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第八輪「モノクローム・エンド」
⑧-4 真相には紫雲英を添えて④
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もしもアルベルトの孤児院でも、同じことが行われていたとしたら。アルベルトも改造され、人造人間にされていたのではないか。そう頭を過ぎるのは、無意識ではない。
「孤児や子供は、どこで集められていたの」
「それこそ、世界各地からです。大戦時は、喜んで金銭で子供を売ってきた、奴らはそう話していました」
「買う奴らがいなければ、売る親だっていないでしょうに!」
孤児院の孤児たちを見ていればわかる。皆、何の罪もなく。ただただ親から引き離され、ティニアによって集められ、保護された子たちだ。いい子しかいないのだ。
「大丈夫?」
「大丈夫ではないけれど、大丈夫。奴らの拠点は、まだ他にもあるのね」
「レンが廃棄処分されたことで、ラウルも躍起になって破壊したでしょうから、もうほとんど残っていないかもしれません」
「廃棄って、本当に処分されてしまったの……?」
信じられないと言わんばかりに、マリアはティナへ迫った。ティナは視線を逸らすと、自らの腕を強く掴んだ。
「それは…………」
「もう、隠すなんてやめて」
「………………」
「私、もう判っているから」
マリアはそうティナへ声をかけると、一枚の写真を取り出した。そこには、一昨日行われた、ティニアの誕生会の写真があった。
「この中に、レンがいる」
ティナは写真を見ることなく、目を閉じたまま深く呼吸を繰り返した。
「判ってるの。ティナも、レイスも辛いって。でも、これが現実なのでしょう」
「目を背けないで、ティナ姉さま」
「マリア……」
ティナは瞼をゆっくりと開くと、その長いまつ毛を濡らした。頬を、止めどなく、涙が零れ落ちていく。
「ティナ。この中に、レンがいる。そうでしょう」
ティナは静かに頷くと、写真を手に取った。細い指が震えており、写真がひしゃげてしまった。
「ごめんなさい。写真が」
「ううん。いいのよ」
ティナは、静かに呼吸をすると、震えた声で、その名を口にした。
「レンは、ティニアさんだと思います」
判っていた事だった。そう、判っていたのだ。
少年が、あの時のアルビノの少年が、レンが、ティニアであることを。
自分を見つけ出し、ずっと傍に寄り添い、健気に世話を焼き続けていた。あの少年が、レンがティニアだ。
「思うっていうのは、確信がないってことなのね。本人が口にしていないというだけで」
「はい」
震える声で、ティナが返事をすると、写真をマリアに手渡した。そのまま、泣き崩れるように、ティナは声を出して泣き出した。その姿は、初めて見る姿だ。ティナが、ティナが感情を表に出すなど、今までで一度も。否、あの時の襲撃以来だ。
「ティナ…………」
マリアはティナを抱きかかえると、ティナはその涙でマリアの胸を濡らした。震えたまま、彼女の嗚咽だけが部屋に木霊する。
「どうか、ずっと傍に居て。もう、離れたりしないで。一緒にいるから」
「マリア……ごめん、なさい」
「謝らないでいいわ」
「落ち着いたら、今後の話をしましょう。ティニアの事も」
ティナの言葉に、ただ静かに頷いた。
「ありがとう。少し、一人で考え事をしても良いでしょうか」
「え、うん。ごめんね、気遣いが出来てなくて」
「いいえ、そんな事はありませんよ。夕飯は食べてくるのでしょう」
「うん。それじゃ、また夜に。ちゃんと、ご飯食べてよ」
マリアは静かに席を立ち、何度も振り返りながらティナを見つめた。ティナは微笑みながら、静かに目を閉じた。瞑想だ。
ティナが気付いた時、部屋はもぬけの殻であり、自身だけが存在していた。
「ごめんなさい。マリア……」
静かに、その声だけがポツリと紡がれ、そして消えていく。
「オーロラ、昔はもっと綺麗に見えたのに。今は曇って、何も見えない。どうしたらいいのでしょうか。私は。彼ら、彼女たちの犠牲の上で。私は…………」
「レン、ゲオルク……………………」
「アルブレヒト様………………………………」
天候は下り坂の町でティナは一人、涙を流したのだった――。
「孤児や子供は、どこで集められていたの」
「それこそ、世界各地からです。大戦時は、喜んで金銭で子供を売ってきた、奴らはそう話していました」
「買う奴らがいなければ、売る親だっていないでしょうに!」
孤児院の孤児たちを見ていればわかる。皆、何の罪もなく。ただただ親から引き離され、ティニアによって集められ、保護された子たちだ。いい子しかいないのだ。
「大丈夫?」
「大丈夫ではないけれど、大丈夫。奴らの拠点は、まだ他にもあるのね」
「レンが廃棄処分されたことで、ラウルも躍起になって破壊したでしょうから、もうほとんど残っていないかもしれません」
「廃棄って、本当に処分されてしまったの……?」
信じられないと言わんばかりに、マリアはティナへ迫った。ティナは視線を逸らすと、自らの腕を強く掴んだ。
「それは…………」
「もう、隠すなんてやめて」
「………………」
「私、もう判っているから」
マリアはそうティナへ声をかけると、一枚の写真を取り出した。そこには、一昨日行われた、ティニアの誕生会の写真があった。
「この中に、レンがいる」
ティナは写真を見ることなく、目を閉じたまま深く呼吸を繰り返した。
「判ってるの。ティナも、レイスも辛いって。でも、これが現実なのでしょう」
「目を背けないで、ティナ姉さま」
「マリア……」
ティナは瞼をゆっくりと開くと、その長いまつ毛を濡らした。頬を、止めどなく、涙が零れ落ちていく。
「ティナ。この中に、レンがいる。そうでしょう」
ティナは静かに頷くと、写真を手に取った。細い指が震えており、写真がひしゃげてしまった。
「ごめんなさい。写真が」
「ううん。いいのよ」
ティナは、静かに呼吸をすると、震えた声で、その名を口にした。
「レンは、ティニアさんだと思います」
判っていた事だった。そう、判っていたのだ。
少年が、あの時のアルビノの少年が、レンが、ティニアであることを。
自分を見つけ出し、ずっと傍に寄り添い、健気に世話を焼き続けていた。あの少年が、レンがティニアだ。
「思うっていうのは、確信がないってことなのね。本人が口にしていないというだけで」
「はい」
震える声で、ティナが返事をすると、写真をマリアに手渡した。そのまま、泣き崩れるように、ティナは声を出して泣き出した。その姿は、初めて見る姿だ。ティナが、ティナが感情を表に出すなど、今までで一度も。否、あの時の襲撃以来だ。
「ティナ…………」
マリアはティナを抱きかかえると、ティナはその涙でマリアの胸を濡らした。震えたまま、彼女の嗚咽だけが部屋に木霊する。
「どうか、ずっと傍に居て。もう、離れたりしないで。一緒にいるから」
「マリア……ごめん、なさい」
「謝らないでいいわ」
「落ち着いたら、今後の話をしましょう。ティニアの事も」
ティナの言葉に、ただ静かに頷いた。
「ありがとう。少し、一人で考え事をしても良いでしょうか」
「え、うん。ごめんね、気遣いが出来てなくて」
「いいえ、そんな事はありませんよ。夕飯は食べてくるのでしょう」
「うん。それじゃ、また夜に。ちゃんと、ご飯食べてよ」
マリアは静かに席を立ち、何度も振り返りながらティナを見つめた。ティナは微笑みながら、静かに目を閉じた。瞑想だ。
ティナが気付いた時、部屋はもぬけの殻であり、自身だけが存在していた。
「ごめんなさい。マリア……」
静かに、その声だけがポツリと紡がれ、そして消えていく。
「オーロラ、昔はもっと綺麗に見えたのに。今は曇って、何も見えない。どうしたらいいのでしょうか。私は。彼ら、彼女たちの犠牲の上で。私は…………」
「レン、ゲオルク……………………」
「アルブレヒト様………………………………」
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