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第八輪「モノクローム・エンド」
⑧-12 モノクロ④
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アルベルトは何も言わずに、ただただ目の前の夫妻を見つめた。ミランダに良からぬ想いと鳥肌を感じたマリアは息を飲みこむ。
「厳密には、俺たちも地球人ではない。長い時を経て地球人との混合ではあるが、レスティン・フェレスにあるルゼリア大陸。その北方の民、タウ族という部族民だったそうだ」
「タウ族……」
「俺たちは、レンの想い人の乗った船、戦艦に乗船していた者たちの末裔なんだ。レンの想い人も、レンと同様に精霊に近い存在で、長い時を生きられた。だから二人は再会を約束し、レンも旅立ちを見送ったんだ。でなければ、二人は二度と会うなど出来ないだろうな」
既に、マリアは言葉には出来なかった。想い人、という言葉にすらアルベルトは無反応だった。
ミランダの忠告を受けての行動なのかは、マリアにはわからない。二人は無言で、夫妻の話を聞くしか出来なかった。
「俺たちの祖、タウ族たちの乗った船は、地球では西暦600年頃に旅立ち、西暦720年頃に地球に到着した。その頃、地球では領土争いが激化しており、各地で紛争が絶えなかった。地球の地理や政治に関する知識もほとんどなく、彼らは困難の中で新たな生活を築かなければならなかった」
1200年以上もの昔の出来事だった。それは、二人の想像を安易に超えてしまっていた。
「祖たちは現地の、アスカニア家の祖である者たちに救われ、彼らと行動を共にしていた。アスカニア家は我等の、レスティン・フェレスの技術に触れることはなく、使おうともしなかった。そのまま行けば良かったんだが、西暦855年、レンの想い人が命を落とした。今でいうドイツの、エルベ川沿い、ハルツ山脈だった」
「そんな……。再会の約束してたんじゃないの?」
「レンは、それを知らないまま、ずっとレスティン・フェレスで帰還を待っていたんだ。片道で200年、500年もあれば余裕で帰還できると予定していたそうよ。それが予定の500年を過ぎても戻らず、さらに5年が経過した」
「………………」
それよりも更に、500年も孤独に過ごしたというのか。あまりに想像を絶している現実に、マリアは絶句するしかなかった。アルベルトも言葉を発することはなく、俯いてしまった。
「西暦1105年、レンは単身でレスティン・フェレスから地球へ渡った。精霊のレンは一瞬で渡れたけれど、その力のほとんどを使い切ったそうよ。でも、想い人は既にこの世の人ではなかった。それを教え、支援してくれていたのが、当時のバレンシュテット伯、オットー様。彼の息子が、アルブレヒト様。つまり、熊公だ」
「それが、11、いや12世紀か」
「そうだ」
アルベルトの問いに、強い口調で言い切るミランダは、いつになくキレている。
「レンはその後、アスカニア家である子孫の間を転々として、ずっとアスカニア家とともに居たわ。そして、プロイセン公国が建国された後の1748年、事件が起きた」
「事件?」
アルベルトがすぐさま反応し、顔を上げた。ミランダの見つめる瞳は揺らぎ、動揺を隠せずにいる。
「想い人とともに行動していた者が現れ、レンの住んでいた町を襲撃したの」
「な、んですって」
嫌な予感がする。マリアは手を強く握った。
「その者は気がおかしく、狂っていた。レンはその者をなんとか止めて、故障させたの。レンも相当の深手を負ったって聞いている」
「故障っていうと、そいつも人間ではないのか」
ミランダは笑みを浮かべつつ頷いた。
「別の意識によって操られていたその者は、そこで正気に戻り、レンに謝罪をしたそうよ。それでも、レンはその謝罪を受け入れず、犠牲者を追悼して背負うように求めたの」
「そいつの名は」
「ラウル・ジークフリートと呼ばれている、レスティン・フェレスで作られた人造人間よ」
「厳密には、俺たちも地球人ではない。長い時を経て地球人との混合ではあるが、レスティン・フェレスにあるルゼリア大陸。その北方の民、タウ族という部族民だったそうだ」
「タウ族……」
「俺たちは、レンの想い人の乗った船、戦艦に乗船していた者たちの末裔なんだ。レンの想い人も、レンと同様に精霊に近い存在で、長い時を生きられた。だから二人は再会を約束し、レンも旅立ちを見送ったんだ。でなければ、二人は二度と会うなど出来ないだろうな」
既に、マリアは言葉には出来なかった。想い人、という言葉にすらアルベルトは無反応だった。
ミランダの忠告を受けての行動なのかは、マリアにはわからない。二人は無言で、夫妻の話を聞くしか出来なかった。
「俺たちの祖、タウ族たちの乗った船は、地球では西暦600年頃に旅立ち、西暦720年頃に地球に到着した。その頃、地球では領土争いが激化しており、各地で紛争が絶えなかった。地球の地理や政治に関する知識もほとんどなく、彼らは困難の中で新たな生活を築かなければならなかった」
1200年以上もの昔の出来事だった。それは、二人の想像を安易に超えてしまっていた。
「祖たちは現地の、アスカニア家の祖である者たちに救われ、彼らと行動を共にしていた。アスカニア家は我等の、レスティン・フェレスの技術に触れることはなく、使おうともしなかった。そのまま行けば良かったんだが、西暦855年、レンの想い人が命を落とした。今でいうドイツの、エルベ川沿い、ハルツ山脈だった」
「そんな……。再会の約束してたんじゃないの?」
「レンは、それを知らないまま、ずっとレスティン・フェレスで帰還を待っていたんだ。片道で200年、500年もあれば余裕で帰還できると予定していたそうよ。それが予定の500年を過ぎても戻らず、さらに5年が経過した」
「………………」
それよりも更に、500年も孤独に過ごしたというのか。あまりに想像を絶している現実に、マリアは絶句するしかなかった。アルベルトも言葉を発することはなく、俯いてしまった。
「西暦1105年、レンは単身でレスティン・フェレスから地球へ渡った。精霊のレンは一瞬で渡れたけれど、その力のほとんどを使い切ったそうよ。でも、想い人は既にこの世の人ではなかった。それを教え、支援してくれていたのが、当時のバレンシュテット伯、オットー様。彼の息子が、アルブレヒト様。つまり、熊公だ」
「それが、11、いや12世紀か」
「そうだ」
アルベルトの問いに、強い口調で言い切るミランダは、いつになくキレている。
「レンはその後、アスカニア家である子孫の間を転々として、ずっとアスカニア家とともに居たわ。そして、プロイセン公国が建国された後の1748年、事件が起きた」
「事件?」
アルベルトがすぐさま反応し、顔を上げた。ミランダの見つめる瞳は揺らぎ、動揺を隠せずにいる。
「想い人とともに行動していた者が現れ、レンの住んでいた町を襲撃したの」
「な、んですって」
嫌な予感がする。マリアは手を強く握った。
「その者は気がおかしく、狂っていた。レンはその者をなんとか止めて、故障させたの。レンも相当の深手を負ったって聞いている」
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ミランダは笑みを浮かべつつ頷いた。
「別の意識によって操られていたその者は、そこで正気に戻り、レンに謝罪をしたそうよ。それでも、レンはその謝罪を受け入れず、犠牲者を追悼して背負うように求めたの」
「そいつの名は」
「ラウル・ジークフリートと呼ばれている、レスティン・フェレスで作られた人造人間よ」
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