3 / 257
第0輪「その夢は二度観る」
⓪-2 追憶の朱は何を見て②
しおりを挟む「敵は幸い、一人だったようですね」
「レイス、腕……、肩は大丈夫なの?」
「問題ありません。動かすことが出来ますので」
「そういう事じゃないわ。私は貴女を心配して……」
「屈んで!」
レイスは既に別の狙撃手を打ち抜いていた。負傷しようが片手で、利き手でなくとも敵を圧倒できる技術を持っている。そんな不意打ちに強い彼女を負傷させたのは、ラーレの油断からだ。
「行きましょう。ここはもうダメです」
「皆は……」
「静かすぎます。皆もう、生きていないのでしょう」
「そんな」
レイスは先ほどと同じ口調で即答した。
最初こそ左肩を庇い、右手で肩を掴んではいたが、今は両手で銃を握っている。レイスの左肩が無事ではないことは、その出血量から理解できる。
それでも心配しているという意味で伝えたかったのだが、姉にとっては戦力になるかどうかの質問だったと判断されたのだろう。そういう人なのだ。
「退避の通路を使いましょう。ここから出なければ」
その美しい金髪が風になびき、光に輝く度に自身の髪色も金色であればと、ラーレは何度も思っていた。彼女に髪を伸ばすよう頼んだところ、その時はしばらく伸ばしてくれた。それが少し前になり、予告もなく短く切ってしまったのだ。
余計なことを考えていたラーレは首を振り、その雑念を振りほどいた。
(――ダメ。集中しなきゃ)
最後の角を曲がり、壁から隠し部屋へと入る。
「さすがに、誰もいないわよね」
「わかりません、拳銃は直ぐに撃てるように、構えたままで行きましょう」
レイスの髪は鮮血で染まっていた。
ラーレはレイスに褒められた時からずっと伸ばし続けている。少しでも彼女に近づこうと、髪には細心の注意をはらった。なんとか長く綺麗なまま、ついに腰まで到達したが、レイスは特に何も言ってくれなかった。
「他所事を考えている余裕はない筈です。現実逃避は辞めなさい。集中して」
レイスの言葉に、ラーレは拳銃を構え直した。
拠点の銃撃戦は長時間に及ばず、すでに周辺の音も、生存者の鼓動も聞こえないほどの静寂を見せている。入念に計画された奇襲だったと見て取れる。
動ける者はラーレと、負傷したレイスだけであろう。
「まだ油断しないでください。いいですね」
「……わかったわ」
二人は、まだ鮮血で汚れていない、隠し通路を進んでいった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる