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第四輪「孤独と孤立と、猜疑心」
④-8 花束を添えて②
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――――――。
――サーチ、プロテクト解除。
――サーチ。……ゲートを確認。ゲート、開放を指示。直ちに我の命に従え。
――我、汝の地に降り立つ。許可を受諾せよ。
「うーん。不可視化だと、よく視えないのよね」
情報はイタリアのシチリア島を指している。マリアは行き交う人々が自分自身を通り抜けていく光景が当たり前だと理解している。その様子を怪訝に思う必要などないのだ。
人々の会話は景気の良い話ではない。イタリアも、敗戦国となったと聞いている。それ以上の情報は、マリアにはない。
「勉強不足にも程があるわね、どうして興味を持てなかったのか」
マリアは過去のデータと現在のデータをと照らし合わせ、使われていない孤児院の前までやってくると、睨みをきかせた。
「孤児院なんて、全くもって調査したことなんてなかったもの。ぼんやりとしているものの、目を凝らせば見えなくは無いわね」
無惨な廃墟が広がっている。戦争の爆撃というわけでもなさそうだ。略奪に遭うこともなく、なにもないまま放置されたのだろうか。
瓦礫や剥き出しの鉄パイプは今のマリアには関係ない。文字通り、全て貫通しているのだ。当然だが、マリアの足音も施設内に響き渡ることは無く、そのまま静寂の空間が不気味に広がっている。
「引き出しはあるけど、引き出されたままね。略奪されたのかしら、それとも……」
(何かを調べた後……?)
「!!」
――拡大。
不意に、視界に入った写真がある。子どもたちの集合写真のようで、全く違う。
子どもたちの表情は脅え、恐怖に染まっている。一人一人、顔が分かるように並べられている。
「まるで、売り物の展示写真」
アルベルトは売られて買われたと言ってた。そもそもマリア自身も、臓器売買によって買われた孤児でたったという。運よく保護されたと聞いている。レイスもそうであったと云うが。
写真を掴もうとするものの、地面に伏せている紙一枚拾うことは出来ない。写真はこれだけが落ちているようだ。他はいくつかの机が無造作に破壊されている。
「…………何?」
風の音が響き、違和感が伝わって来たのだ。全身が危険信号を発し、警戒レベルを最大限まで上昇させる。
マリアは人の気配がないことを察知し、廃墟の外へ出たがやはり誰の姿も無い。
「何か、呼ばれた……? だれ、に」
周囲に目を凝らし、サーチを広範囲から狭めて精度を上げるものの、何も無い。まるで、自分たちの存在の痕跡など無かったかのように。
「レイス………? なわけないか。向こうから、叫び声がきこえる気がする」
マリアは、島の海岸沿いを目指す事にした。観光客が数名いる程度で、地元民と思われる者も数人確認できる。国籍も様々の様だ。
「軍人も居ない、ただの観光客ばかり。何故、あの叫びは……海の、向こう?」
マリアは海水に触れるものの、海底に入ることは出来ない。そのまま揺らぐ海面を器用に歩んでいくと、再び小さな島に辿り着いた。
「こんな島、あったかな?」
サーチによれば、特に取るに足らない岩山、島とも言えないようではある。領土問題に発展する様子もないような岩山だ。最近出来たのだろうか。
「何あれ」
廃墟の建物が一つ、小屋のようだ。小屋はずいぶん昔に壊れたまま放置されている様である。残骸から、流浪の民が数日ほど拠点として、不当に占拠していたのだろう事が窺える。
「……建物の下、海底に、何かある。でも、今は……あれ。このコードなんだろう。一か八かね」
――コード、入力…………。
――セキュリティ解除を確認。転送いたします。
「え!?」
可視化したまま、マリアはいつの間にか移動していた。音も違和感も、何も無かったのだ。
「ど、どういうこと⁉ ここは……」
慌てて座標をサーチすると、先程の岩山の真下のようだった。辺りは薄暗いものの、足元のライトだけが淡く点灯したままだ。
「何かの研究施設……? まるで、拠点みたいだけど、私の知らない拠点だわ……。ここ、なんだろう。誰も居ない、当たり前か。随分前に、放棄されたみたい」
青白いライトが精いっぱいであり、それを頼りに、目を凝らしていくと、何かのカプセルが破壊されている。2m程の大きなカプセルだが、中身は何もなく、ガラスが飛び散っている。
「可視化してなければ入れなかった……? でも、どうしてこんなコードを受信したのかな……。でも、危険な感じはしなかったのよね」
(――今度は感謝の言葉のように聞こえる。私に呼びかけていたでもいうの?)
マリアは違和感を覚え、振り返ろうとした瞬間。壁の黒焦げやボロボロの外壁が目に入るものの、眩い銀の発光は目を完全にダメにしてしまった。たまらず、意識が本体への帰還を果たした。
「キャアッ!! ……はぁ、ハァハァ………何だったの。まるで、見るのは危険だと言わんばかりに」
気付けばサーチをする前の、可視化をする前に帰宅した自室だ。時間はそれほど経過していない。
「ミュラー夫人が帰国して、お店が落ち着いたら、私はイタリアへ行ける。そこで、あの場所へ行けたら……」
(危険だよね。何があるかわからない。装備も整えなきゃ。武器、どうしよう)
「というか、私。アルベルトの為に行ったんじゃないよね。あれ、私は誰のために……」
マリアは違うと首を横にふると、すぐに愛しい姉を思い浮かべ、その名を口にした。
「レイス、どこにいるの………………」
――サーチ、プロテクト解除。
――サーチ。……ゲートを確認。ゲート、開放を指示。直ちに我の命に従え。
――我、汝の地に降り立つ。許可を受諾せよ。
「うーん。不可視化だと、よく視えないのよね」
情報はイタリアのシチリア島を指している。マリアは行き交う人々が自分自身を通り抜けていく光景が当たり前だと理解している。その様子を怪訝に思う必要などないのだ。
人々の会話は景気の良い話ではない。イタリアも、敗戦国となったと聞いている。それ以上の情報は、マリアにはない。
「勉強不足にも程があるわね、どうして興味を持てなかったのか」
マリアは過去のデータと現在のデータをと照らし合わせ、使われていない孤児院の前までやってくると、睨みをきかせた。
「孤児院なんて、全くもって調査したことなんてなかったもの。ぼんやりとしているものの、目を凝らせば見えなくは無いわね」
無惨な廃墟が広がっている。戦争の爆撃というわけでもなさそうだ。略奪に遭うこともなく、なにもないまま放置されたのだろうか。
瓦礫や剥き出しの鉄パイプは今のマリアには関係ない。文字通り、全て貫通しているのだ。当然だが、マリアの足音も施設内に響き渡ることは無く、そのまま静寂の空間が不気味に広がっている。
「引き出しはあるけど、引き出されたままね。略奪されたのかしら、それとも……」
(何かを調べた後……?)
「!!」
――拡大。
不意に、視界に入った写真がある。子どもたちの集合写真のようで、全く違う。
子どもたちの表情は脅え、恐怖に染まっている。一人一人、顔が分かるように並べられている。
「まるで、売り物の展示写真」
アルベルトは売られて買われたと言ってた。そもそもマリア自身も、臓器売買によって買われた孤児でたったという。運よく保護されたと聞いている。レイスもそうであったと云うが。
写真を掴もうとするものの、地面に伏せている紙一枚拾うことは出来ない。写真はこれだけが落ちているようだ。他はいくつかの机が無造作に破壊されている。
「…………何?」
風の音が響き、違和感が伝わって来たのだ。全身が危険信号を発し、警戒レベルを最大限まで上昇させる。
マリアは人の気配がないことを察知し、廃墟の外へ出たがやはり誰の姿も無い。
「何か、呼ばれた……? だれ、に」
周囲に目を凝らし、サーチを広範囲から狭めて精度を上げるものの、何も無い。まるで、自分たちの存在の痕跡など無かったかのように。
「レイス………? なわけないか。向こうから、叫び声がきこえる気がする」
マリアは、島の海岸沿いを目指す事にした。観光客が数名いる程度で、地元民と思われる者も数人確認できる。国籍も様々の様だ。
「軍人も居ない、ただの観光客ばかり。何故、あの叫びは……海の、向こう?」
マリアは海水に触れるものの、海底に入ることは出来ない。そのまま揺らぐ海面を器用に歩んでいくと、再び小さな島に辿り着いた。
「こんな島、あったかな?」
サーチによれば、特に取るに足らない岩山、島とも言えないようではある。領土問題に発展する様子もないような岩山だ。最近出来たのだろうか。
「何あれ」
廃墟の建物が一つ、小屋のようだ。小屋はずいぶん昔に壊れたまま放置されている様である。残骸から、流浪の民が数日ほど拠点として、不当に占拠していたのだろう事が窺える。
「……建物の下、海底に、何かある。でも、今は……あれ。このコードなんだろう。一か八かね」
――コード、入力…………。
――セキュリティ解除を確認。転送いたします。
「え!?」
可視化したまま、マリアはいつの間にか移動していた。音も違和感も、何も無かったのだ。
「ど、どういうこと⁉ ここは……」
慌てて座標をサーチすると、先程の岩山の真下のようだった。辺りは薄暗いものの、足元のライトだけが淡く点灯したままだ。
「何かの研究施設……? まるで、拠点みたいだけど、私の知らない拠点だわ……。ここ、なんだろう。誰も居ない、当たり前か。随分前に、放棄されたみたい」
青白いライトが精いっぱいであり、それを頼りに、目を凝らしていくと、何かのカプセルが破壊されている。2m程の大きなカプセルだが、中身は何もなく、ガラスが飛び散っている。
「可視化してなければ入れなかった……? でも、どうしてこんなコードを受信したのかな……。でも、危険な感じはしなかったのよね」
(――今度は感謝の言葉のように聞こえる。私に呼びかけていたでもいうの?)
マリアは違和感を覚え、振り返ろうとした瞬間。壁の黒焦げやボロボロの外壁が目に入るものの、眩い銀の発光は目を完全にダメにしてしまった。たまらず、意識が本体への帰還を果たした。
「キャアッ!! ……はぁ、ハァハァ………何だったの。まるで、見るのは危険だと言わんばかりに」
気付けばサーチをする前の、可視化をする前に帰宅した自室だ。時間はそれほど経過していない。
「ミュラー夫人が帰国して、お店が落ち着いたら、私はイタリアへ行ける。そこで、あの場所へ行けたら……」
(危険だよね。何があるかわからない。装備も整えなきゃ。武器、どうしよう)
「というか、私。アルベルトの為に行ったんじゃないよね。あれ、私は誰のために……」
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