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第二輪「例え鳴り響いた鐘があったとしても」
②-1 白銀の太陽を求めて①
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この物語はフィクションです。実在の人物、団体、国とは一切関係がありません。
=====
1950年4月某日。永世中立国スイスのシャフハウゼンにあるシュタインアムラインはその名の通り、ライン川に面している。気温は10度ほどあるが、昨晩から振り始めた雨は町をより一層薄暗く、肌寒さで大地を満たそうとしている。
スイスは雨模様になることが多く、一年を通してみてもやはり雨が多い。
シュタインアムラインはなんといっても、建物の至る所に描かれたフレスコ画が美しい。至る所で花を中心に植物が植えられ、今を生きる人々によって美しい町は形成し守られている。
その様な美しい町で、朱色の髪を持つ女性マリアは勤務先である花屋ペラルゴ(コウノトリ由来)で働いている。マリアは早めに起きると、同居人ティニアと朝の散歩を兼ねた通勤をしていた。
「まさかティニアの日課が早朝の礼拝だったなんてね」
「ほとんど毎朝出掛けてたんだけどなあ」
ティニアは謎ばかりある女性である上に、とある財団に所属している。彼女は教会に隣接した孤児院で働いているが、修道女ではない。そんな彼女が早朝に教会へ赴き、帰宅してからマリアと朝食を取り、また教会の隣の孤児院へ出勤していたのだと知った。
「いくら何でも、朝から往復って疲れない? あ、まさか私の朝食作りのためだったじゃないでしょうね」
「違うよ~。個人的にちょっと歩きたいだけなんだ。早起きだし、散歩ついでにお祈りしてるだけだよ。早めに出た時は2回目のお祈りをするときもあったかな。あれはこれ、これはそれだよ」
ティニアは手で物をどこかへ投げる仕草をして見せると、無邪気に笑って見せた。
そんな彼女と歩く旧市街は人々を当たり前のように中世の世界へと誘う、いわゆる観光名所だ。町はドイツとの国境沿いに面しており、美しい旧市街は大戦時に何度も誤爆攻撃として空爆を受けていた。
「ブドウ畑っていつくらいから忙しくするのかな」
「どうしたの急に」
「町へ来たとき、ティニアが案内してくれたじゃない。ブドウ畑が多いんだよ~って」
「ああ、そうだったねえ」
ティニアはワインが得意な方ではないといいながら、町に慣れずにいたマリアを連れ出したことがある。ティニアは自身の事を小出しに多く教えてくれるが、肝心なところを一切話そうとはしない。謎が多くも、気さくで生活全般を支援してくれる彼女に対し、マリアが疑う事はなかった。
「さすがにもう、ワインの味は分かるようになったんでしょう」
「うーん。ボクはブドウジュースがいいなあ」
それでも、今はもう違う。ティニアに興味がなかったわけではない。彼女を、マリアは誤解していたのだ。マリアにとって、恩人であり姉であり、そして母である女性と見比べていたのだ。
ティニアに心配な面が出来たからではない。体調も心配ではあるものの、そうではないのだ。当たり前のように、彼女に向き合おうとしているのだ。たとえティニアが敵であろうとも、それはきっと変わることなど無いのだ。
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1950年4月某日。永世中立国スイスのシャフハウゼンにあるシュタインアムラインはその名の通り、ライン川に面している。気温は10度ほどあるが、昨晩から振り始めた雨は町をより一層薄暗く、肌寒さで大地を満たそうとしている。
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ティニアは謎ばかりある女性である上に、とある財団に所属している。彼女は教会に隣接した孤児院で働いているが、修道女ではない。そんな彼女が早朝に教会へ赴き、帰宅してからマリアと朝食を取り、また教会の隣の孤児院へ出勤していたのだと知った。
「いくら何でも、朝から往復って疲れない? あ、まさか私の朝食作りのためだったじゃないでしょうね」
「違うよ~。個人的にちょっと歩きたいだけなんだ。早起きだし、散歩ついでにお祈りしてるだけだよ。早めに出た時は2回目のお祈りをするときもあったかな。あれはこれ、これはそれだよ」
ティニアは手で物をどこかへ投げる仕草をして見せると、無邪気に笑って見せた。
そんな彼女と歩く旧市街は人々を当たり前のように中世の世界へと誘う、いわゆる観光名所だ。町はドイツとの国境沿いに面しており、美しい旧市街は大戦時に何度も誤爆攻撃として空爆を受けていた。
「ブドウ畑っていつくらいから忙しくするのかな」
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