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第六輪「紫雲英、約束の果てに」
⑥-6 否定せず拒絶す②
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(どうしてあの子が思い浮かぶんだろう)
マリアは首を強く横にふると、周囲を確認した。が、周囲にはティニアしか居ない。
ティニアは描き散らした残りの絵を拾い集めている。淡々としてはいるものの、動きは鈍い。
「……私たち、ティニアが大切なのよ。孤児院のことは、終わりにするって聞いてるわ。里親が見つからない子は、別の孤児院へって話だけど、ほとんど皆見つかっているって聞いているわ。シュタインさんが、色々手回ししてくれていて」
「其の子達の帰る場所は? 合わなかったら? 悩みは何処に相談したらいいの」
ティニアは泣きそうになりながら、落書きといった絵を見つめていた。すぐにしわくちゃにしてしまうと、ゴミ箱へ捨ててしまった。
「その子供たちが、一番に、ティニアを心配しているのよ」
「ボクはおかしくなってしまったのに、孤児院なんて始めてしまった。無責任だ」
ティニアはマリアと目線を合わせようとはせず、散らかした紙を拾い上げる。マリアはティニアがベッドの脇に屈んだのを見ると、彼女を背後から抱き締めた。すぐに、嗚咽混じりのマリアの声が聞こえてくる。
「ごめんね。私もずっと、側にいられたら良かったのに」
「どこか、行くの?」
ティニアらしくない。先読みしてはいなかったかの様な、驚いた様子で。ティニアは弱っているのだ。こんな彼女を、理由のわからない事案に巻き込むなんて、誰ができるだろうか。
「わからない。まだ、わからないの。でも、ティニアを巻き込みたくはないの。ティニアはね、私にとって初めての友達なの。すごく大切なの。ミュラー夫妻とは違うの。でも、アルベルトも、ミュラーさんたちも、みんながだいすきなの……」
ティニアのうなじを、ゆっくりと温かな水滴が滴る。マリアは言葉に詰まりながらも、丁寧に一つ一つ言葉を紡いでいったのだ。
ティニアはマリアの手を優しく掴むと、ゆっくりと撫でた。
「マリアが辛いときに、ボクはこんな風に入院してしまっていたんだね。傍にもいなくて、なんて独り善がりだったんだ。ごめんね、マリア……」
「謝らないで。独りよがりなんかじゃないわ。ずっと、根っ子からあったことなの。黙っていたのは、私なの」
マリアはティニアの背後から身を起こすと、涙を袖で拭った。
ティニアは振り返ると、白いハンカチでマリアの頬を撫でた。
「泣かないで」
「むり」
「ボクは、君に泣いてほしくない」
「うん、わかってるけど。無理だよ。わたし、ティニアといっしょ、いたいの」
「…………ごめん」
ティニアは振り返ると腕を伸ばし、マリアを正面から抱きしめた。
「気を付けていたけど、ボクの不手際で、すっかり依存させちゃったね」
「違うの、距離を、私がっ」
マリアは吃逆をしながら、なんとか言葉を伝えようとしたが、絶えずに喉の奥そこからひっくり返り、言葉を飲み込んでしまう。
「落ち着いて。ゆっくり、息を吸って。今は一緒だよ。ここに居るよ」
「……うん」
「ゆっくり吸って、大丈夫、出来るよ。そう。うまいよ。ゆっくり吐いてね、出来なかったらもう一度ね、やってもいいんだよ」
マリアは落ち着くまで、ティニアの胸で頬を濡らした。
マリアは首を強く横にふると、周囲を確認した。が、周囲にはティニアしか居ない。
ティニアは描き散らした残りの絵を拾い集めている。淡々としてはいるものの、動きは鈍い。
「……私たち、ティニアが大切なのよ。孤児院のことは、終わりにするって聞いてるわ。里親が見つからない子は、別の孤児院へって話だけど、ほとんど皆見つかっているって聞いているわ。シュタインさんが、色々手回ししてくれていて」
「其の子達の帰る場所は? 合わなかったら? 悩みは何処に相談したらいいの」
ティニアは泣きそうになりながら、落書きといった絵を見つめていた。すぐにしわくちゃにしてしまうと、ゴミ箱へ捨ててしまった。
「その子供たちが、一番に、ティニアを心配しているのよ」
「ボクはおかしくなってしまったのに、孤児院なんて始めてしまった。無責任だ」
ティニアはマリアと目線を合わせようとはせず、散らかした紙を拾い上げる。マリアはティニアがベッドの脇に屈んだのを見ると、彼女を背後から抱き締めた。すぐに、嗚咽混じりのマリアの声が聞こえてくる。
「ごめんね。私もずっと、側にいられたら良かったのに」
「どこか、行くの?」
ティニアらしくない。先読みしてはいなかったかの様な、驚いた様子で。ティニアは弱っているのだ。こんな彼女を、理由のわからない事案に巻き込むなんて、誰ができるだろうか。
「わからない。まだ、わからないの。でも、ティニアを巻き込みたくはないの。ティニアはね、私にとって初めての友達なの。すごく大切なの。ミュラー夫妻とは違うの。でも、アルベルトも、ミュラーさんたちも、みんながだいすきなの……」
ティニアのうなじを、ゆっくりと温かな水滴が滴る。マリアは言葉に詰まりながらも、丁寧に一つ一つ言葉を紡いでいったのだ。
ティニアはマリアの手を優しく掴むと、ゆっくりと撫でた。
「マリアが辛いときに、ボクはこんな風に入院してしまっていたんだね。傍にもいなくて、なんて独り善がりだったんだ。ごめんね、マリア……」
「謝らないで。独りよがりなんかじゃないわ。ずっと、根っ子からあったことなの。黙っていたのは、私なの」
マリアはティニアの背後から身を起こすと、涙を袖で拭った。
ティニアは振り返ると、白いハンカチでマリアの頬を撫でた。
「泣かないで」
「むり」
「ボクは、君に泣いてほしくない」
「うん、わかってるけど。無理だよ。わたし、ティニアといっしょ、いたいの」
「…………ごめん」
ティニアは振り返ると腕を伸ばし、マリアを正面から抱きしめた。
「気を付けていたけど、ボクの不手際で、すっかり依存させちゃったね」
「違うの、距離を、私がっ」
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「落ち着いて。ゆっくり、息を吸って。今は一緒だよ。ここに居るよ」
「……うん」
「ゆっくり吸って、大丈夫、出来るよ。そう。うまいよ。ゆっくり吐いてね、出来なかったらもう一度ね、やってもいいんだよ」
マリアは落ち着くまで、ティニアの胸で頬を濡らした。
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