33 / 257
第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-3 白銀の太陽を求めて③
しおりを挟む
もうすぐペラルゴを切り盛りしているミュラー夫人が、ドイツやオランダへ勉強のための渡航予定がある。
正直なところ、マリアはこの渡航には反対している。
何故なら、ドイツの情勢が良くないからだ。特にミュラー夫人は単身で渡ろうとしていたのだ。
さすがに止めようと思い、説得のためにティニアの元へ連れていった程だった。ところが、肝心のティニアは肯定的であり、財団で責任をもって対応するというのだ。既にミュラーの旦那の許可も得ているという。
「ミュラーさん。出張に行く側が心配ですって、顔に書いてあるわ」
「おはよう、マリア。当然でしょう、心配よ」
「心配なのは、ティニアでしょ?」
「何を言ってるの。あなたのことだって心配なのよ? もう、マリアったら……」
「ふふふ。ごめんなさい」
ミュラー夫人は体格が良く、旦那より3cm高いという。時に豪快であり、陽気な彼女はマリアが好きだと感じるまで、さほど時間がかからなかった。時に乙女になる夫人は、その相手の旦那と仲が良い。いつまでたっても新婚そのものだ。
「予備の鍵は念のために旦那へ渡しておくから」
「うん。本当に気を付けて行ってきてくださいよ」
「わかってますよ。あの人に怒られてしまうしね」
「本当に、気を付けてよ? 私も、怒るどころですまさないから」
「そうね。マリアが怒ったら怖そうだし、気を付けるわ」
本当なら行かせたくはない。夫人がドイツへ行くのは、フローリストの仕事のためだけではない。それはただの直感に過ぎないものの、恐らく的は得ている。ティニアが気にしているドイツの情報を探りに行くのであろうことは、明白であった。
「見送り、本当に行かなくていいの?」
「それは、なんというか……。旦那が、ちょっと、ね」
「あぁ……」
マリアは夫人と同じくげんなりしたように見せながら、大笑いした。
「ああ妻よ、行かないでおくれ。ずっと私の傍に……」
「もう、やめてマリア。本当にそうなんだから……」
マリアは以前見かけた劇のまねごとのように、手を上に掲げて見せた。ミュラー夫人の旦那であれば、恐らく本当にそうやってのけるのだろう。確かに恥ずかしすぎる。
「ティニアのことも、お願いね。でも、マリアも体には気を付けて」
「もちろんよ。任せて! これから迎えに行って、また一緒に肉を食らうわ」
「ふふ。そうね、また行ってらっしゃい」
夫人は名残惜しそうにぺラルゴを下から上へ見上げると、マリアへ微笑んでくれた。
「メアリーの花露店でも、色々学べると思うわよ」
花屋は夫人の不在中、マリアが一人で切り盛りする自信がなかったため、ひと月程の休業となる。その間、夫人の知人女性であるメアリーの花露店に厄介になるのだ。
メアリーは40代後半の女性であり、年齢の割に体が丈夫ではないのだという。
正直なところ、マリアはこの渡航には反対している。
何故なら、ドイツの情勢が良くないからだ。特にミュラー夫人は単身で渡ろうとしていたのだ。
さすがに止めようと思い、説得のためにティニアの元へ連れていった程だった。ところが、肝心のティニアは肯定的であり、財団で責任をもって対応するというのだ。既にミュラーの旦那の許可も得ているという。
「ミュラーさん。出張に行く側が心配ですって、顔に書いてあるわ」
「おはよう、マリア。当然でしょう、心配よ」
「心配なのは、ティニアでしょ?」
「何を言ってるの。あなたのことだって心配なのよ? もう、マリアったら……」
「ふふふ。ごめんなさい」
ミュラー夫人は体格が良く、旦那より3cm高いという。時に豪快であり、陽気な彼女はマリアが好きだと感じるまで、さほど時間がかからなかった。時に乙女になる夫人は、その相手の旦那と仲が良い。いつまでたっても新婚そのものだ。
「予備の鍵は念のために旦那へ渡しておくから」
「うん。本当に気を付けて行ってきてくださいよ」
「わかってますよ。あの人に怒られてしまうしね」
「本当に、気を付けてよ? 私も、怒るどころですまさないから」
「そうね。マリアが怒ったら怖そうだし、気を付けるわ」
本当なら行かせたくはない。夫人がドイツへ行くのは、フローリストの仕事のためだけではない。それはただの直感に過ぎないものの、恐らく的は得ている。ティニアが気にしているドイツの情報を探りに行くのであろうことは、明白であった。
「見送り、本当に行かなくていいの?」
「それは、なんというか……。旦那が、ちょっと、ね」
「あぁ……」
マリアは夫人と同じくげんなりしたように見せながら、大笑いした。
「ああ妻よ、行かないでおくれ。ずっと私の傍に……」
「もう、やめてマリア。本当にそうなんだから……」
マリアは以前見かけた劇のまねごとのように、手を上に掲げて見せた。ミュラー夫人の旦那であれば、恐らく本当にそうやってのけるのだろう。確かに恥ずかしすぎる。
「ティニアのことも、お願いね。でも、マリアも体には気を付けて」
「もちろんよ。任せて! これから迎えに行って、また一緒に肉を食らうわ」
「ふふ。そうね、また行ってらっしゃい」
夫人は名残惜しそうにぺラルゴを下から上へ見上げると、マリアへ微笑んでくれた。
「メアリーの花露店でも、色々学べると思うわよ」
花屋は夫人の不在中、マリアが一人で切り盛りする自信がなかったため、ひと月程の休業となる。その間、夫人の知人女性であるメアリーの花露店に厄介になるのだ。
メアリーは40代後半の女性であり、年齢の割に体が丈夫ではないのだという。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる