【完結】暁の荒野

Lesewolf

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第五輪「Nocturne-Arpeggio」

⑤-8 Revolutio-革命への狼煙②

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「動くな。振り返らずに、行動を停止せよ。我は汝をシャットダウンすることが出来る」
「久しぶりに会ったっていうのに、随分じゃない?」

 冷たい音声が再生される。機械仕掛けの音声の再生であり、背後にいる男の声ではない。

「…………そんな音声を用意していたっていう事は、想定内ってことなのね。なるほど。あの叫び声と写真は罠だったわけ」

 隻眼の男は何も言葉を発さず、疑問も訂正も行わず、マリアが両手を挙げる事も拒絶する勢いだ。
 それでも、マリアの行動を制限しておきながら、発言を許すのには理由がある筈である。男からの殺気は覚えのあるものであり、恐らく自身に対してではない筈だ。

 それでも、男は今も敵であるはずだ。

「ここは何なの? 火事でもあったかのような、黒焦げが見えるけど」

 静寂過ぎた場には、マリアの声が呼応するように若干のエコーが入る。音の反射によって、空間に二人しかいない事が把握できたものの、マリアは後ろを振り向くことも出来ない。

「狙われているのは私なのに、どうしてノコノコ出てきたのかってことを怒っているの?」
「何故、俺がお前の心配など」

 隻眼男の声が発せられた。かの昔に聞いた、見た目通りのハスキーな声は言葉とは裏腹に、酷く澄んだ声をしている。すぐに言い淀んで息を飲んだ様子の男は、発言に対して不意を突かれたようだ。

「チッ」
「随分な態度ね。そっちが勝手に返事しただけじゃない」
「黙れ」
「ふうん。見た目の割に、中身は随分と子供なのね」

 男の気配は変わっていない。緊張が和らぎつつも、敵意は外へ向けられている。それが何であるのか、マリアにはわからない。何の音も無い静寂がしばし、場を支配する。

「敵を心配するなんて、どこかのお人よしみたいだけれど、心配かけて悪かったわね」
「五月蠅い」
「……レイスとは、知り合いなの?」
「答えられない」

 律儀に返答が返ってくるものの、考えているのかというレベルの返答の速さに、マリアは悪戯を仕掛けることにした。恐らく、反応速度が遅ければ遅い程、不意打ちを食らうはずだ。間合いなど、隻眼男にとっては無意味のはずだ。だが不意打ちが弱点であることを、マリアは既に知っていた。

「レイスは、今どこにいるの」
「答えられんと言っているだろう」
「私がどこを拠点にしているのかは知っているんでしょう」
「だから如何したというんだ、くだらん」

 間髪入れずに返答が返ってくる。真面目なところ、律儀なところはレイスに似ている。懐かしいレイスという義姉を思い浮かべ、マリアはついに問いを投げかけた。

「レイスが好きなの?」
「お前の言う好きとは、恋愛での意味だろう。そんな訳があるか」
「レイスは今、シュタインアムラインの診療所に入院しているわ」
「…………」
「なるほど。知らなかったわけ、か」
「……チッ」
「舌打ちなんて酷いわね。そっちが不意打ちに弱いだけでしょ」

 マリアはそういうと、上げかけていた両手を下ろした。隻眼男は何も発しない。

「何、気付いてなかったわけ?」
「何処にいるかなど、俺の知ったところではない」
「何にイライラしてるかわからないけれど、自分の不意打ちに弱いところが悪いんじゃない」
「クソッ」

 思わず笑みがこぼれたマリアは、ゆっくりと振り返った。

「どうせ戦わないんでしょ。私にも戦う意思はないわ。私に大した武器がない事くらい、わかってるでしょう」
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