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第六輪「紫雲英、約束の果てに」
⑥-10 緋色の主軸②
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「ただいま、ティニア。それから。おかえり、ティニア」
マリアは微笑みながらティニアを抱き締めた。
「寂しかった」
「うん」
ティニアは目を閉じるとマリアの背に腕を回し、赤く美しい髪を撫でた。マリアはそのままティニアの胸へ顔を埋めるが、肩が小刻みに震えているため泣いてしまっている様だ。
ティニアは三度軽くマリアの頭を叩くと、おまじないをした。
「トイトイトイ、だよね」
「そうだね。昔は唾を吐きかけたり、物を投げたんだよ」
「なにそれ。幸せのおまじないなのに、汚いわね。悪魔のトイフェルから来てるのかな。おもちゃのトイじゃないわよね」
「さぁ、どうだろうね」
ティニアは顔を起こすと、マリアの頭を撫でながらアルベルトへ微笑んだ。マリアはまだ泣いているようで、ティニアがハンカチで涙を拭っていった。
「先入ってて。荷物は適当に置いてもらっていいかな」
「わかったよ」
アルベルトが部屋へ上がる際、ティニアはマリアを抱きとめたままアルベルトへ声をかけた。
「ありがとう、アルベルト。君が抱きかかえて行ってくれなかったら、どうなっていたか」
「それはもういい。ティニアが無事で良かった。それに、レオン達が頑張ったからだし、ティニアがリハビリも頑張ったからだ」
「うん。ありがとう」
無邪気に微笑むティニアに見惚れ、アルベルトが頬を染めた頃、マリアは漸く顔を上げた。
「私もいるんだから、あんまり二人の世界に入らないでもらえる?」
「二人の世界って何!」
ティニアは珍しく顔を赤面させたが、マリアは一方的にティニアの腕に手を絡めたまま、ドアを開けてくれていたアルベルトを追い越した。二人で先に帰宅を果たしながらベッタリとくっつき、アルベルトを牽制した。
台所のある部屋は掃除が行き届いており、寧ろ物が少なくなっていた。マリアが掃除を頑張ったとはいえ、目的は明らかだ。
ティニアはその光景に無言で俯きながら微笑むと、二人へ振り返った。
「お茶、入れようか。荷物はそこに置いてもらって、座ってよ」
「ティニアは座っていて。コーヒーで良ければ私に淹れさせて」
「マリアのコーヒー、久々だね。お願いするよ」
マリアがお湯を沸かし始めると、アルベルトもソファーに座ったが、ティニアのすぐ隣だった。ティニアは特に気にした様子はないものの、お道化る様子はなく、照れているようだった。
前はそうであったとしても、今はかなり気にかけているのだと、マリアも、アルベルトも分かっていた。そんな様子にアルベルトは緊張してしまい、その緊張はティニアへ伝わった。
マリアは嫉妬とは言い難い、何とも言えないモヤモヤとした気分になると、そのままアルベルトへ助け船を出した。
「アルベルト、今日の仕事は?」
アルベルトは助かったと言わんばかりに、笑いながら返答する。
「休みだよ。親分が、今日は迎えに行ってやれって。一日ね」
「なんか申し訳なかったね。椅子の発注ダメにしちゃって」
「そんなことは無いぞ。子供向けの椅子のデザインは色々アイデアがあったんだ。皆いい勉強になったし、色々俺も吸収したよ」
ティニアは申し訳ないと、顔の前で手を合わせると、目が合った為に直ぐに目を逸らしてしまった。顔を赤らめたティニアに、アルベルトも視線を外していく。
「とはいえ、孤児院はまだ数か月も続くんだ。そう気落ちするなよ」
「うん、ありがとう」
「椅子は、無償で俺の試作品をいくつか、孤児院で使ってもらってるんだ」
「ええ」
アルベルトは胸ポケットから写真を片手に、よりティニアの方へ座りなおした。一瞬ティニアの表情が固まったものの、アルベルトはそのまま手の上に写真を持っていくほど接近した。
「テーブルもな。大分古かっただろう。アドニスさんとシャトーさんの許可で、それらは積み木とかに作り替えて子供たちに配ることになっているよ」
「そうなんだ。皆、孤児院の事覚えていてくれるかな。……でも、忘れたほうがいいんだよね、きっと」
「お前がそんなだと、調子が狂うな」
アルベルトは写真を持たない手をティニアに近づけ、顔に触れようとしたが、そこで一声が部屋に響き渡る。
「だから二人の世界はまだ止めてくれない?」
「だから二人の世界ってなに!」
「マリア、お湯沸騰してる」
「私が沸騰しそうよ!」
アルベルトは横目でマリアを見ているが、ティニアは立ち上がってマリアに歩み寄って来ると、マリアに代わりコーヒーのミルを挽きだした。
さすがにティニアは限界だったようで、顔は真っ赤に染まっていた。
マリアは微笑みながらティニアを抱き締めた。
「寂しかった」
「うん」
ティニアは目を閉じるとマリアの背に腕を回し、赤く美しい髪を撫でた。マリアはそのままティニアの胸へ顔を埋めるが、肩が小刻みに震えているため泣いてしまっている様だ。
ティニアは三度軽くマリアの頭を叩くと、おまじないをした。
「トイトイトイ、だよね」
「そうだね。昔は唾を吐きかけたり、物を投げたんだよ」
「なにそれ。幸せのおまじないなのに、汚いわね。悪魔のトイフェルから来てるのかな。おもちゃのトイじゃないわよね」
「さぁ、どうだろうね」
ティニアは顔を起こすと、マリアの頭を撫でながらアルベルトへ微笑んだ。マリアはまだ泣いているようで、ティニアがハンカチで涙を拭っていった。
「先入ってて。荷物は適当に置いてもらっていいかな」
「わかったよ」
アルベルトが部屋へ上がる際、ティニアはマリアを抱きとめたままアルベルトへ声をかけた。
「ありがとう、アルベルト。君が抱きかかえて行ってくれなかったら、どうなっていたか」
「それはもういい。ティニアが無事で良かった。それに、レオン達が頑張ったからだし、ティニアがリハビリも頑張ったからだ」
「うん。ありがとう」
無邪気に微笑むティニアに見惚れ、アルベルトが頬を染めた頃、マリアは漸く顔を上げた。
「私もいるんだから、あんまり二人の世界に入らないでもらえる?」
「二人の世界って何!」
ティニアは珍しく顔を赤面させたが、マリアは一方的にティニアの腕に手を絡めたまま、ドアを開けてくれていたアルベルトを追い越した。二人で先に帰宅を果たしながらベッタリとくっつき、アルベルトを牽制した。
台所のある部屋は掃除が行き届いており、寧ろ物が少なくなっていた。マリアが掃除を頑張ったとはいえ、目的は明らかだ。
ティニアはその光景に無言で俯きながら微笑むと、二人へ振り返った。
「お茶、入れようか。荷物はそこに置いてもらって、座ってよ」
「ティニアは座っていて。コーヒーで良ければ私に淹れさせて」
「マリアのコーヒー、久々だね。お願いするよ」
マリアがお湯を沸かし始めると、アルベルトもソファーに座ったが、ティニアのすぐ隣だった。ティニアは特に気にした様子はないものの、お道化る様子はなく、照れているようだった。
前はそうであったとしても、今はかなり気にかけているのだと、マリアも、アルベルトも分かっていた。そんな様子にアルベルトは緊張してしまい、その緊張はティニアへ伝わった。
マリアは嫉妬とは言い難い、何とも言えないモヤモヤとした気分になると、そのままアルベルトへ助け船を出した。
「アルベルト、今日の仕事は?」
アルベルトは助かったと言わんばかりに、笑いながら返答する。
「休みだよ。親分が、今日は迎えに行ってやれって。一日ね」
「なんか申し訳なかったね。椅子の発注ダメにしちゃって」
「そんなことは無いぞ。子供向けの椅子のデザインは色々アイデアがあったんだ。皆いい勉強になったし、色々俺も吸収したよ」
ティニアは申し訳ないと、顔の前で手を合わせると、目が合った為に直ぐに目を逸らしてしまった。顔を赤らめたティニアに、アルベルトも視線を外していく。
「とはいえ、孤児院はまだ数か月も続くんだ。そう気落ちするなよ」
「うん、ありがとう」
「椅子は、無償で俺の試作品をいくつか、孤児院で使ってもらってるんだ」
「ええ」
アルベルトは胸ポケットから写真を片手に、よりティニアの方へ座りなおした。一瞬ティニアの表情が固まったものの、アルベルトはそのまま手の上に写真を持っていくほど接近した。
「テーブルもな。大分古かっただろう。アドニスさんとシャトーさんの許可で、それらは積み木とかに作り替えて子供たちに配ることになっているよ」
「そうなんだ。皆、孤児院の事覚えていてくれるかな。……でも、忘れたほうがいいんだよね、きっと」
「お前がそんなだと、調子が狂うな」
アルベルトは写真を持たない手をティニアに近づけ、顔に触れようとしたが、そこで一声が部屋に響き渡る。
「だから二人の世界はまだ止めてくれない?」
「だから二人の世界ってなに!」
「マリア、お湯沸騰してる」
「私が沸騰しそうよ!」
アルベルトは横目でマリアを見ているが、ティニアは立ち上がってマリアに歩み寄って来ると、マリアに代わりコーヒーのミルを挽きだした。
さすがにティニアは限界だったようで、顔は真っ赤に染まっていた。
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