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第八輪「モノクローム・エンド」
⑧-2 真相には紫雲英を添えて②
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ティナは目を見開くまで、まるで呼吸するかのように青白い光を発光させた。すぐにその光は収まり、やがて彼女はその眼をゆっくりと開けた。
「人間に見えるような構造になっていますからね。先生といえど、切り開かなければわかりません。私は衰弱していただけですから」
「そうよね。私も、切り開いたら……」
「マリア…………」
「私もそうなんでしょ。人間じゃなかったんだもの。だったら、同じことをすれば…………」
マリアもコアの部分に右手で触れ、目を閉じた。ティナのように青白く体は呼応すると、人造の部分が浮き彫りになったのだ。マリアは深く、三度深呼吸した。そして、隣へ座ると、ティナの手を取った。マリアの発光は収まり、まるでただの人間のように元へと戻った。
「マリア。人間でなくても、私たちは個々の意思を持った人です。そう、信じて欲しいのです」
「………………うん。そうだね」
しばしの静寂が、部屋を支配する。
「あの子、アルビノの少年はどうなったの。寿命だと、聞いたのよ」
ティナの青い瞳が一瞬強く瞬き、すぐに元通りのぼんやりとした瞳に戻ったると、すぐに目線を落とした。言葉を選んでの沈黙ではない。言葉の重さを、彼女は噛みしめてしまっているのだ。
「貴女のせいではありません」
「でも……」
マリアは右腕を左手で掴むと、抓るように強く掴んだ。ティナは慌てて手に触れると、その手を引き離し、優しく爪跡を撫でながら、首を静かに横へ振った。
ティナは俯くと、一瞬ためらいながらその名を口にした。
「あの子の名は、レン。あの時で、まだ14歳でした」
「14って……、私が稼働して、14年よ?」
「一応、改造されたのは12歳の時で、それ以降は成長していません。私を同じで、老いることは無いのです。その分、食事等は人間と同じく摂らなければなりませんでした」
「……老いもしないのに、寿命が来たというの…………?」
「私たちの寿命は、作り出した人間達の判断で決まります。レンは、その。彼ら作り出した人間たちによって、廃棄処分が決定していたのです」
――――ドクン。鼓動が聞こえる。その心音はマリアであり、ティナだ。
「は、廃棄処分? 嘘でしょ。だって」
「襲撃の時点で、そう決まっていたそうです。だからこそ、捨て身で貴女を説得したのだと思います」
「じゃあ、レンって子は、廃棄処分に?」
「はい……。そうなったみたいですね」
ティナは細い右腕を左手で掴むと、長いため息を吐きだした。
「私はその後、ラウルに連れられ、あの拠点から脱出しました。拠点はその後爆破され、不安定なイタリア情勢の中で揉み消されました。私は信号、コードを抜いていましたから、もう彼らに捕捉されることはありません。だからこそ、逆にマリアでも発見出来なかっただと思います。マリアの信号については、コードも抜いてありますので、彼らに捕捉されることはありません」
コード。呼応する青い光ではなく、実際に自身が人では無い事をまざまざと認識させられる、異質な言葉だ。
「…………その、レンは、逃げようとしなかったの?」
「はい。レンには目的があったのです」
「目的?」
「目的とは、敵拠点。彼らの所属していた組織の情報を探ることでした。レンは、ラウルと同じく二重スパイ。そこで廃棄処分にならなければ、ラウルの身に危険が及ぶところだったといいます」
「待ってよ。じゃあ、ラウルの為にレンは廃棄処分に?」
「そういう事になります。ラウルも、相当辛かった筈です」
マリアは買ったばかりのソファーから立ち上がると、額に手を当てて落ち着きを取り戻そうとしたが、すぐに力が抜けていき、その場に崩れ落ちてしまった。
「人間に見えるような構造になっていますからね。先生といえど、切り開かなければわかりません。私は衰弱していただけですから」
「そうよね。私も、切り開いたら……」
「マリア…………」
「私もそうなんでしょ。人間じゃなかったんだもの。だったら、同じことをすれば…………」
マリアもコアの部分に右手で触れ、目を閉じた。ティナのように青白く体は呼応すると、人造の部分が浮き彫りになったのだ。マリアは深く、三度深呼吸した。そして、隣へ座ると、ティナの手を取った。マリアの発光は収まり、まるでただの人間のように元へと戻った。
「マリア。人間でなくても、私たちは個々の意思を持った人です。そう、信じて欲しいのです」
「………………うん。そうだね」
しばしの静寂が、部屋を支配する。
「あの子、アルビノの少年はどうなったの。寿命だと、聞いたのよ」
ティナの青い瞳が一瞬強く瞬き、すぐに元通りのぼんやりとした瞳に戻ったると、すぐに目線を落とした。言葉を選んでの沈黙ではない。言葉の重さを、彼女は噛みしめてしまっているのだ。
「貴女のせいではありません」
「でも……」
マリアは右腕を左手で掴むと、抓るように強く掴んだ。ティナは慌てて手に触れると、その手を引き離し、優しく爪跡を撫でながら、首を静かに横へ振った。
ティナは俯くと、一瞬ためらいながらその名を口にした。
「あの子の名は、レン。あの時で、まだ14歳でした」
「14って……、私が稼働して、14年よ?」
「一応、改造されたのは12歳の時で、それ以降は成長していません。私を同じで、老いることは無いのです。その分、食事等は人間と同じく摂らなければなりませんでした」
「……老いもしないのに、寿命が来たというの…………?」
「私たちの寿命は、作り出した人間達の判断で決まります。レンは、その。彼ら作り出した人間たちによって、廃棄処分が決定していたのです」
――――ドクン。鼓動が聞こえる。その心音はマリアであり、ティナだ。
「は、廃棄処分? 嘘でしょ。だって」
「襲撃の時点で、そう決まっていたそうです。だからこそ、捨て身で貴女を説得したのだと思います」
「じゃあ、レンって子は、廃棄処分に?」
「はい……。そうなったみたいですね」
ティナは細い右腕を左手で掴むと、長いため息を吐きだした。
「私はその後、ラウルに連れられ、あの拠点から脱出しました。拠点はその後爆破され、不安定なイタリア情勢の中で揉み消されました。私は信号、コードを抜いていましたから、もう彼らに捕捉されることはありません。だからこそ、逆にマリアでも発見出来なかっただと思います。マリアの信号については、コードも抜いてありますので、彼らに捕捉されることはありません」
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「…………その、レンは、逃げようとしなかったの?」
「はい。レンには目的があったのです」
「目的?」
「目的とは、敵拠点。彼らの所属していた組織の情報を探ることでした。レンは、ラウルと同じく二重スパイ。そこで廃棄処分にならなければ、ラウルの身に危険が及ぶところだったといいます」
「待ってよ。じゃあ、ラウルの為にレンは廃棄処分に?」
「そういう事になります。ラウルも、相当辛かった筈です」
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