上 下
7 / 11

しおりを挟む
「カトリーヌ、この家にしようか」

実家で執事をしていたホワイトは、私に柔らかな笑みを向けた。
家を去って一か月、隣街まで来た私たちは、新しい家の前にいた。

「そうね。実家に比べれば小さいけど、周りは自然ばかりだし、落ち着いていていいわね」

街から少し離れた小高い丘に、その家は建っていた。
実家に比べればこじんまりとしていたが、まるで王族の屋敷のようで、漂う雰囲気が何とも味わい深かった。

「だろ? 君が喜んでくれて本当に嬉しいよ。一生懸命さがした甲斐があったよ」

「ありがとうホワイト。あなたがいてくれて本当によかった」

彼の屈託のない笑顔を見つめながら、私は今までの苦しかった日々を想起する。

……こうなることは薄々分かっていた。
父が欲しいのは私の能力であって、私ではない。
金であって、娘ではないのだ。

私の仕事が増える度、父の私を見る視線は冷徹なものに変わっていった。
その視線の裏側には、異常な程の金への執着が感じられた。

このままでは私は利用されるだけの人生を送ってしまう。
そう考えた私は、行動に出た。

「カトリーヌ? 大丈夫かい?」

はっと我に返る。
目の前には、私の顔を不思議そうにのぞき込むホワイトの顔があった。
父とは違い、美しい宝石のような目をしている。

「……うん。ちょっと考え事をしていただけだから」

私がそう言うと、彼はふっと笑みをこぼし、家の扉に手をかけた。
ギィィという音と共に、扉が開く。

「じゃあ入ろうか」

今日から私たちはここで暮らす。
あの自分勝手な家族とは縁を切って。

「ええ」

今頃、家の金が全くないこと気づき、慌てふためいているだろう。
もしかしたら領地の住民が暴動でも起こして、家に押し寄せているかもしれない。
きっと父は目を血走らせて私の名前を口にするはずだ。
持てるだけの恨みを込めて。

ふいに背後から強い風が吹き、私は歩き出す。
ホワイトの手に自分の手を重ね、家の中に足を踏み入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい

音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」 「何を言ってるの……呆れたわ」 夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。 背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。 愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。

音爽(ネソウ)
恋愛
好きな人ができた、だけど相手は振り向いてくれそうもない。 どうやら彼は他人に無関心らしく、どんなに彼女が尽くしても良い反応は返らない。 仕方なく諦めて離れたら怒りだし泣いて縋ってきた。 「キミがいないと色々困る」自己中が過ぎる男に彼女は……

完結 愛人と名乗る女がいる

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、夫の恋人を名乗る女がやってきて……

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」 私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。 大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。 将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。 1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。 すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。 「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」 ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。 1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線? 「……私は着せ替え人形じゃないわ」 でも、ひとりだけ変わらない人がいた。 毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。 「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」 ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。 だから好きになってしまった……友人のはずなのに。 ====================== (他「エブリスタ」様に投稿)

処理中です...