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第四輪「孤独と孤立と、猜疑心」
④-14 イ短調 作品16 第二楽章への誘い②
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「やめろ、アル! 落ち着け!」
レオンは我に返ると、患者に向きなおした。患者はティニアだ。呼吸が浅い。
「私が医師です。どうされましたか」
「あんた、医者か! 助けてくれ!! 頼む、頼む……何でもする、だから」
赤茶毛の男がすがるようにティニアを抱きしめると、ティニアは目をうっすらを開けた。
「うあ……。なに、ここ、どこ……」
「ティニア!」
「ティニア、わかりますか。ここは」
ティニアの瞳は虚ろいでおり、くっきりとした輪郭だけが確認できる。
「……ルク、なんでここに」
「えっ……、なんですって? ティニアさん?」
「あ……」
「足だ。右足を見てくれ、先生」
「わかりました、失礼しますよ」
レオンはすぐに彼女のスカートを捲ると、右足の血に染まった包帯と添え木が確認できた。
「アニー、すぐに準備を」
「はい!」
アニーと呼ばれたそばかすの看護師は、急ぎ足で奥の診察室へ向かった。残った黒髪の看護師は、赤茶毛の男を制止させながら、奥のシュタイン親分へ声を掛けた。
「シュタインさん、アドニス神父と。それからシャトーさんへ声を掛けてもらえますか? 孤児院も困るだろうけど、念のために連絡をして欲しいの」
「分かった! おい、アルベルトしっかりしろよォ!」
その声に反応はなく、アルベルトは項垂れたままティニアを抱きしめている。シュタイン親分はアルベルトの肩を三度叩くと、気合を入れて教会と孤児院へ走っていった。
「う…………」
「ティニア、わかりますか? ここは診療所ですよ」
「しん、りょーじょ? どうして? 庭園に行くんじゃないの」
「後で行きましょう。これから足の怪我を見ますから、いいですね」
「……はい」
ティニアが小さく頷いたとき、奥からアニー看護師の声が聞こえた。
「準備出来ました。マナもお願い!」
「わかったよ。ティニアさん、すぐ痛みが治まるからね」
「ッ…………!! まさか、切断するじゃ。や、やめてくれ。それだけは」
「落ち着いてください。そうしない為の処置です。そう、ゆっくりと呼吸をしてください。落ち着きましたか?」
「はい」
アルベルトは返事をしつつ腹式呼吸を始めると、直ぐに落ち着きを取り戻した。レオン医師はすぐにアルベルトへ声をかけ、指示をしていく。
「大丈夫ですよ。ティニアが安心するでしょうから、貴方が診察台まで運んでいただけますか? ゆっくりで構いません。廊下は狭いので横向きで。ありがとう、アニー先導を」
「わかりました。こちらです」
ティニアは既に目を閉じていたが、眠っているかのように静かな吐息を響かせていた。それでも、唇はかなり青く、痛々しい足の血痕が廊下を伝っていった。
影が覆いつくし、大きな幻影が空を舞うように、空中を駆け巡る。
空には天高々、月が当たり前のように大地をのぞき込み、そして、輝き続けるのだ。
永遠の呪いのように。
レオンは我に返ると、患者に向きなおした。患者はティニアだ。呼吸が浅い。
「私が医師です。どうされましたか」
「あんた、医者か! 助けてくれ!! 頼む、頼む……何でもする、だから」
赤茶毛の男がすがるようにティニアを抱きしめると、ティニアは目をうっすらを開けた。
「うあ……。なに、ここ、どこ……」
「ティニア!」
「ティニア、わかりますか。ここは」
ティニアの瞳は虚ろいでおり、くっきりとした輪郭だけが確認できる。
「……ルク、なんでここに」
「えっ……、なんですって? ティニアさん?」
「あ……」
「足だ。右足を見てくれ、先生」
「わかりました、失礼しますよ」
レオンはすぐに彼女のスカートを捲ると、右足の血に染まった包帯と添え木が確認できた。
「アニー、すぐに準備を」
「はい!」
アニーと呼ばれたそばかすの看護師は、急ぎ足で奥の診察室へ向かった。残った黒髪の看護師は、赤茶毛の男を制止させながら、奥のシュタイン親分へ声を掛けた。
「シュタインさん、アドニス神父と。それからシャトーさんへ声を掛けてもらえますか? 孤児院も困るだろうけど、念のために連絡をして欲しいの」
「分かった! おい、アルベルトしっかりしろよォ!」
その声に反応はなく、アルベルトは項垂れたままティニアを抱きしめている。シュタイン親分はアルベルトの肩を三度叩くと、気合を入れて教会と孤児院へ走っていった。
「う…………」
「ティニア、わかりますか? ここは診療所ですよ」
「しん、りょーじょ? どうして? 庭園に行くんじゃないの」
「後で行きましょう。これから足の怪我を見ますから、いいですね」
「……はい」
ティニアが小さく頷いたとき、奥からアニー看護師の声が聞こえた。
「準備出来ました。マナもお願い!」
「わかったよ。ティニアさん、すぐ痛みが治まるからね」
「ッ…………!! まさか、切断するじゃ。や、やめてくれ。それだけは」
「落ち着いてください。そうしない為の処置です。そう、ゆっくりと呼吸をしてください。落ち着きましたか?」
「はい」
アルベルトは返事をしつつ腹式呼吸を始めると、直ぐに落ち着きを取り戻した。レオン医師はすぐにアルベルトへ声をかけ、指示をしていく。
「大丈夫ですよ。ティニアが安心するでしょうから、貴方が診察台まで運んでいただけますか? ゆっくりで構いません。廊下は狭いので横向きで。ありがとう、アニー先導を」
「わかりました。こちらです」
ティニアは既に目を閉じていたが、眠っているかのように静かな吐息を響かせていた。それでも、唇はかなり青く、痛々しい足の血痕が廊下を伝っていった。
影が覆いつくし、大きな幻影が空を舞うように、空中を駆け巡る。
空には天高々、月が当たり前のように大地をのぞき込み、そして、輝き続けるのだ。
永遠の呪いのように。
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