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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-20 なんて悪い冗談を②
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「ちょ、そんなわけないでしょ! よくもまあデタラメをペラペラと……、あなたねえッ」
「あれ、マリア。おかえり~!」
台所からエプロン姿のティニアが顔を出すと、まだ棒を片手にボールで何かを混ぜているところだった。特に変わった様子もなく、いつも通りの彼女だ。マリアを確認すると、すぐに料理台へ戻ってしまった。
「お、おかえりじゃないでしょ!? なんなの、こいつ……!!」
「あー、うん。そう思ったんだけどさ。なんか、ついてきちゃったんだよ」
「ついてきちゃった、じゃないでしょ!? 犬じゃないのよ!? どーすんのよ!!」
アルベルトは思わず噴き出した。
「俺は一応、ワーグだから、北欧神話でいう魔狼としたら、少しは…………、イヌ科に含まれるかもしれないな」
「えー、なに君、犬宣言? 勘弁してよねえ~。犬は飼えないよ」
ティニアはフライパンの音を響かせコンロに置くと、いい音を響かせて肉団子を焼き始めた。音の後から香ばしい香りが部屋を包み込む。横の鍋はおそらく、彼女得意のグラーシュ、煮込みシチューだろう。
「お前さあ」
やはり読書したそのまま喋り出す男に、マリアは無言で男を睨みつける。すると、気配に気付いた男がニヤニヤと見つめてきた。
「男だろうが女だろうが、重たい女は嫌われるぞ」
「はぁ!?」
失礼なことを平然と言ってのける男は、マリアを見つめたまま含み笑いを始めた。
「いくら何でも、構いすぎだろ。心配しすぎだ。なんでもそうだが、限度っていうものがあるだろ。過度な干渉や依存は、信頼に亀裂を生むだけだぞ」
「なんなの、さっきから……。この畜生イヌ……!!」
「あーそれ、ティニアを前にしても言えるかな」
「なんですって!?」
「ちょろいネコさんだなあ、お前」
「ふざけないでよ! ほんと、なんなの?」
すると、アルベルトは吹き出すと腹を抱えてひとしきり大笑いし、目からは涙がこぼれた。男が最初に語っていたように、とても30歳には見えないのだ。寧ろもっと年若く、10代のようにも見える。無邪気に笑う、この男の変わり身に困惑していると、ティニアが台所から二人に呼び掛けた。
「仲がいいのは別にいいけど、なんで二人とも当たり前のように手伝おうとしないんだよ?」
ティニアはじゃがいものすり潰しを丸め始めていた。肉団子を焼いている最中に、じゃがいもの団子、クロースを作るつもりのようだ。
「ボクは、誰かと一緒に作って、誰かと一緒に食べたいんだけどなあ」
「ああ、すぐ行くよ」
男がすぐに本に栞を指し、当たり前のように台所に向かおうとしたため、マリアは慌てて男を追い抜くと、男に鞄を投げつけた。
「その鞄、ティニアからの贈り物なの。雑に使ったら嫌われるわよ」
「てめえ、投げて寄越した癖に……」
マリアは振り返り様に、男に舌を出して見せると、そのまま台所へステップを踏みながら駆けていった。
「あれ、マリア。おかえり~!」
台所からエプロン姿のティニアが顔を出すと、まだ棒を片手にボールで何かを混ぜているところだった。特に変わった様子もなく、いつも通りの彼女だ。マリアを確認すると、すぐに料理台へ戻ってしまった。
「お、おかえりじゃないでしょ!? なんなの、こいつ……!!」
「あー、うん。そう思ったんだけどさ。なんか、ついてきちゃったんだよ」
「ついてきちゃった、じゃないでしょ!? 犬じゃないのよ!? どーすんのよ!!」
アルベルトは思わず噴き出した。
「俺は一応、ワーグだから、北欧神話でいう魔狼としたら、少しは…………、イヌ科に含まれるかもしれないな」
「えー、なに君、犬宣言? 勘弁してよねえ~。犬は飼えないよ」
ティニアはフライパンの音を響かせコンロに置くと、いい音を響かせて肉団子を焼き始めた。音の後から香ばしい香りが部屋を包み込む。横の鍋はおそらく、彼女得意のグラーシュ、煮込みシチューだろう。
「お前さあ」
やはり読書したそのまま喋り出す男に、マリアは無言で男を睨みつける。すると、気配に気付いた男がニヤニヤと見つめてきた。
「男だろうが女だろうが、重たい女は嫌われるぞ」
「はぁ!?」
失礼なことを平然と言ってのける男は、マリアを見つめたまま含み笑いを始めた。
「いくら何でも、構いすぎだろ。心配しすぎだ。なんでもそうだが、限度っていうものがあるだろ。過度な干渉や依存は、信頼に亀裂を生むだけだぞ」
「なんなの、さっきから……。この畜生イヌ……!!」
「あーそれ、ティニアを前にしても言えるかな」
「なんですって!?」
「ちょろいネコさんだなあ、お前」
「ふざけないでよ! ほんと、なんなの?」
すると、アルベルトは吹き出すと腹を抱えてひとしきり大笑いし、目からは涙がこぼれた。男が最初に語っていたように、とても30歳には見えないのだ。寧ろもっと年若く、10代のようにも見える。無邪気に笑う、この男の変わり身に困惑していると、ティニアが台所から二人に呼び掛けた。
「仲がいいのは別にいいけど、なんで二人とも当たり前のように手伝おうとしないんだよ?」
ティニアはじゃがいものすり潰しを丸め始めていた。肉団子を焼いている最中に、じゃがいもの団子、クロースを作るつもりのようだ。
「ボクは、誰かと一緒に作って、誰かと一緒に食べたいんだけどなあ」
「ああ、すぐ行くよ」
男がすぐに本に栞を指し、当たり前のように台所に向かおうとしたため、マリアは慌てて男を追い抜くと、男に鞄を投げつけた。
「その鞄、ティニアからの贈り物なの。雑に使ったら嫌われるわよ」
「てめえ、投げて寄越した癖に……」
マリアは振り返り様に、男に舌を出して見せると、そのまま台所へステップを踏みながら駆けていった。
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