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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-10 蝶、青にたなびきて②
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「ふざけないで。バカにしているの? どう考えても偽名じゃない」
「いえ。疑われる事を想定していましたので、最初から本名を名乗る気はありませんでした」
「なんですって?」
「真実を話したところで貴女が私を信用しない限り、それは偽りとして扱われるでしょう。であれば、正直に真実を話したところで損をするのは私だけですからね」
「…………………………」
男は軍人だ。ウイリアム・マーティンなどという偽名を出す点からいっても、軍人の悪い冗談だ。
恐らく拠点に居た、多くの退役者と同じ雰囲気を持つのだ。それは間違いないだろう、佇まいが不自然だ。当然だが、スイス人ではないだろう。
「じゃあ本当の名前は?」
「…………アルベルト・ワーグ」
「国は」
「生まれはイタリア、シチリア」
「……………………」
偶然の一致の筈だ。マリアはイタリアのシチリア島で育ったというが、確証はない。
「1933年に、今のドイツへ渡りました」
「それはまた、わざわざ混迷の年に」
「ええ、本当に」
アルベルトは溜息を付き、北の方角を見つめた。ドイツの軍人であるのであれば、よほどの事情があるだろう。わざわざこの時代にその名を出すなど、男にとっては不利でしかない。
「年齢は」
「11月で、30でしょうかね」
「随分と曖昧な言い方なのね」
「孤児なもので。孤児院へは1928年に入りまして、その時点で4~6歳くらいではないかという事でした。わかりやすさとして、1920年生まれということにされています」
淡々と語るアルベルトには、余裕が見て取れる。
「………………その孤児院の名前は」
「よくある名前ですよ」
「いいから答えて」
「聖マリア孤児院」
(悪い冗談だわ)
「…………………………それは、シチリアにあるのね」
「厳密には、ありました」
「……そう」
男はマリアのあっさりとした解答に素直に驚いた様子で、しばらく思案したようだった。
「疑わない、と」
「そうね。そういう地域だから」
「貴女、イタリア出身で?」
男の言葉に動揺を隠しつつ、マリアは正直に語ることにした。
「ええ。私は奇しくもシチリアの出身よ」
「なるほど。御同郷者でしたか……」
「孤児院はどうなったの」
「私は噂話でしか知りませんが、突然面倒を見る大人が姿を消したそうです」
「……………………」
「孤児を売り、金銭を得ていましたからね」
「………………………………」
男は吹き出すと、今度は憐れんで天を見つめた。偽りではないだろう。
「要するに、私も売られた口ですよ」
「いえ。疑われる事を想定していましたので、最初から本名を名乗る気はありませんでした」
「なんですって?」
「真実を話したところで貴女が私を信用しない限り、それは偽りとして扱われるでしょう。であれば、正直に真実を話したところで損をするのは私だけですからね」
「…………………………」
男は軍人だ。ウイリアム・マーティンなどという偽名を出す点からいっても、軍人の悪い冗談だ。
恐らく拠点に居た、多くの退役者と同じ雰囲気を持つのだ。それは間違いないだろう、佇まいが不自然だ。当然だが、スイス人ではないだろう。
「じゃあ本当の名前は?」
「…………アルベルト・ワーグ」
「国は」
「生まれはイタリア、シチリア」
「……………………」
偶然の一致の筈だ。マリアはイタリアのシチリア島で育ったというが、確証はない。
「1933年に、今のドイツへ渡りました」
「それはまた、わざわざ混迷の年に」
「ええ、本当に」
アルベルトは溜息を付き、北の方角を見つめた。ドイツの軍人であるのであれば、よほどの事情があるだろう。わざわざこの時代にその名を出すなど、男にとっては不利でしかない。
「年齢は」
「11月で、30でしょうかね」
「随分と曖昧な言い方なのね」
「孤児なもので。孤児院へは1928年に入りまして、その時点で4~6歳くらいではないかという事でした。わかりやすさとして、1920年生まれということにされています」
淡々と語るアルベルトには、余裕が見て取れる。
「………………その孤児院の名前は」
「よくある名前ですよ」
「いいから答えて」
「聖マリア孤児院」
(悪い冗談だわ)
「…………………………それは、シチリアにあるのね」
「厳密には、ありました」
「……そう」
男はマリアのあっさりとした解答に素直に驚いた様子で、しばらく思案したようだった。
「疑わない、と」
「そうね。そういう地域だから」
「貴女、イタリア出身で?」
男の言葉に動揺を隠しつつ、マリアは正直に語ることにした。
「ええ。私は奇しくもシチリアの出身よ」
「なるほど。御同郷者でしたか……」
「孤児院はどうなったの」
「私は噂話でしか知りませんが、突然面倒を見る大人が姿を消したそうです」
「……………………」
「孤児を売り、金銭を得ていましたからね」
「………………………………」
男は吹き出すと、今度は憐れんで天を見つめた。偽りではないだろう。
「要するに、私も売られた口ですよ」
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