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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-17 黄昏時を紫雲に代えゆ③
しおりを挟む「英語圏の者かと思われましたか」
「まあ、警戒はするよね。1936年、ドイツのポツダムだって? 英語圏の奴でそこに居たのなら、それはもうスパイだろう」
「……なるほど。短絡的ではあるものの、警戒するのであれば当然でしょうね」
「あの子がどう解釈したのかは知らないけど、世間知らずだからって騙せると思っていたら大間違いだよ」
空間に置いて行かれ気味の神父アドニスは、その時には小さな事象に気付いてしまっていた。自分が変に動くことで、恐らく気取られてしまうだろう。丁度良いことに、アドニスはアルベルトの背後におり表情で悟られることは無い。だが男は軍人である。気配で悟る可能性はあった。
アドニスはもはや、心の中で神に祈る他、術がなかったのだ。
ティニアは男の瞳を見ていない。明らかに逸らしている。恐らくアルベルトも、これが演技であると気付いている。
「正直に話したのですが」
「孤児らしいね」
「ええ、変な箇所はお伝えしているようですね」
「そうだね。孤児であるのなら、少なくとも名前だけでは素性がわかる情報は、ない」
「……そうですね」
男は一瞬ためらいを見せた。
「例え、君がデタラメを話したところで、真実を話したところで、君には何の落ち度もなく、そしてその情報には何の価値もない」
「ですが、一つだけわかることがありますよ」
「へー、なに?」
「貴女が、今を偽ってそこに居るという事でしょうかね」
ティニアは男に目線を合わせない。むしろそれ以上に、はっきりと視線をそらしてしまった。
「書籍を預かった、ヘッセの書籍を私に預けた女性が、話しておられたのですよ。貴女が見た目通りの冷たい印象の性格ではなく、お道化た上で無邪気に微笑んでしまうため、単純な愚かな男の心をより奪うのだと」
「…………………………はあ?」
ティニアは、アルベルトへの目線をついに交わしたものの、激しく動揺した表情のまま固まってしまった。アドニスからは、男の表情はわからない。
「………………はあ。なーるほど、アンナさんか。置いていくんじゃなかったなあ。よけーなことを」
「なるほど。確かに愛らしい」
「はあ!?」
ティニアはアドニスの想定通り、照れるわけでもなく恥じらう事もなく、怪訝と一目でわかる実にわかりやすい表情を創り出すと、男に歩み寄った。その反応に一瞬安心したはいいものの、アドニスの不安を拭い去ることは出来なかった。
「っていうか」
もう少しで手が届く、という距離まで歩み寄ったものの絶妙な距離で立ち止まると、ティニアは突然安心したかのように表情をやわらげた。いつものティニアだった。
「偽ってんのは、そっちもでしょ。なにその話し方!」
「………………ふふ。ハハハ! 全く、バレてたか」
「え!? ま、まさか、本当にお知り合いなのですか!?」
気の抜けた発言は声が裏返り、なんとも言えない表情のアドニスは今までで最も硬直した。
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