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第六輪「紫雲英、約束の果てに」
⑥-13 さいごの誕生会
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夕食を終えると、ティニアは風呂へ向かった。そう、これについても全く意味はないのだ。男は落胆していた。
「まさか本ッ当に、ただ拾って住まわせただけとは。俺は犬か猫かよ」
聞こえるなら聞こえればいいと言わんばかりの発言だったが、ティニアに聞こえるわけもない。外はまだ明るく、青白い空が美しく空を彩っている。ただ、この辺りに人にとってこの空は有り触れた日常に過ぎず、景色の一端を担っているだけに過ぎないのだ。
アルベルトは、傍らにファイリングされたティニアの落書きが目に留まった。
「あの山、どこだったかな。エーデ、えーっと。ああ、山じゃないんだった。あれは……」
<――墓標――――――――>
アルベルトの心に、はっきりとした言葉が浮かぶ。
「そうだ、墓標――。でも、どうして……」
幼いころに夢に描いた光景が、アルベルトの脳裏で呼び覚まされていく。
風の柔らかな大陸だった。
霊峰からたなびく風は心地よく、全てを浄化してくれるのだ。
そんな彼女は毒を食らい、亡骸を……………………。
「ケーニヒスベルク。そうか、あの山の名も、ケーニヒスベルクというのか」
「なに?」
後ろから声がしたため、慌てて振り返ると、ティニアが立っていた。白いワンピースの様な寝間着に身を包んでいるものの、水玉を髪から零れ落としたままの女性が。
「お前、髪!」
「え? うん、ちゃんと拭くよ。乾かすし」
「バカ、ちょっと来い。風邪ひくだろう。まずはしっかり拭いてくれよ」
「わわわ」
アルベルトはティニアの持っていたタオルで髪の毛をワシワシすると、ティニアをソファーに座らせた。
「子供かよ。お前本当に孤児院で先生やってんのかよ、ほら。そんな滴り落ちるほどずぶ濡れじゃ、乾くわけ無いだろう!」
「あーえっと。風で、あったかい風で、ガーっと」
「何言ってんだよ、そんなのどうやるんだよ! 美容室にでも行くっていうのか」
「それは、そうなんですけど…………」
「はあ。しっかり乾かせよ。じゃあ、俺もシャワー浴びに」
「あれ、浴槽に浸からない? うちはバスタブがあるから、お湯を新しく張ってきちゃったけど」
ティニアは前髪を気にしながら、タオルでモコモコと髪を拭きつつアルベルトを見上げた。その光景が可愛すぎたため、男は長風呂を決めることにしたのだった。
アルベルトが風呂へ向かった後、テーブルには赤いリボンの掛けられた箱が置いてあった。ティニアは乾いた髪を櫛でとかしつつ、その箱のメッセージカードを見つめた。
「Der,ティニア? ぼ、ぼく?」
差出人の場所には、アルと書かれている。「一日前のハッピーバースデー」の文言が添えられている。
「なんだろう。開けてろって意味なんだろうけど。開けにくいなあ。ていうか、明日なの誰から聞いたんだろう」
とはいえ、長風呂を決めた男が中々上がって来ることは無かった。
「うーん。開けちゃうか」
リボンを解き、箱を開けたティニアは、表情を固まらせる。そこには白い花の植木鉢が佇んでいたのだ。
「なん。で……………………」
箱の中身は、彼女と彼しか知りえない。
月明りが空を照らし、太陽はまだ日没前の夕暮れ。
青々とした空はどこかファンタジーの、深く燃え広がる緋色の空を迎える――――。
「まさか本ッ当に、ただ拾って住まわせただけとは。俺は犬か猫かよ」
聞こえるなら聞こえればいいと言わんばかりの発言だったが、ティニアに聞こえるわけもない。外はまだ明るく、青白い空が美しく空を彩っている。ただ、この辺りに人にとってこの空は有り触れた日常に過ぎず、景色の一端を担っているだけに過ぎないのだ。
アルベルトは、傍らにファイリングされたティニアの落書きが目に留まった。
「あの山、どこだったかな。エーデ、えーっと。ああ、山じゃないんだった。あれは……」
<――墓標――――――――>
アルベルトの心に、はっきりとした言葉が浮かぶ。
「そうだ、墓標――。でも、どうして……」
幼いころに夢に描いた光景が、アルベルトの脳裏で呼び覚まされていく。
風の柔らかな大陸だった。
霊峰からたなびく風は心地よく、全てを浄化してくれるのだ。
そんな彼女は毒を食らい、亡骸を……………………。
「ケーニヒスベルク。そうか、あの山の名も、ケーニヒスベルクというのか」
「なに?」
後ろから声がしたため、慌てて振り返ると、ティニアが立っていた。白いワンピースの様な寝間着に身を包んでいるものの、水玉を髪から零れ落としたままの女性が。
「お前、髪!」
「え? うん、ちゃんと拭くよ。乾かすし」
「バカ、ちょっと来い。風邪ひくだろう。まずはしっかり拭いてくれよ」
「わわわ」
アルベルトはティニアの持っていたタオルで髪の毛をワシワシすると、ティニアをソファーに座らせた。
「子供かよ。お前本当に孤児院で先生やってんのかよ、ほら。そんな滴り落ちるほどずぶ濡れじゃ、乾くわけ無いだろう!」
「あーえっと。風で、あったかい風で、ガーっと」
「何言ってんだよ、そんなのどうやるんだよ! 美容室にでも行くっていうのか」
「それは、そうなんですけど…………」
「はあ。しっかり乾かせよ。じゃあ、俺もシャワー浴びに」
「あれ、浴槽に浸からない? うちはバスタブがあるから、お湯を新しく張ってきちゃったけど」
ティニアは前髪を気にしながら、タオルでモコモコと髪を拭きつつアルベルトを見上げた。その光景が可愛すぎたため、男は長風呂を決めることにしたのだった。
アルベルトが風呂へ向かった後、テーブルには赤いリボンの掛けられた箱が置いてあった。ティニアは乾いた髪を櫛でとかしつつ、その箱のメッセージカードを見つめた。
「Der,ティニア? ぼ、ぼく?」
差出人の場所には、アルと書かれている。「一日前のハッピーバースデー」の文言が添えられている。
「なんだろう。開けてろって意味なんだろうけど。開けにくいなあ。ていうか、明日なの誰から聞いたんだろう」
とはいえ、長風呂を決めた男が中々上がって来ることは無かった。
「うーん。開けちゃうか」
リボンを解き、箱を開けたティニアは、表情を固まらせる。そこには白い花の植木鉢が佇んでいたのだ。
「なん。で……………………」
箱の中身は、彼女と彼しか知りえない。
月明りが空を照らし、太陽はまだ日没前の夕暮れ。
青々とした空はどこかファンタジーの、深く燃え広がる緋色の空を迎える――――。
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