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第三輪「とある、一つの約束と」
③-9 小景異情「その五」③-43-5
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子供たちの朝食中、先に後片付けをしているティニアより先に食堂へやってきたシャトー婦人は、他の子供達の様子に目を配る。圧倒的に職員の数が足りないのだ。
特に土日は他の職員が休みであり、ティニアしか職員がいないのだ。子供達もそれを理解しているため、土日だけは数人ずつ早めに食べて入れ替わる。年長者が常に幼い子の面倒を見るため、そこまでの苦労はない。
しかし、全ての子供達は母親の存在を欲する。構わなければ気を引くためにトラブルを起こしてしまい、他の子供達との仲違いを招いてしまう。
「ちゃんと順番にいくから、ちゃんと自分のペースで食べるのよ。早めに食べ終わっても、後でちゃんと顔を見に行くから待ってるのよ」
年齢的には一番年上のシャトー婦人だが、子供達はどうしてもティニアを求めてしまう。だからこそ、ティニアが食堂へやってくるのは一番最後である。甘え癖が出てしまい、一向に食べないのだ。
「量は足りる? 遠慮しないで、足りなかったら私に教えてね」
子供たちは頷きながら黙々と食べていく。やはり子供達が自分の作った食事を美味しそうに食べる姿は何度見ても良い。
「ほら、零してるわよ。そう、いい子ね。ゆっくり食べて」
シャトー婦人はハウスキーパーとして、ずっと働き続けている。今はボランティアだろうが関係なく、孤児院で働いている方が生きている心地がするのだ。
ティニアは給金を断った自分に対し、子供服等の繕いの仕事を頼んできた。当然だが、そちらでは修繕の前金が多く手渡されたのだ。修繕はハウスキーパーとしての、シャトー婦人への仕事依頼であり、孤児院での仕事はボランティアとして割り切っている。でなければ、ボランティアなど出来ず、給金が発生するだろう。
シャトー婦人は、給金よりも子供たちが沢山食べられる方が嬉しいのだ。
「シャトーさん、じゃがいもすっごくおいしい!」
「あら有難う。熱いから、良く冷ますのよ」
シャトー婦人は4人の子を産んだものの、全員と死別し、更に夫まで亡くしてしまった。最後に思い出のシュタインアムラインで過ごし、身投げするつもりだった。何もかもに絶望していた。
あの時、教会にティニアが居なければ、彼女が話しかけなければ、アドニスの説教を聞くことも、孤児院で働くことも縁がなかったであろう。自身の仕事がハウスキーパーで子育ての経験もあったため、孤児院での子育て勉強会も、ティニアが付き添ってくれた。
「あ、ティニアだ」
「やーやー! 食べてるかい~」
「食べ終わったよ!」
「ティニア、あそぼー!」
「いやー食器片づけないとね、ほらゆっくり持って運んで」
ティニアの周囲は既に食べ終えた子供たちでいっぱいだ。慌てて食べ終えた子供たちは、それを見て近づくのをやめてしまった。
いつもの光景であり、そんな子たちにティニアは笑顔で声をかけて回る。それでも、話しかけられるまで、目を逸らしたままふくれた子供たちに目配せすると、もう一人の母はその子たちに寄り添っていった。
特に土日は他の職員が休みであり、ティニアしか職員がいないのだ。子供達もそれを理解しているため、土日だけは数人ずつ早めに食べて入れ替わる。年長者が常に幼い子の面倒を見るため、そこまでの苦労はない。
しかし、全ての子供達は母親の存在を欲する。構わなければ気を引くためにトラブルを起こしてしまい、他の子供達との仲違いを招いてしまう。
「ちゃんと順番にいくから、ちゃんと自分のペースで食べるのよ。早めに食べ終わっても、後でちゃんと顔を見に行くから待ってるのよ」
年齢的には一番年上のシャトー婦人だが、子供達はどうしてもティニアを求めてしまう。だからこそ、ティニアが食堂へやってくるのは一番最後である。甘え癖が出てしまい、一向に食べないのだ。
「量は足りる? 遠慮しないで、足りなかったら私に教えてね」
子供たちは頷きながら黙々と食べていく。やはり子供達が自分の作った食事を美味しそうに食べる姿は何度見ても良い。
「ほら、零してるわよ。そう、いい子ね。ゆっくり食べて」
シャトー婦人はハウスキーパーとして、ずっと働き続けている。今はボランティアだろうが関係なく、孤児院で働いている方が生きている心地がするのだ。
ティニアは給金を断った自分に対し、子供服等の繕いの仕事を頼んできた。当然だが、そちらでは修繕の前金が多く手渡されたのだ。修繕はハウスキーパーとしての、シャトー婦人への仕事依頼であり、孤児院での仕事はボランティアとして割り切っている。でなければ、ボランティアなど出来ず、給金が発生するだろう。
シャトー婦人は、給金よりも子供たちが沢山食べられる方が嬉しいのだ。
「シャトーさん、じゃがいもすっごくおいしい!」
「あら有難う。熱いから、良く冷ますのよ」
シャトー婦人は4人の子を産んだものの、全員と死別し、更に夫まで亡くしてしまった。最後に思い出のシュタインアムラインで過ごし、身投げするつもりだった。何もかもに絶望していた。
あの時、教会にティニアが居なければ、彼女が話しかけなければ、アドニスの説教を聞くことも、孤児院で働くことも縁がなかったであろう。自身の仕事がハウスキーパーで子育ての経験もあったため、孤児院での子育て勉強会も、ティニアが付き添ってくれた。
「あ、ティニアだ」
「やーやー! 食べてるかい~」
「食べ終わったよ!」
「ティニア、あそぼー!」
「いやー食器片づけないとね、ほらゆっくり持って運んで」
ティニアの周囲は既に食べ終えた子供たちでいっぱいだ。慌てて食べ終えた子供たちは、それを見て近づくのをやめてしまった。
いつもの光景であり、そんな子たちにティニアは笑顔で声をかけて回る。それでも、話しかけられるまで、目を逸らしたままふくれた子供たちに目配せすると、もう一人の母はその子たちに寄り添っていった。
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