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第八輪「モノクローム・エンド」
⑧-14 追憶のセレナーデ
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シュタインアムラインの診療所に勤務するレオンは、アドニス神父の急用の知らせを聞き、教会を訪れていた。血相を変えて診療所へ駈け込んできたアドニス神父の様子から、急いで往診道具の入った鞄だけを手にやってきたのだ。
「先生、お願いがあります!これについては、た、他言無用でお願いします! 兎に角、わ、私の自室へ」
「落ち着いてください、わかっています」
アドニスは珍しく焦りの表情で、駆け足で部屋へ向かった。
床には、血痕が数滴ずつ滴り落ちている。
「まさか…………」
最悪の事態を想定しつつ、レオンは焦る心を抑えアドニスの私室のドアをノックせずにあけた。中には、血相を変えたアドニスと、ティニアがうずくまりながら、少女を介抱していた。
そう、血だらけの少女の………………。
ティニアはまるで別人のように、青白い表情で少女を抱きしめると、レオンを見上げていた。
「先生。何も言わず、この子を助けて。お願い…………。今のぼくじゃ、もう、何もできない。止血しか……」
「ッ……!! 抱きしめていても、容態は安定しません。診療所まで運びましょう!」
ティニアの頬を涙が伝い、傷だらけの少女を更に抱きしめた。少女は白肌に白髪であり、アルビノと呼ぶべき存在であるものの、血色はかなり悪い。
「おねがい。ぼくじゃ、だめだ……」
ティニアの震える声には絶望と後悔が滲んでいる。彼女の両手は震えており、手を尽くした結果、どうしようもなくなりレオンに頼ったのだという推測は安易に想像できる。
「他言はしません。どうか安心して、僕に任せてください。……アドニスさんは早く清潔なタオルを!」
アドニスはティニアの様子に狼狽しているのか、少女の容態を気にしているのかは不明だが、激しく動揺したまま狼狽えている。
「アドニス神父! しっかりしてください」
「あ……。あ、はい。申し訳ありません。すぐに!」
アドニスは狼狽えているものの、多少の正気を取り戻すと襟を正し始めていた。
「ティニア、いいですか。この子を、僕に託してください」
「あ……」
ティニアは少女の血を体に纏ったまま、呆然と立ち尽くす。
「お、おねがい。この子を……。誰にも言わないで、お願い」
「わかっています。大丈夫ですよ、信じていただけませんか。私も、この子を救いたい」
「うん。お願い。お願いだよ、他言はしないで」
ティニアは震える手で少女を離し、少女はレオン医師の腕の中で浅い呼吸を繰り返す。
「ええ。わかっています。ティニアは血をローブで隠しながら、診療所へ来てください。そのまま外へ出れば、憲兵がやってきます」
「……わかった。着替えて、裏から出る」
レオンは少女をティニアから診療に抱き寄せた。込み上げる感情には、何故か喜ばしいものがある。
「うん、応急手当は出来ているようですね。さすがティニアです。ではいきますよ」
レオンは少女に自身の上着と、部屋にあったもう一対のローブで覆った。少女の鼓動を確認すると、裏口から診療所を目指し駆けだしたのだ。
足取りは、重圧がかかり、重い。
少女はやせ細っており、ティナの衰弱よりも酷い状態であった。それでも、医師としてだけではない思いを込め、レオンは少女を救わんとする。そして、シュタインアムラインの空が陰り、初夏の雨が降り出したのだ。
コツコツと屋根に当たりだした雨音は、酷く単調である。
「ぼくは、まっしろになれない。もうすべてが、まっくろで」
これは、誰の、何のための涙なのか。
「ぼくは、どうしたらいいんだ。アルブレヒト……」
誰も、何も知らないのだ。
「先生、お願いがあります!これについては、た、他言無用でお願いします! 兎に角、わ、私の自室へ」
「落ち着いてください、わかっています」
アドニスは珍しく焦りの表情で、駆け足で部屋へ向かった。
床には、血痕が数滴ずつ滴り落ちている。
「まさか…………」
最悪の事態を想定しつつ、レオンは焦る心を抑えアドニスの私室のドアをノックせずにあけた。中には、血相を変えたアドニスと、ティニアがうずくまりながら、少女を介抱していた。
そう、血だらけの少女の………………。
ティニアはまるで別人のように、青白い表情で少女を抱きしめると、レオンを見上げていた。
「先生。何も言わず、この子を助けて。お願い…………。今のぼくじゃ、もう、何もできない。止血しか……」
「ッ……!! 抱きしめていても、容態は安定しません。診療所まで運びましょう!」
ティニアの頬を涙が伝い、傷だらけの少女を更に抱きしめた。少女は白肌に白髪であり、アルビノと呼ぶべき存在であるものの、血色はかなり悪い。
「おねがい。ぼくじゃ、だめだ……」
ティニアの震える声には絶望と後悔が滲んでいる。彼女の両手は震えており、手を尽くした結果、どうしようもなくなりレオンに頼ったのだという推測は安易に想像できる。
「他言はしません。どうか安心して、僕に任せてください。……アドニスさんは早く清潔なタオルを!」
アドニスはティニアの様子に狼狽しているのか、少女の容態を気にしているのかは不明だが、激しく動揺したまま狼狽えている。
「アドニス神父! しっかりしてください」
「あ……。あ、はい。申し訳ありません。すぐに!」
アドニスは狼狽えているものの、多少の正気を取り戻すと襟を正し始めていた。
「ティニア、いいですか。この子を、僕に託してください」
「あ……」
ティニアは少女の血を体に纏ったまま、呆然と立ち尽くす。
「お、おねがい。この子を……。誰にも言わないで、お願い」
「わかっています。大丈夫ですよ、信じていただけませんか。私も、この子を救いたい」
「うん。お願い。お願いだよ、他言はしないで」
ティニアは震える手で少女を離し、少女はレオン医師の腕の中で浅い呼吸を繰り返す。
「ええ。わかっています。ティニアは血をローブで隠しながら、診療所へ来てください。そのまま外へ出れば、憲兵がやってきます」
「……わかった。着替えて、裏から出る」
レオンは少女をティニアから診療に抱き寄せた。込み上げる感情には、何故か喜ばしいものがある。
「うん、応急手当は出来ているようですね。さすがティニアです。ではいきますよ」
レオンは少女に自身の上着と、部屋にあったもう一対のローブで覆った。少女の鼓動を確認すると、裏口から診療所を目指し駆けだしたのだ。
足取りは、重圧がかかり、重い。
少女はやせ細っており、ティナの衰弱よりも酷い状態であった。それでも、医師としてだけではない思いを込め、レオンは少女を救わんとする。そして、シュタインアムラインの空が陰り、初夏の雨が降り出したのだ。
コツコツと屋根に当たりだした雨音は、酷く単調である。
「ぼくは、まっしろになれない。もうすべてが、まっくろで」
これは、誰の、何のための涙なのか。
「ぼくは、どうしたらいいんだ。アルブレヒト……」
誰も、何も知らないのだ。
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