。それでなくては説明のつかぬ事だ。レンはティニアになった。レンは、あのアルビノの少年は、本当に死んでしまったというのか。

「ここで、もう一つの推測があります。それは、レンの正体がバレていたということ」
「レンの正体って。まさか、精霊だっていう?」
「それもあるでしょう。死期を悟ったレンは、ただの人間として生まれ変われば無力ではあるものの、人造人間に改造されればすぐに力を得られると、自ら志願して人買いに売られ、改造されたのです」
「敵の拠点を内部から暴くという目的もあったのよね」
「そうです。少年だったレンを連れてきたのは、ラウルでした。二人で計画、拠点のを破壊するということが、バレていた可能性があります」

 マリアは頭を抱えるしか出来なかった。激しい重みを、頭の締め付けられる感覚に陥った。レンは、ティニアはそんなにも辛い現実を生きていたというのか。そこで一つの疑問が浮かび上がる。
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