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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-12 金色を持つ①
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すっかり住み慣れた家は灯りが付いておらず、前までマリアが帰宅する暗さのままだった。不安な気持ちを抑えられず、玄関のドアをノックするものの、応答は無い。鍵も掛かったままだ。
「私よ、マリアよ。開けるよ? ティニア、いる?」
リビングは薄暗く、誰の姿も無かった。人の気配はあり、ティニアの部屋の扉は開いている。
「………………ティニア、居るんでしょ?」
ティニアは自室に居てくれたものの、その姿は安心とはほど遠い不安にマリアを駆り立てた。ティニアは床に座り込み、膝を抱えたままうずくまったまま動かない。
「ティニア、大丈夫……?」
応答は無いものの、呼吸に合わせて肩が揺れている。呼吸が浅い。
「…………何か、あった?」
ティニアは短く頷いただけで、顔を上げる気配がない。手には、大切そうに銀の懐中時計が握られている。普段から哀しげに見つめている、懐中時計だ。
「…………声、掛けられたの?」
ティニアは呼吸を止めると、そのまま体制で激しく首を横に振った。
「知り合い、なの?」
「……わからない」
その解答は、マリアの予想から大きく外れていた。あの男が、ティニアと何らかの関わりがあるように思えたからだ。
アルベルトの言う、ドイツのポツダムに居たという、ティニアと似ているようで違う、知り合い。
それは、ティニア本人なのではないだろうか。そして、彼女はポツダムからこの地へ、事情を抱えて避難してきたのではないか、と言うこと。何となく、そんな気はしていたのだ。
目の前で塞ぎ込む女性は、恐らくドイツに居たのだ。ドイツへの思い入れも、他の者よりもずっと強い。
「……わからないというのは、身姿が変わってしまったと言うこと? それとも、誰なのかわからない、と言うこと?」
「…………それも、よくわからないの」
「ティニア……」
アルベルトは、嘘などついていないようだった。ドイツからティニアを、追いかけてきたのではないかとも考えた。ただ、あの様子は追っ手などでは無い。スイスには、本当に亡命してきたのであろう。そして、ティニアを見付けてしまったのだ。ドイツから来た身でありながら、ティニアを必死で探し、教会にも訪れていた。
憶測で失敗したにせよ、ティニアの様子を見れば厭でもわかる。アンナが世話を焼いたのも、何かを感じたからだろう。男の素性や、ティニアとの関係を知っていた可能性もある。
どんな男にも靡かず、器用に躱していく姿はあまりに不自然なのだ。何故なら、彼女は愛情がなんなのか、理解しているのだ。それは、母性だけでは説明が付かない。
「私よ、マリアよ。開けるよ? ティニア、いる?」
リビングは薄暗く、誰の姿も無かった。人の気配はあり、ティニアの部屋の扉は開いている。
「………………ティニア、居るんでしょ?」
ティニアは自室に居てくれたものの、その姿は安心とはほど遠い不安にマリアを駆り立てた。ティニアは床に座り込み、膝を抱えたままうずくまったまま動かない。
「ティニア、大丈夫……?」
応答は無いものの、呼吸に合わせて肩が揺れている。呼吸が浅い。
「…………何か、あった?」
ティニアは短く頷いただけで、顔を上げる気配がない。手には、大切そうに銀の懐中時計が握られている。普段から哀しげに見つめている、懐中時計だ。
「…………声、掛けられたの?」
ティニアは呼吸を止めると、そのまま体制で激しく首を横に振った。
「知り合い、なの?」
「……わからない」
その解答は、マリアの予想から大きく外れていた。あの男が、ティニアと何らかの関わりがあるように思えたからだ。
アルベルトの言う、ドイツのポツダムに居たという、ティニアと似ているようで違う、知り合い。
それは、ティニア本人なのではないだろうか。そして、彼女はポツダムからこの地へ、事情を抱えて避難してきたのではないか、と言うこと。何となく、そんな気はしていたのだ。
目の前で塞ぎ込む女性は、恐らくドイツに居たのだ。ドイツへの思い入れも、他の者よりもずっと強い。
「……わからないというのは、身姿が変わってしまったと言うこと? それとも、誰なのかわからない、と言うこと?」
「…………それも、よくわからないの」
「ティニア……」
アルベルトは、嘘などついていないようだった。ドイツからティニアを、追いかけてきたのではないかとも考えた。ただ、あの様子は追っ手などでは無い。スイスには、本当に亡命してきたのであろう。そして、ティニアを見付けてしまったのだ。ドイツから来た身でありながら、ティニアを必死で探し、教会にも訪れていた。
憶測で失敗したにせよ、ティニアの様子を見れば厭でもわかる。アンナが世話を焼いたのも、何かを感じたからだろう。男の素性や、ティニアとの関係を知っていた可能性もある。
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