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六歳の時、僕は不思議な力に目覚めた。
それは人の心の声を聞けるという力だった。
最初この力に目覚めた時、僕はとても困惑した。
なぜなら人の声が二重になって聞こえてきたからだ。
どちらが本心でどちらが口から出ている言葉なのか見分けることは困難で、次第に僕は人と関わらなくなった。
パーティーなんて所に行ったならば、僕は苦痛を味わった。
そもそも人の数が多くて皆が楽しそうに会話をしている。
その声と共に、皆の心の声が脳裏に奔流のように流れ込んできて、頭がパンクしそうになった。
しかも頭に流れ込んでくる声は、できれば触れたくないような酷いもので、僕は子供ながらに大人とはこんなに汚いことを考えて生きているのかと悲しくなった。
しかし、歳を重ねるごとに、僕はこの力を上手く制御できるようになっていった。
心の声を聞きたい人を選ぶことができるようになり、そのおかげで随分とストレスが減った。
この力のことは誰にも話していなかった。
外国では魔法使いの類は忌み嫌われていると聞くし、王子である僕がそんな力を持っているのだと知られたら、王族の体裁にも関わる。
僕は第一王子で、父である国王も次の王はお前だと言っている。
そんな僕の不穏な力のことなんて、話すだけ不都合なのだ。
そうして秘密を抱えたまま時は過ぎていき、僕は十四歳になった。
なるべく力を使わないように日々を過ごし、王子としての責務を果たす毎日。
そんな折、僕はレイスと出会った。
出会ったと言っても、彼女と実際に話したわけではなく、ただパーティー会場で見かけただけ。
パーティーが退屈になった僕はイタズラ半分で、心の声を聞く力を使った。
昔に使った時のように、ほとんどの貴族が公言できないような酷いことを考えていたり、相手の悪口を言っていた。
しかしそんな中一人だけ、周囲を気遣い、まるで少女のような心の声を出す女性がいたのだ。
彼女こそがレイスだった。
その穢れのない心の声を聞いたとき、僕は思わずつぶやいてしまう。
「なんて綺麗な心の持ち主なんだ……」
僕は彼女に話しかけたかったが、もう帰らなくてはいけない時間だった。
家臣に促され僕は名残惜しく会場を後にしたが、帰りの馬車の中でも頭の中はレイスのことでいっぱいだった。
それから数年後。
レイスが婚約したと人伝に耳にした。
秘かに彼女へ想いを寄せていた僕はショックを受けた。
しかし彼女がそれで幸せなら良いのだ。
本当に彼女の幸せを願うならば、自ら身を引くことも大事なのだ。
しかし四か月程経って、レイスの婚約者であるブライトとパーティーで出くわした。
僕はいけないことだと思いながらも、彼の心の声に耳を澄ます。
『さぁて、今日はどの子と遊ぼうかなぁ……レイスみたいな地味な女じゃなくて、アンブレラみたいな可愛い奴がいいなぁ……』
ああ、そうか。
僕は一瞬でこの男の下衆さに気づいた。
そして心の声を聞き続けていると、二か月後に僕が主催したパーティーで、レイスを貶める計画を立てていることが判明した。
僕はこの時覚悟を決めた。
最愛の人レイスを、ブライトから奪い去る覚悟を。
そして二か月後。
心の声で聞いた通り、ブライトは浮気相手のアンブレラと共に、レイスを貶めた。
公爵令息である彼に誰も反抗できないようで、レイスは国外追放を言い渡された。
もしレイスがブライトのことを心から愛しているのなら、僕は彼女を助けることはできなかっただろう。
しかしレイスの心には既にブライトへの愛はなかった。
僕は安堵の息をはくと、レイスの後ろまで歩を進める。
「大丈夫だよ、レイス」
僕がいるからね。
それは人の心の声を聞けるという力だった。
最初この力に目覚めた時、僕はとても困惑した。
なぜなら人の声が二重になって聞こえてきたからだ。
どちらが本心でどちらが口から出ている言葉なのか見分けることは困難で、次第に僕は人と関わらなくなった。
パーティーなんて所に行ったならば、僕は苦痛を味わった。
そもそも人の数が多くて皆が楽しそうに会話をしている。
その声と共に、皆の心の声が脳裏に奔流のように流れ込んできて、頭がパンクしそうになった。
しかも頭に流れ込んでくる声は、できれば触れたくないような酷いもので、僕は子供ながらに大人とはこんなに汚いことを考えて生きているのかと悲しくなった。
しかし、歳を重ねるごとに、僕はこの力を上手く制御できるようになっていった。
心の声を聞きたい人を選ぶことができるようになり、そのおかげで随分とストレスが減った。
この力のことは誰にも話していなかった。
外国では魔法使いの類は忌み嫌われていると聞くし、王子である僕がそんな力を持っているのだと知られたら、王族の体裁にも関わる。
僕は第一王子で、父である国王も次の王はお前だと言っている。
そんな僕の不穏な力のことなんて、話すだけ不都合なのだ。
そうして秘密を抱えたまま時は過ぎていき、僕は十四歳になった。
なるべく力を使わないように日々を過ごし、王子としての責務を果たす毎日。
そんな折、僕はレイスと出会った。
出会ったと言っても、彼女と実際に話したわけではなく、ただパーティー会場で見かけただけ。
パーティーが退屈になった僕はイタズラ半分で、心の声を聞く力を使った。
昔に使った時のように、ほとんどの貴族が公言できないような酷いことを考えていたり、相手の悪口を言っていた。
しかしそんな中一人だけ、周囲を気遣い、まるで少女のような心の声を出す女性がいたのだ。
彼女こそがレイスだった。
その穢れのない心の声を聞いたとき、僕は思わずつぶやいてしまう。
「なんて綺麗な心の持ち主なんだ……」
僕は彼女に話しかけたかったが、もう帰らなくてはいけない時間だった。
家臣に促され僕は名残惜しく会場を後にしたが、帰りの馬車の中でも頭の中はレイスのことでいっぱいだった。
それから数年後。
レイスが婚約したと人伝に耳にした。
秘かに彼女へ想いを寄せていた僕はショックを受けた。
しかし彼女がそれで幸せなら良いのだ。
本当に彼女の幸せを願うならば、自ら身を引くことも大事なのだ。
しかし四か月程経って、レイスの婚約者であるブライトとパーティーで出くわした。
僕はいけないことだと思いながらも、彼の心の声に耳を澄ます。
『さぁて、今日はどの子と遊ぼうかなぁ……レイスみたいな地味な女じゃなくて、アンブレラみたいな可愛い奴がいいなぁ……』
ああ、そうか。
僕は一瞬でこの男の下衆さに気づいた。
そして心の声を聞き続けていると、二か月後に僕が主催したパーティーで、レイスを貶める計画を立てていることが判明した。
僕はこの時覚悟を決めた。
最愛の人レイスを、ブライトから奪い去る覚悟を。
そして二か月後。
心の声で聞いた通り、ブライトは浮気相手のアンブレラと共に、レイスを貶めた。
公爵令息である彼に誰も反抗できないようで、レイスは国外追放を言い渡された。
もしレイスがブライトのことを心から愛しているのなら、僕は彼女を助けることはできなかっただろう。
しかしレイスの心には既にブライトへの愛はなかった。
僕は安堵の息をはくと、レイスの後ろまで歩を進める。
「大丈夫だよ、レイス」
僕がいるからね。
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