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第七輪「嫉妬の狼煙」
⑦-12 火のない所に狼煙は立たぬ①
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複雑な花束は基本的に好まれない。様々な花を入れた所で、色合い、バランス、花の高低差まで。芸術点など必要なく、単純に好まれる花束というものは、親しみが持てるかどうかだという。
午後の14時、予約をしていた客が花屋ペラルゴを訪れた。コウノトリの意味を持つこの花屋には不釣り合いな白衣の男だ。
「先生、どうですか」
「フリージアですか、素敵ですね。花は詳しくないのですが、中々に見事だ。これ、予算内なのでしょうか」
町の診療所の医師であるレオンは、休憩時間にペラルゴを訪れていた。マリアの作成した花束は、レオンが依頼したのだ。
「予算内ではありますが、ティニアの事もありますからね。勉強させていただきましたよ。それに他ならぬ、先生のご注文でしたし」
ミュラー夫人はそういいながら、予算内の金額を提示した。メアリー直伝の可愛い包装紙に包まれた花束は、それは見事なものだ。
カスミソウがちらばり、中央にはアイリス、そして白いフリージアが主役を務めている。他にもマリアが提案したチューリップが鮮やかに彩っている。
そう、主役級が常に顔をせめぎ合う花束は、一般的には好まれないのだ。
「喜んでいただけると思うのですが、ちょっと緊張しますね。女性に花束など」
レオンは照れながらトレードマークの眼鏡を直していく。すぐにズレ落ちる眼鏡もまた、彼のトレードマークだ。
「まあ、相手が相手だしね。こういう賑やかが好きなのよ。でも、切り花で良かったの? ティニアは、植木鉢の方が好みよ」
「そう伺ったのですが、やはり様々な花を集めて贈りたかったのですよ。彼女らしい賑やかさが欲しかったのです」
レオンはそういうと、代金を支払った。すると、奥からマリアがチューリップだけの花束を持ってレオンの前へ現れた。
「これは、ほんのおまけなのだけど」
黄色と白のチューリップが二本ずつ彩られた花束は、簡素ではあるものの大変美しい花束に仕上がっている。
「ティナさん、退院するじゃない。そのお祝いよ」
「ええ! でも来週の話ですよ。もう日常生活に何ら支障は無いものの、記憶までは戻りませんでしたからね」
「だから、私が声を掛けたんじゃない。アルベルトとティニアは一緒に住むっていうし、私は家を出ちゃったし」
「マリアさんが一緒に住んでくれると聞いて、私は嬉しいのですよ」
「物件が広かったから、寂しいなあって思ってたの。丁度良かったわ。ねえ、私からってことで、ティナさんに渡してもらえない?」
マリアはそういうと、豪華な花束を抱きかかえるレオンへ花束を差し出した。
「さ、さすがに持てませんよ。それに、そういう事なら直接、ティナさんへ贈って下さい」
「私なんかが花束を、……チューリップを贈って、いいのかなって」
「そんなことありませんよ。仲良くなった貴女と、ティナさんはこれから同居するわけですから」
午後の14時、予約をしていた客が花屋ペラルゴを訪れた。コウノトリの意味を持つこの花屋には不釣り合いな白衣の男だ。
「先生、どうですか」
「フリージアですか、素敵ですね。花は詳しくないのですが、中々に見事だ。これ、予算内なのでしょうか」
町の診療所の医師であるレオンは、休憩時間にペラルゴを訪れていた。マリアの作成した花束は、レオンが依頼したのだ。
「予算内ではありますが、ティニアの事もありますからね。勉強させていただきましたよ。それに他ならぬ、先生のご注文でしたし」
ミュラー夫人はそういいながら、予算内の金額を提示した。メアリー直伝の可愛い包装紙に包まれた花束は、それは見事なものだ。
カスミソウがちらばり、中央にはアイリス、そして白いフリージアが主役を務めている。他にもマリアが提案したチューリップが鮮やかに彩っている。
そう、主役級が常に顔をせめぎ合う花束は、一般的には好まれないのだ。
「喜んでいただけると思うのですが、ちょっと緊張しますね。女性に花束など」
レオンは照れながらトレードマークの眼鏡を直していく。すぐにズレ落ちる眼鏡もまた、彼のトレードマークだ。
「まあ、相手が相手だしね。こういう賑やかが好きなのよ。でも、切り花で良かったの? ティニアは、植木鉢の方が好みよ」
「そう伺ったのですが、やはり様々な花を集めて贈りたかったのですよ。彼女らしい賑やかさが欲しかったのです」
レオンはそういうと、代金を支払った。すると、奥からマリアがチューリップだけの花束を持ってレオンの前へ現れた。
「これは、ほんのおまけなのだけど」
黄色と白のチューリップが二本ずつ彩られた花束は、簡素ではあるものの大変美しい花束に仕上がっている。
「ティナさん、退院するじゃない。そのお祝いよ」
「ええ! でも来週の話ですよ。もう日常生活に何ら支障は無いものの、記憶までは戻りませんでしたからね」
「だから、私が声を掛けたんじゃない。アルベルトとティニアは一緒に住むっていうし、私は家を出ちゃったし」
「マリアさんが一緒に住んでくれると聞いて、私は嬉しいのですよ」
「物件が広かったから、寂しいなあって思ってたの。丁度良かったわ。ねえ、私からってことで、ティナさんに渡してもらえない?」
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「さ、さすがに持てませんよ。それに、そういう事なら直接、ティナさんへ贈って下さい」
「私なんかが花束を、……チューリップを贈って、いいのかなって」
「そんなことありませんよ。仲良くなった貴女と、ティナさんはこれから同居するわけですから」
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