144 / 257
第八輪「モノクローム・エンド」
⑧-3 真相には紫雲英を添えて③
しおりを挟む
「ごめん、動揺して」
「いいえ。大丈夫です」
「どうして、だって。……だって、ラウルとは親しそうだったじゃない。そんなことって…………」
マリアは腕を再び強く掴んだが、爪を立てぬように気を配った。我慢する所でもなく、ここでは感情を露わにしてもいいのだと気付いたのだ。マリアはそれでもと首を横に振り朱色の髪を揺らすと、その瞳をティナへ向けた。ティナを糾弾する気はないものの、過去の事である。何も変わらないのだ。
「なんでそんな危ないことを。だってまだ14歳、改造された時点で12歳だったのでしょ?」
「あの日、突然の奇襲作戦が決まったことで、ラウルたちも動揺していたのです。拠点はイタリアのとある島でしたが、彼らはドイツに居たそうですから」
「じゃあ、二人とも奇襲作戦は知らなかったのね」
「そうです」
ティナはカレンダーを見つめた。カレンダーは1950年、6月を指している。
「1936年12月24日、奇襲作戦が決行されました」
「目的は、私の奪取だった」
「そうです。貴女は特別に作られた人造人間でしたから」
「所長も、誰も何も言ってくれなかったけれど、皆は知っていたの?」
「いいえ」
ティナは首を横にふると、前へ垂らした三つ編みが大きく揺れた。
「所長と私だけが知っていたのです」
「それは、レイスが。……ティナが、私の教育係だったから?」
「いいえ、違います。あの拠点で人造人間だったのは、私だけでしたから。マリアを連れ出すとき。奴らの拠点から貴女を救い出すその瞬間に、私も居たのです。だからこそ、私が志願しました」
「そう、だったの? じゃあティナは恩人の更に恩人だったのね」
「恩人だなんて。何も、話せずにいたのですから」
マリアは一瞬の疑問が生じたが、すぐに頭で整理が付き、ティナを見据えた。ティナはレイスの時のように、おぼろげな瞳でマリアのラーレを見つめている。彼女は未だに悔いているのだ。
「レンは、私と同時に人造人間に改造されました。……その縁で、私とは知古なのです。レンが、私を所長の元へ送り出してくれたの」
「送り出した?」
「拠点の隙を突かせたのです。レンとラウルの策よって、トラブルが発生した。そして、その隙に所長たちを呼び込み、私を奪取させました。マリアの時とほぼ同じです。ラウルは組織の中枢に入り込んでいましたから」
ティナは窓を見つめると、カーテンを指先で震わせた。町の喧騒は変わらず、自分たちだけが外界に居るかのように、異質な存在だ。
「じゃあ、レンと」
「ラウルは、私の恩人だったのね」
なんという事なのか。何も知らなかったのだ。無知とは、本当に罪でしかない。
マリアは襲撃時の少年レンと、ラウルを思い返していた。二人とも、敵意は自身に向いてなどいなかったのだ。マリアの早とちりだった。ただ、それほどまでに、ラウルの殺意はとんでもないほどむき出しだったのだ。その状態で中枢にいるなど、出来るのだろうか。
「つまりティナも、彼らの拠点で人造人間にされた、そしてレン達によって、所長の拠点へ奪取され、私もまた奪取された」
「はい。あの拠点は人道的とは言えない、人道とは真逆の行為を行っていました。大戦の混乱に乗じ、金銭で困っている子供を親から購入していたのです」
「酷いことを……」
「孤児院に出向いては、孤児たちを引き取る素振りを見せ、金銭を持って買い集めていたのです。そして、私たちのような人造人間を作るべく、人体実験を繰り返していた。当然、奴らは報いを受けるべきでした。研究結果は言うまでもありませんが、……成功例が極端に少ないのが、人造人間だったのです」
「ッ……、なんて奴らなの」
マリアは涙を浮かべると、すぐに腕ですぐ拭った。涙腺が最近は緩み切っており、些細な事でも涙があふれてくる。
「いいえ。大丈夫です」
「どうして、だって。……だって、ラウルとは親しそうだったじゃない。そんなことって…………」
マリアは腕を再び強く掴んだが、爪を立てぬように気を配った。我慢する所でもなく、ここでは感情を露わにしてもいいのだと気付いたのだ。マリアはそれでもと首を横に振り朱色の髪を揺らすと、その瞳をティナへ向けた。ティナを糾弾する気はないものの、過去の事である。何も変わらないのだ。
「なんでそんな危ないことを。だってまだ14歳、改造された時点で12歳だったのでしょ?」
「あの日、突然の奇襲作戦が決まったことで、ラウルたちも動揺していたのです。拠点はイタリアのとある島でしたが、彼らはドイツに居たそうですから」
「じゃあ、二人とも奇襲作戦は知らなかったのね」
「そうです」
ティナはカレンダーを見つめた。カレンダーは1950年、6月を指している。
「1936年12月24日、奇襲作戦が決行されました」
「目的は、私の奪取だった」
「そうです。貴女は特別に作られた人造人間でしたから」
「所長も、誰も何も言ってくれなかったけれど、皆は知っていたの?」
「いいえ」
ティナは首を横にふると、前へ垂らした三つ編みが大きく揺れた。
「所長と私だけが知っていたのです」
「それは、レイスが。……ティナが、私の教育係だったから?」
「いいえ、違います。あの拠点で人造人間だったのは、私だけでしたから。マリアを連れ出すとき。奴らの拠点から貴女を救い出すその瞬間に、私も居たのです。だからこそ、私が志願しました」
「そう、だったの? じゃあティナは恩人の更に恩人だったのね」
「恩人だなんて。何も、話せずにいたのですから」
マリアは一瞬の疑問が生じたが、すぐに頭で整理が付き、ティナを見据えた。ティナはレイスの時のように、おぼろげな瞳でマリアのラーレを見つめている。彼女は未だに悔いているのだ。
「レンは、私と同時に人造人間に改造されました。……その縁で、私とは知古なのです。レンが、私を所長の元へ送り出してくれたの」
「送り出した?」
「拠点の隙を突かせたのです。レンとラウルの策よって、トラブルが発生した。そして、その隙に所長たちを呼び込み、私を奪取させました。マリアの時とほぼ同じです。ラウルは組織の中枢に入り込んでいましたから」
ティナは窓を見つめると、カーテンを指先で震わせた。町の喧騒は変わらず、自分たちだけが外界に居るかのように、異質な存在だ。
「じゃあ、レンと」
「ラウルは、私の恩人だったのね」
なんという事なのか。何も知らなかったのだ。無知とは、本当に罪でしかない。
マリアは襲撃時の少年レンと、ラウルを思い返していた。二人とも、敵意は自身に向いてなどいなかったのだ。マリアの早とちりだった。ただ、それほどまでに、ラウルの殺意はとんでもないほどむき出しだったのだ。その状態で中枢にいるなど、出来るのだろうか。
「つまりティナも、彼らの拠点で人造人間にされた、そしてレン達によって、所長の拠点へ奪取され、私もまた奪取された」
「はい。あの拠点は人道的とは言えない、人道とは真逆の行為を行っていました。大戦の混乱に乗じ、金銭で困っている子供を親から購入していたのです」
「酷いことを……」
「孤児院に出向いては、孤児たちを引き取る素振りを見せ、金銭を持って買い集めていたのです。そして、私たちのような人造人間を作るべく、人体実験を繰り返していた。当然、奴らは報いを受けるべきでした。研究結果は言うまでもありませんが、……成功例が極端に少ないのが、人造人間だったのです」
「ッ……、なんて奴らなの」
マリアは涙を浮かべると、すぐに腕ですぐ拭った。涙腺が最近は緩み切っており、些細な事でも涙があふれてくる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる