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第一輪「朱の福音はどんな音?」
①-16 君ありて日常が欠ける④
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「ちょっと、ティニア。あなた大丈夫なの?」
「え? なに、ボクやばいの!?」
「おねえちゃん、やばいの!? ぶつりほうそく、こえちゃうの!?」
「やっばーい! なになに! また物理法則、越えちゃうしかないね!」
子供たちとお道化てみせるティニアは普段と変わらず、余計に不気味さを感じる。
「ちょっと、ティニアこっち来て!」
「おわっ」
マリアはティニアの腕を掴み、子供たちにウインクしながら物陰に連れ込んだ。しかし、ティニアは普段通りであり、素のままであった。
「もう! 一気に物事が起こりすぎよ!」
「え! ごめん、なに! え?」
「もう、あなたって本当に。……はぁ、仕方ないわね」
「え?」
ティニアは真っ直ぐマリアを見つめている。彼女の青い瞳は透き通っているものの、彼女本来の意志の強さそのものだった。その瞳は、逆に心配してマリアを見つめている。両者の身長さはほとんどなく、自然と目線が合わさる。
マリアは物陰から顔を出すと、皆に向かって公言した。
「あの! 本日はティニアを連れて帰ります! これは、私のワガママです! また明日、ごきげんよう!」
「ふええ!?」
「ほら、ティニア! 二人で久々に、そうだ肉でも食べに行こう!」
「ふええ……!?」
はてなマークを頭の上に浮かべているであろうティニアに対し、マリアは照れ顔で呟いた。その様子を見て、アドニスや夫人たち、子供たちの表情も和らいでいる。
外に出たところで、マリアはティニアを抱きしめて叫んだ。
「もー、本当に! いつも、わけわかんないのよ、まじ!」
「????????」
朱色の髪を靡かせ、かつて少女だったラーレはマリアとして。いつの日か憧れた金髪を持つ女性、ティニアを引っ張っていった。
例え、同じ青い瞳がレイスと異なるとしても、今のマリアには関係ないのだ。ティニアの少し癖毛で短めの金髪が、レイスのストレートで風になびく毛並みと似ても似つかぬとしても。
既にマリアの中に芽生えてしまったティニアへの想いが、感情が、レイスへ向けたものと異なるのも当たり前のことなのだ。
ティニアはレイスじゃない。レイスはティニアじゃない。
二人は別人なのだ。同一など、ありえないのだ。わかり切っていたはずだった。だからこそ、同じような憧れを抱く必要も、同じように依存する必要もなかった。何に囚われ、何に執着していたというのか。
レイスは確かに自分を育ててくれた人物だ。姉であり、母であるのだ。ティニアとは違う。当たり前だ。
ティニアはマリアにとって、命の恩人であり、生活を共にしてくれる大切な友人の一人なのだ。
レイスとティニアは違うのだ。当たり前のことだったのだ。
同じように思いたい、思えないのが歯がゆかった。
どうして二人はこうも似ていないのか。それが許せなかった。
それこそ、自身の中にあるエゴでしかない。懐かしい思い出に浸るだけの、無知で無力なラーレとは違うのだ。
そんなくだらないエゴで、大切な二人を比べようなど、おこがましいとしか思えない。
「自分で自分が、一番自分が許せない」
マリアはティニアに聞こえてもいいように呟いた。手を一方的に引かれたままのティニアは、呆気にとられたままだった口を開けていた。が、確かにその呟きを耳にしたのだ。
ティニアは肩の力を抜き、僅かにゆっくりと呼吸すると、静かに微笑んだ。そしてマリアに歩調を合わせ、隣に並ぶと手を繋いできた。
マリアは少し照れた表情を浮かべながら握り返すと、二人の足取りは、先ほどよりも軽やかに弾んでいった。
「え? なに、ボクやばいの!?」
「おねえちゃん、やばいの!? ぶつりほうそく、こえちゃうの!?」
「やっばーい! なになに! また物理法則、越えちゃうしかないね!」
子供たちとお道化てみせるティニアは普段と変わらず、余計に不気味さを感じる。
「ちょっと、ティニアこっち来て!」
「おわっ」
マリアはティニアの腕を掴み、子供たちにウインクしながら物陰に連れ込んだ。しかし、ティニアは普段通りであり、素のままであった。
「もう! 一気に物事が起こりすぎよ!」
「え! ごめん、なに! え?」
「もう、あなたって本当に。……はぁ、仕方ないわね」
「え?」
ティニアは真っ直ぐマリアを見つめている。彼女の青い瞳は透き通っているものの、彼女本来の意志の強さそのものだった。その瞳は、逆に心配してマリアを見つめている。両者の身長さはほとんどなく、自然と目線が合わさる。
マリアは物陰から顔を出すと、皆に向かって公言した。
「あの! 本日はティニアを連れて帰ります! これは、私のワガママです! また明日、ごきげんよう!」
「ふええ!?」
「ほら、ティニア! 二人で久々に、そうだ肉でも食べに行こう!」
「ふええ……!?」
はてなマークを頭の上に浮かべているであろうティニアに対し、マリアは照れ顔で呟いた。その様子を見て、アドニスや夫人たち、子供たちの表情も和らいでいる。
外に出たところで、マリアはティニアを抱きしめて叫んだ。
「もー、本当に! いつも、わけわかんないのよ、まじ!」
「????????」
朱色の髪を靡かせ、かつて少女だったラーレはマリアとして。いつの日か憧れた金髪を持つ女性、ティニアを引っ張っていった。
例え、同じ青い瞳がレイスと異なるとしても、今のマリアには関係ないのだ。ティニアの少し癖毛で短めの金髪が、レイスのストレートで風になびく毛並みと似ても似つかぬとしても。
既にマリアの中に芽生えてしまったティニアへの想いが、感情が、レイスへ向けたものと異なるのも当たり前のことなのだ。
ティニアはレイスじゃない。レイスはティニアじゃない。
二人は別人なのだ。同一など、ありえないのだ。わかり切っていたはずだった。だからこそ、同じような憧れを抱く必要も、同じように依存する必要もなかった。何に囚われ、何に執着していたというのか。
レイスは確かに自分を育ててくれた人物だ。姉であり、母であるのだ。ティニアとは違う。当たり前だ。
ティニアはマリアにとって、命の恩人であり、生活を共にしてくれる大切な友人の一人なのだ。
レイスとティニアは違うのだ。当たり前のことだったのだ。
同じように思いたい、思えないのが歯がゆかった。
どうして二人はこうも似ていないのか。それが許せなかった。
それこそ、自身の中にあるエゴでしかない。懐かしい思い出に浸るだけの、無知で無力なラーレとは違うのだ。
そんなくだらないエゴで、大切な二人を比べようなど、おこがましいとしか思えない。
「自分で自分が、一番自分が許せない」
マリアはティニアに聞こえてもいいように呟いた。手を一方的に引かれたままのティニアは、呆気にとられたままだった口を開けていた。が、確かにその呟きを耳にしたのだ。
ティニアは肩の力を抜き、僅かにゆっくりと呼吸すると、静かに微笑んだ。そしてマリアに歩調を合わせ、隣に並ぶと手を繋いできた。
マリアは少し照れた表情を浮かべながら握り返すと、二人の足取りは、先ほどよりも軽やかに弾んでいった。
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