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窓から見える外の喧騒が、今の自分にはうるさすぎた。
カーテンを閉めると、椅子に座り机の上の本を手に取る。
王子と平民の少女が結びつく話で、途中まで読んだところにしおりが挟まれていた。
「はぁ……」
ため息をつきながら、本を開き、憂鬱な気分のまま本の文字に目を走らせる。
アーサーに脅しを受けてから、私はこうして部屋に籠るようになっていた。
もう自分の力じゃなにもできないと知って、深く絶望していた。
きっとこのままアーサーは浮気をし続けて、私は名ばかりの妻としてこの家に住み続ける。
それは理想の結婚とは程遠く、しかし抵抗できるだけの力が私にはない。
そんな思考が読書を邪魔したのか、本に書かれている文字が思ったように頭に入ってこなかった。
「もういいや……」
本を読むのが嫌になって、しおりをはさんで閉じた。
何をしようかと虚空を見つめていると、ふいに扉がノックされた。
「ローラ様。アーサー様がお呼びです。今すぐ応接間に来るようにと」
それは友人の使用人の声だった。
私にアーサーの浮気を教えてくれた張本人だ。
「分かった。すぐ行くわ」
「かしこまりました。失礼しました」
そう答えると、足音が遠ざかっていく。
私は重たい腰を上げて、椅子から立ち上がる。
なぜアーサーが応接間を選んだのかは分からないが、また何かよからぬ企みをしているに違いなかった。
しかし私に逃げるという選択肢はなかった。
反抗すればきっと彼は私の家族に危害を加えてくる。
男爵家なんて公爵家の力があれば、すぐに潰すことができるだろう。
相変わらずの憂鬱を引きずりながら、私は部屋の扉を開けた。
……応接間に入ると、アーサーと見知らぬ女性がソファに座っていた。
二人は真剣な顔で、特にアーサーは怒ったように私を見つめていた。
「やっと来たかローラ。そこに座れ」
怒気の籠った声でアーサーはそう言った。
私は「はい」と淡々と言うと、向かいのソファに腰をかけた。
それを見て、アーサーが口火を切る。
「お前……僕とエレーナの関係をばらしたな」
「……はい?」
意味が分からない言葉を投げかけられて、私は困惑した。
少し考えるもやはり分からず、首を傾げる。
「あの……エレーナとはもしかして隣の女性のことでしょうか? えっと……私は彼女を見たのは初めてなのですが……」
「嘘を言うな!!!」
アーサーは立ち上がり、私に叫ぶ。
「お前のせいで僕達は酷い目にあったんだぞ! 街じゃ浮気公爵ってあだ名で呼ばれるし、彼女だって友人を何人も失ったんだ! なんで僕達の関係をばらしたんだ! 死にたいのか!?」
「はい?」
訳が分からないが、私は必死に考える。
おそらくアーサーの浮気相手はこのエレーナという女性なのだろう。
そして二人の関係が周囲にバレてしまったようで、アーサーは私が犯人じゃないかと思っている。
「アーサー様。何か勘違いをされておりませんか? 私はあなたたちの関係を今知りましたし、周囲にばらしたりしておりません」
「なんだと!? 嘘をつくなこのクソ女が!!!」
アーサーは私の方まで歩いてくると、胸ぐらを掴んだ。
エレーナが立ち上がり、青い顔で叫ぶ。
「止めてアーサー様! 暴力はダメ!」
彼女の声に少しは冷静さを取り戻したのか、アーサーは歯ぎしりをして私の胸ぐらから手を放した。
「くそっ……」
そして元の席に座ると、震える唇で告げる。
「ローラ。お前には慰謝料を払ってもらうからな」
「……はい?」
「だってそうだろう。お前のせいで僕達は迷惑を被ったんだ。離婚はしてやるよ、しかし慰謝料はお前が払え」
「そんな……慰謝料を払うのはあなたの方でありませんか! これいじょう責任を転嫁されても困ります!」
その時だった。
背後で応接間の扉が開く音がした。
振り返ると、そこにはアーサーの父がいた。
カーテンを閉めると、椅子に座り机の上の本を手に取る。
王子と平民の少女が結びつく話で、途中まで読んだところにしおりが挟まれていた。
「はぁ……」
ため息をつきながら、本を開き、憂鬱な気分のまま本の文字に目を走らせる。
アーサーに脅しを受けてから、私はこうして部屋に籠るようになっていた。
もう自分の力じゃなにもできないと知って、深く絶望していた。
きっとこのままアーサーは浮気をし続けて、私は名ばかりの妻としてこの家に住み続ける。
それは理想の結婚とは程遠く、しかし抵抗できるだけの力が私にはない。
そんな思考が読書を邪魔したのか、本に書かれている文字が思ったように頭に入ってこなかった。
「もういいや……」
本を読むのが嫌になって、しおりをはさんで閉じた。
何をしようかと虚空を見つめていると、ふいに扉がノックされた。
「ローラ様。アーサー様がお呼びです。今すぐ応接間に来るようにと」
それは友人の使用人の声だった。
私にアーサーの浮気を教えてくれた張本人だ。
「分かった。すぐ行くわ」
「かしこまりました。失礼しました」
そう答えると、足音が遠ざかっていく。
私は重たい腰を上げて、椅子から立ち上がる。
なぜアーサーが応接間を選んだのかは分からないが、また何かよからぬ企みをしているに違いなかった。
しかし私に逃げるという選択肢はなかった。
反抗すればきっと彼は私の家族に危害を加えてくる。
男爵家なんて公爵家の力があれば、すぐに潰すことができるだろう。
相変わらずの憂鬱を引きずりながら、私は部屋の扉を開けた。
……応接間に入ると、アーサーと見知らぬ女性がソファに座っていた。
二人は真剣な顔で、特にアーサーは怒ったように私を見つめていた。
「やっと来たかローラ。そこに座れ」
怒気の籠った声でアーサーはそう言った。
私は「はい」と淡々と言うと、向かいのソファに腰をかけた。
それを見て、アーサーが口火を切る。
「お前……僕とエレーナの関係をばらしたな」
「……はい?」
意味が分からない言葉を投げかけられて、私は困惑した。
少し考えるもやはり分からず、首を傾げる。
「あの……エレーナとはもしかして隣の女性のことでしょうか? えっと……私は彼女を見たのは初めてなのですが……」
「嘘を言うな!!!」
アーサーは立ち上がり、私に叫ぶ。
「お前のせいで僕達は酷い目にあったんだぞ! 街じゃ浮気公爵ってあだ名で呼ばれるし、彼女だって友人を何人も失ったんだ! なんで僕達の関係をばらしたんだ! 死にたいのか!?」
「はい?」
訳が分からないが、私は必死に考える。
おそらくアーサーの浮気相手はこのエレーナという女性なのだろう。
そして二人の関係が周囲にバレてしまったようで、アーサーは私が犯人じゃないかと思っている。
「アーサー様。何か勘違いをされておりませんか? 私はあなたたちの関係を今知りましたし、周囲にばらしたりしておりません」
「なんだと!? 嘘をつくなこのクソ女が!!!」
アーサーは私の方まで歩いてくると、胸ぐらを掴んだ。
エレーナが立ち上がり、青い顔で叫ぶ。
「止めてアーサー様! 暴力はダメ!」
彼女の声に少しは冷静さを取り戻したのか、アーサーは歯ぎしりをして私の胸ぐらから手を放した。
「くそっ……」
そして元の席に座ると、震える唇で告げる。
「ローラ。お前には慰謝料を払ってもらうからな」
「……はい?」
「だってそうだろう。お前のせいで僕達は迷惑を被ったんだ。離婚はしてやるよ、しかし慰謝料はお前が払え」
「そんな……慰謝料を払うのはあなたの方でありませんか! これいじょう責任を転嫁されても困ります!」
その時だった。
背後で応接間の扉が開く音がした。
振り返ると、そこにはアーサーの父がいた。
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