【完結】暁の荒野

Lesewolf

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第10輪「白銀の涙を取り零ス」

⑩-3 漂泊者のうた①

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 朱色の髪を揺らし、そして瞳孔が見開くほど目を開き、マリアは呆然と口を開けたまま立ち尽くしている。そのままの状態で数秒の時間が無意識に過ぎ去ったところで、マリアは改めて目の前の金髪碧眼の美しい女性を見つめていた。

「どういうことなの、貴女がティニアって……。ただ、名前が同じだけ?」
「…………」
「ねえ、ティナ。ううん、レイス。名前の多い貴女だから、何かの間違いよね。どういうこと?」

 ティナはゆっくりと首を横に振るう。力なく項垂れながら、ティナはその過去を語る。

「私は幾度となく生まれ変わっては姿と名前を変え、生きてきました。そして、最初の私の名はティニアという機械人形であり、壊れて死にました。そして人間に生まれ変わり、詩阿しあという名を授かりました。そして、また死に、生まれ変わった私はこの地球で生後間もなく売られ、人造人間に改造され、レイスと名付けられました。その私は今、ティナとして生きています」

 淡々と語る普段とは違い、一字一句に感情をこめて放つ言葉には偽りなど感じられない。元々冗談などいう人柄ではないのだ。嘘である筈がない。

「ティナは、レイスの前世が詩阿で、詩阿の前世がティニアって機械人形こと……?」
「はい。私は何度も転生を繰り返しています。そして、何度もレンと出会いました」

 レンとティナの因縁は、それほどまでに遠く近いものだとでもいうのか。マリアは動揺した上でそれを口にする。

「まって。じゃあ、レンは? アルビノの少年が、どうしてティニアになったのよ。あのティニアは、なに?」

 それは、数日前にアルベルトがミュラー夫妻に問いかけた発言と同じであった。マリアにはそれしか思いつかなかったのだ。言葉を選ぼうとも、その質問が避けられることはない。

「アルビノであったレンは、1882年まで生きていた精霊に近い存在のレンではありません。精霊だったレンは亡くなり、人間に生まれ変わると宣言し、宣言通り人間へ生まれ変わりました。そして偶然にも、私と一緒に人造人間に改造されたのです。」
「そんな事が可能なの?」
「彼女は言っていました。物理法則は自分へは通用しないのだと」

 それはティニアであるレンの口癖。やはり同一人物だというのか。

「それが、精霊に近い存在の力だっていうのね」
「そうでなければ説明がつきません。レンは最初、私に何もいいませんでした。私も記憶などなく、最初は何もわからなかったのです。人造人間に改造され、力を得た後に、全てを聞きました。そして、ティニアとして生きた時代の弟、ラウルとも再会を果たしました。その時のレンは、アルビノの少年であったレンです」
「レンにも前世があって、人間に生まれ変わって、そして改造されてしまったというの。じゃあ……、最初の精霊の時代が、元は遠い世界にあるレスティン・フェレスだったっていうの?」
「はい」

 断言したティナは俯き、歯を食いしばる。言葉を選び、そしてその重みを十分に嚙み殺す。それはまるで、のように。

「レンは、あの少年はすぐにラウルとペアを組み、様々な拠点で活動を開始しました。人道的ではない活動です」
「それが、奴らの組織なのね」
「はい。レンたちは、私には何もしないように伝え、秘密裏に組織を攪乱させると、拠点を内部から破壊していったのです。組織がほとんど壊滅状態になったとき、私をアレン財団の一部である組織に奪取させました。それが、前に話した件です」
「二人が非人道的な活動をしていたとは思えないわ。でも、ティナは二人の企みによって、所長の拠点へ逃げることが出来たのね」
「はい。レンとラウルはその後も奴らの拠点に残り、破壊活動を行っていました。それから二人の名誉のために話しますが、表立った仕事は、ほぼほぼ失敗していたのです。全てと言ってもいいでしょう。二人は無能の烙印を組織に押され、結果的にレンの廃棄処分が決定した」
「それが、1936年のクリスマス……」

 更にティナは恐るべきその後を語る。重苦しい言葉は、彼女の葛藤を表すかのようだ。

「レンは廃棄処分が下り、脳が焼き切れる形で、脳のコアを破壊されたことで、……死にました。それは遠隔操作でしたので、どうしても拒めなかった。いくらラウルの為とはいえ、彼の絶望は計り知れません」
「酷い……。なんて奴らなの」
「ラウルと私は、レンの体を回収して拠点を後にしたのですが、ラウルにある命令が下りました」
「命令?」

 とてつもなく嫌な予感を感じ、マリアの全身には緊張が走る。呼吸の仕方を忘れ、浅く繰り返す。

「それはレンの体を回収し、至急戻ること、でした」
「……レンの体を……………………」

 ありえない。人道から外れたその発想に、マリアは言葉を詰まらせる。言葉を繰り返すだけで精一杯であり、その壮絶な転生に言葉もない。

「ラウルはそれを拒もうとしたのですが、それではレンがラウルを守ろうと破壊された意味がありません。私はラウルを説得していたのですが、その間に組織の者が、ラウルに接触してきたのです」
「なんですって……」
「私は彼らにとって、敵でなければなりません。咄嗟にラウルに銃口を向け、撃ち合う場面を作ったのですが、私はラウルからではない銃弾に撃ち抜かれ、咄嗟に海へと逃げ込みました」
「! それで、レオン先生に発見されて、保護されたっていうの?」

 聞いた話では、ティナは海岸に漂着しており、衰弱したまま倒れていたところを診療所の医師レオンに発見されていた。レオンはそれまでイタリアの病院に勤務しており、移動と共に引き取り手の居ないティナを連れ、シュタインアムラインへやってきたのだ。
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