【完結】暁の荒野

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第八輪「モノクローム・エンド」

⑧-3 真相には紫雲英を添えて③

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「ごめん、動揺して」
「いいえ。大丈夫です」
「どうして、だって。……だって、ラウルとは親しそうだったじゃない。そんなことって…………」

 マリアは腕を再び強く掴んだが、爪を立てぬように気を配った。我慢する所でもなく、ここでは感情を露わにしてもいいのだと気付いたのだ。マリアはそれでもと首を横に振り朱色の髪を揺らすと、その瞳をティナへ向けた。ティナを糾弾する気はないものの、過去の事である。何も変わらないのだ。

「なんでそんな危ないことを。だってまだ14歳、改造された時点で12歳だったのでしょ?」
「あの日、突然の奇襲作戦が決まったことで、ラウルたちも動揺していたのです。拠点はイタリアのとある島でしたが、彼らはドイツに居たそうですから」
「じゃあ、二人とも奇襲作戦は知らなかったのね」
「そうです」

 ティナはカレンダーを見つめた。カレンダーは1950年、6月を指している。

「1936年12月24日、奇襲作戦が決行されました」


「目的は、私の奪取だった」
「そうです。貴女は特別に作られた人造人間でしたから」
「所長も、誰も何も言ってくれなかったけれど、皆は知っていたの?」
「いいえ」

 ティナは首を横にふると、前へ垂らした三つ編みが大きく揺れた。

「所長と私だけが知っていたのです」
「それは、レイスが。……ティナが、私の教育係だったから?」
「いいえ、違います。あの拠点で人造人間だったのは、私だけでしたから。マリアを連れ出すとき。奴らの拠点から貴女を救い出すその瞬間に、私も居たのです。だからこそ、私が志願しました」
「そう、だったの? じゃあティナは恩人の更に恩人だったのね」
「恩人だなんて。何も、話せずにいたのですから」


 マリアは一瞬の疑問が生じたが、すぐに頭で整理が付き、ティナを見据えた。ティナはレイスの時のように、おぼろげな瞳でマリアのラーレを見つめている。彼女は未だに悔いているのだ。

「レンは、私と同時に人造人間に改造されました。……その縁で、私とは知古なのです。レンが、私を所長の元へ送り出してくれたの」
「送り出した?」
「拠点の隙を突かせたのです。レンとラウルの策よって、トラブルが発生した。そして、その隙に所長たちを呼び込み、私を奪取させました。マリアの時とほぼ同じです。ラウルは組織の中枢に入り込んでいましたから」

 ティナは窓を見つめると、カーテンを指先で震わせた。町の喧騒は変わらず、自分たちだけが外界に居るかのように、異質な存在だ。

「じゃあ、レンと」


「ラウルは、私の恩人だったのね」

 なんという事なのか。何も知らなかったのだ。無知とは、本当に罪でしかない。

 マリアは襲撃時の少年レンと、ラウルを思い返していた。二人とも、敵意は自身に向いてなどいなかったのだ。マリアの早とちりだった。ただ、それほどまでに、ラウルの殺意はとんでもないほどむき出しだったのだ。その状態で中枢にいるなど、出来るのだろうか。

「つまりティナも、彼らの拠点で人造人間にされた、そしてレン達によって、所長の拠点へ奪取され、私もまた奪取された」
「はい。あの拠点は人道的とは言えない、人道とは真逆の行為を行っていました。大戦の混乱に乗じ、金銭で困っている子供を親から購入していたのです」
「酷いことを……」
「孤児院に出向いては、孤児たちを引き取る素振りを見せ、金銭を持って買い集めていたのです。そして、私たちのような人造人間を作るべく、人体実験を繰り返していた。当然、奴らは報いを受けるべきでした。研究結果は言うまでもありませんが、……成功例が極端に少ないのが、人造人間だったのです」
「ッ……、なんて奴らなの」

 マリアは涙を浮かべると、すぐに腕ですぐ拭った。涙腺が最近は緩み切っており、些細な事でも涙があふれてくる。
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