93 / 257
第五輪「Nocturne-Arpeggio」
⑤-8 Revolutio-革命への狼煙②
しおりを挟む
「動くな。振り返らずに、行動を停止せよ。我は汝をシャットダウンすることが出来る」
「久しぶりに会ったっていうのに、随分じゃない?」
冷たい音声が再生される。機械仕掛けの音声の再生であり、背後にいる男の声ではない。
「…………そんな音声を用意していたっていう事は、想定内ってことなのね。なるほど。あの叫び声と写真は罠だったわけ」
隻眼の男は何も言葉を発さず、疑問も訂正も行わず、マリアが両手を挙げる事も拒絶する勢いだ。
それでも、マリアの行動を制限しておきながら、発言を許すのには理由がある筈である。男からの殺気は覚えのあるものであり、恐らく自身に対してではない筈だ。
それでも、男は今も敵であるはずだ。
「ここは何なの? 火事でもあったかのような、黒焦げが見えるけど」
静寂過ぎた場には、マリアの声が呼応するように若干のエコーが入る。音の反射によって、空間に二人しかいない事が把握できたものの、マリアは後ろを振り向くことも出来ない。
「狙われているのは私なのに、どうしてノコノコ出てきたのかってことを怒っているの?」
「何故、俺がお前の心配など」
隻眼男の声が発せられた。かの昔に聞いた、見た目通りのハスキーな声は言葉とは裏腹に、酷く澄んだ声をしている。すぐに言い淀んで息を飲んだ様子の男は、発言に対して不意を突かれたようだ。
「チッ」
「随分な態度ね。そっちが勝手に返事しただけじゃない」
「黙れ」
「ふうん。見た目の割に、中身は随分と子供なのね」
男の気配は変わっていない。緊張が和らぎつつも、敵意は外へ向けられている。それが何であるのか、マリアにはわからない。何の音も無い静寂がしばし、場を支配する。
「敵を心配するなんて、どこかのお人よしみたいだけれど、心配かけて悪かったわね」
「五月蠅い」
「……レイスとは、知り合いなの?」
「答えられない」
律儀に返答が返ってくるものの、考えているのかというレベルの返答の速さに、マリアは悪戯を仕掛けることにした。恐らく、反応速度が遅ければ遅い程、不意打ちを食らうはずだ。間合いなど、隻眼男にとっては無意味のはずだ。だが不意打ちが弱点であることを、マリアは既に知っていた。
「レイスは、今どこにいるの」
「答えられんと言っているだろう」
「私がどこを拠点にしているのかは知っているんでしょう」
「だから如何したというんだ、くだらん」
間髪入れずに返答が返ってくる。真面目なところ、律儀なところはレイスに似ている。懐かしいレイスという義姉を思い浮かべ、マリアはついに問いを投げかけた。
「レイスが好きなの?」
「お前の言う好きとは、恋愛での意味だろう。そんな訳があるか」
「レイスは今、シュタインアムラインの診療所に入院しているわ」
「…………」
「なるほど。知らなかったわけ、か」
「……チッ」
「舌打ちなんて酷いわね。そっちが不意打ちに弱いだけでしょ」
マリアはそういうと、上げかけていた両手を下ろした。隻眼男は何も発しない。
「何、気付いてなかったわけ?」
「何処にいるかなど、俺の知ったところではない」
「何にイライラしてるかわからないけれど、自分の不意打ちに弱いところが悪いんじゃない」
「クソッ」
思わず笑みがこぼれたマリアは、ゆっくりと振り返った。
「どうせ戦わないんでしょ。私にも戦う意思はないわ。私に大した武器がない事くらい、わかってるでしょう」
「久しぶりに会ったっていうのに、随分じゃない?」
冷たい音声が再生される。機械仕掛けの音声の再生であり、背後にいる男の声ではない。
「…………そんな音声を用意していたっていう事は、想定内ってことなのね。なるほど。あの叫び声と写真は罠だったわけ」
隻眼の男は何も言葉を発さず、疑問も訂正も行わず、マリアが両手を挙げる事も拒絶する勢いだ。
それでも、マリアの行動を制限しておきながら、発言を許すのには理由がある筈である。男からの殺気は覚えのあるものであり、恐らく自身に対してではない筈だ。
それでも、男は今も敵であるはずだ。
「ここは何なの? 火事でもあったかのような、黒焦げが見えるけど」
静寂過ぎた場には、マリアの声が呼応するように若干のエコーが入る。音の反射によって、空間に二人しかいない事が把握できたものの、マリアは後ろを振り向くことも出来ない。
「狙われているのは私なのに、どうしてノコノコ出てきたのかってことを怒っているの?」
「何故、俺がお前の心配など」
隻眼男の声が発せられた。かの昔に聞いた、見た目通りのハスキーな声は言葉とは裏腹に、酷く澄んだ声をしている。すぐに言い淀んで息を飲んだ様子の男は、発言に対して不意を突かれたようだ。
「チッ」
「随分な態度ね。そっちが勝手に返事しただけじゃない」
「黙れ」
「ふうん。見た目の割に、中身は随分と子供なのね」
男の気配は変わっていない。緊張が和らぎつつも、敵意は外へ向けられている。それが何であるのか、マリアにはわからない。何の音も無い静寂がしばし、場を支配する。
「敵を心配するなんて、どこかのお人よしみたいだけれど、心配かけて悪かったわね」
「五月蠅い」
「……レイスとは、知り合いなの?」
「答えられない」
律儀に返答が返ってくるものの、考えているのかというレベルの返答の速さに、マリアは悪戯を仕掛けることにした。恐らく、反応速度が遅ければ遅い程、不意打ちを食らうはずだ。間合いなど、隻眼男にとっては無意味のはずだ。だが不意打ちが弱点であることを、マリアは既に知っていた。
「レイスは、今どこにいるの」
「答えられんと言っているだろう」
「私がどこを拠点にしているのかは知っているんでしょう」
「だから如何したというんだ、くだらん」
間髪入れずに返答が返ってくる。真面目なところ、律儀なところはレイスに似ている。懐かしいレイスという義姉を思い浮かべ、マリアはついに問いを投げかけた。
「レイスが好きなの?」
「お前の言う好きとは、恋愛での意味だろう。そんな訳があるか」
「レイスは今、シュタインアムラインの診療所に入院しているわ」
「…………」
「なるほど。知らなかったわけ、か」
「……チッ」
「舌打ちなんて酷いわね。そっちが不意打ちに弱いだけでしょ」
マリアはそういうと、上げかけていた両手を下ろした。隻眼男は何も発しない。
「何、気付いてなかったわけ?」
「何処にいるかなど、俺の知ったところではない」
「何にイライラしてるかわからないけれど、自分の不意打ちに弱いところが悪いんじゃない」
「クソッ」
思わず笑みがこぼれたマリアは、ゆっくりと振り返った。
「どうせ戦わないんでしょ。私にも戦う意思はないわ。私に大した武器がない事くらい、わかってるでしょう」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる