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 本当に瞬間移動できた驚きも、椅子に縛られたライドを見た時、吹き飛んだ。

「ライド!!!」
 
 私がライドへ駆け寄ると、彼は唖然とした表情で私を見つめる。

「ニア。ど、どうやってここに……え? え?」

「魔法を使ったのね。あなたもあの魔女に魔法を授かったようね」

 奥から声がした。
 聞き覚えのある薄気味悪い声。
 そこに私が顔を向けると、フィルが立っていた。
 手には何か入ったビーカーを持っている。

「フィル……あなたを許さない」

 鷹のような目で睨みつけるも、彼女は全く怯む様子はなく、むしろ嬉しそうに言う。

「こちらこそ許さないわ。私からライドを奪った恋敵を」

「恋敵? 奪った? 何を言っているの?」

「ふふ、ライドから聞いてみれば、私の本当の名前とか」

 私はライドへ顔を向けた。
 彼は少しだけ目を逸らしながら口を開いた。

「フィルはローズなんだ。覚えているだろ? 学園時代に僕達の友人だった彼女のことを」

 私は頷く。

「でも顔は全然違うわ。声も背丈も……」

「当たり前よ。魔法で変えたもの」

 フィル……いや、ローズは高らかに言った。
 まるで自分が王女様であるかのような、余裕のある口ぶりだった。

「私はずっとライドのことが好きだったの。勇気を出して告白したけれど、結果はダメだった。それどころかライドはあなたと付き合い始めた」

 声には憎しみが籠っていた。
 
「私はショックで学校に行けなくなった。愛する人を友人に奪われたんだもの。当たり前よね?」

 同情を求めるようにローズは言う。
 ライドは口を開くが、すぐに閉じた。
 きっと謝罪をしようとしたのだろう。

「私は何とか学園を卒業できたけれど、ずっと絶望していた。あなたたちが結婚したと聞いて、体が焼ける思いだった。ずっとずっと苦しんでいた」

「逆恨みよ」
 
 堪らず私はそう言った。
 しかしローズは無視して言葉を続ける。

「そしてある時、思いついたの。復讐をしようって。噂を頼りに魔女が住む森を訪れた。魔女に出会って私の人生は変わった。醜いローズはもういない。私の新しい人生がスタートしたの」

 一体どれだけの寿命を魔女に捧げたのだろう。
 そんなことがふと気になるも、同情は湧かない。

「あなたたちに復讐をして私は幸せになるの。ふふっ、幸せになるのよ。ふふ」

 ローズは不気味な笑みでそう言った。
 そんな彼女に私は言い放つ。

「断言する。たとえ復讐をしても幸せにはなれないわよ。一生不幸なままよ。あなたは」

「黙れ!!!」

 ローズが手に持ったビーカーを床に投げつけた。
 ビーカーが割れて中の液体が床に広がる。
 じゅっと床が焼けるような音がして、煙が立った。

「あんたたちが悪いのよ……あんたたちが私の人生を狂わした……私は悪くない……ただ、幸せになりたいだけ……私は悪くない……幸せになりたいだけ」

 自己暗示をかけるようにローズは言葉を繰り返す。
 しかしやがてピタリと言葉を止めると、私を鬼のような形相で睨みつけた。

「まずはあんたからよニア」

 ローズが私に手を掲げる。
 怒りに染まった危険な目をしていた。
 
「やめるんだローズ!!!」

 ライドの叫びが部屋にこだました。
 私はごくりと唾を呑み込む。

「死ねぇ!!!!」

 ローズの手の前に火の玉が現れた瞬間、魔女の老婆がふっと現れた。
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