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その日からトリリオンは堂々と不倫をするようになった。
わざとなのか分からないが、シーラの家の玄関前でシーラとキスを交わすようになり、更には家にまで連れてきた。
「お久しぶりですね。レノアさん」
久しぶりに間近で見たシーラは、以前の暗い彼女とは違っていた。
人生の楽しみに気づいたようなキラキラした瞳で、私をどこか嬉しそうに見つめていた。
トリリオンと出会わせてくれてありがとう……そう言われているようだった。
私はもう二人の不倫について言及できるだけの元気をなくしていた。
トリリオンにビンタをされて以降、封印していた両親との苦い記憶が常に蘇るようになったからだ。
今の私には、トリリオンの妻としての務めは果たせなかった。
苦しみの中で、一人もがき苦しむだけしか出来なかったのだ。
そうして時が過ぎ、トリリオンは私に言った。
「シーラと旅行に行ってくるよ。数日戻らない。留守は頼んだぞ」
トリリオンの隣には、嬉しそうに笑うシーラの姿があった。
まるで王女様のように綺麗に髪を整え、化粧をした彼女は、誰よりもトリリオンの妻に相応しい見た目をしていた。
「大丈夫ですよレノアさん。決して間違いは起こりませんから」
今更何を言っているのだろう。
心の中で悪態をつくも、それを口にすることなど今の私には出来なかった。
「分かりました。お気をつけて」
それが私の出せる精一杯の言葉だった。
トリリオンとシーラは顔を見合わせて笑う。
そして私に手を振って旅行に出かけた。
「……行っちゃった」
なんで自分が何も言えなかったのだろう。
見送ってから後悔ばかりが湧き立ってくる。
トリリオンの妻は私で、二人は完全に男女の仲に発展しているというのに。
どうして私はこんなに無力なのだろう。
今更になって、自己嫌悪に陥り、ふと姉のことを思い出す。
完璧な公爵令嬢であった姉ならば、きっと夫の不倫くらいあっという間に解決してしまうだろう。
もし姉が生きていたら……ありもしない空想をして、頭がキンと痛くなった。
「もういいや……」
私は諦めてため息をついた。
……数日後、茫然と窓からシーラの家を見ていると、庭に馬車が止まった。
もう帰ってきたのだろうかとみていると、馬車から出てきたのは男性一人だけで、トリリオンとは違う見た目をしていた。
「お客さんかしら?」
彼は玄関に近づくも、近くの使用人に呼び止められた。
何か話しているようだが、一向に決着がつかないようで、まるで別れ話でもしているみたいだった。
その様子をぼーっと見ていると、男性は諦めたのか、使用人の元を去る。
そして我が家に向かって歩いてきた。
「え?」
私は慌てて玄関に向かう。
彼の正体は分からないが、とても重要な人のような気がした。
玄関近くまで行くと、使用人が「お客様です!応接間に!」と教えてくれた。
私は踵を返して応接間に入る。
「初めまして。あなたがレノアさんですね」
中にいたのは、まるで王子と見間違うような美青年だった。
しかし大人の雰囲気を漂わせており、見た目が若いのだと思った。
「は、はい……私がレノアですが……」
ゆっくりとそう答えると、彼は怪訝そうな顔になる。
「シーラとあなたの夫が旅行に出かけたというのは本当ですか?」
「え? あ、まあはい……えっと……あなたは……?」
私の言葉に彼は我に返ったような顔になると、苦笑しながら言う。
「申し遅れました。僕はシーラの夫のエメラルドと申します」
わざとなのか分からないが、シーラの家の玄関前でシーラとキスを交わすようになり、更には家にまで連れてきた。
「お久しぶりですね。レノアさん」
久しぶりに間近で見たシーラは、以前の暗い彼女とは違っていた。
人生の楽しみに気づいたようなキラキラした瞳で、私をどこか嬉しそうに見つめていた。
トリリオンと出会わせてくれてありがとう……そう言われているようだった。
私はもう二人の不倫について言及できるだけの元気をなくしていた。
トリリオンにビンタをされて以降、封印していた両親との苦い記憶が常に蘇るようになったからだ。
今の私には、トリリオンの妻としての務めは果たせなかった。
苦しみの中で、一人もがき苦しむだけしか出来なかったのだ。
そうして時が過ぎ、トリリオンは私に言った。
「シーラと旅行に行ってくるよ。数日戻らない。留守は頼んだぞ」
トリリオンの隣には、嬉しそうに笑うシーラの姿があった。
まるで王女様のように綺麗に髪を整え、化粧をした彼女は、誰よりもトリリオンの妻に相応しい見た目をしていた。
「大丈夫ですよレノアさん。決して間違いは起こりませんから」
今更何を言っているのだろう。
心の中で悪態をつくも、それを口にすることなど今の私には出来なかった。
「分かりました。お気をつけて」
それが私の出せる精一杯の言葉だった。
トリリオンとシーラは顔を見合わせて笑う。
そして私に手を振って旅行に出かけた。
「……行っちゃった」
なんで自分が何も言えなかったのだろう。
見送ってから後悔ばかりが湧き立ってくる。
トリリオンの妻は私で、二人は完全に男女の仲に発展しているというのに。
どうして私はこんなに無力なのだろう。
今更になって、自己嫌悪に陥り、ふと姉のことを思い出す。
完璧な公爵令嬢であった姉ならば、きっと夫の不倫くらいあっという間に解決してしまうだろう。
もし姉が生きていたら……ありもしない空想をして、頭がキンと痛くなった。
「もういいや……」
私は諦めてため息をついた。
……数日後、茫然と窓からシーラの家を見ていると、庭に馬車が止まった。
もう帰ってきたのだろうかとみていると、馬車から出てきたのは男性一人だけで、トリリオンとは違う見た目をしていた。
「お客さんかしら?」
彼は玄関に近づくも、近くの使用人に呼び止められた。
何か話しているようだが、一向に決着がつかないようで、まるで別れ話でもしているみたいだった。
その様子をぼーっと見ていると、男性は諦めたのか、使用人の元を去る。
そして我が家に向かって歩いてきた。
「え?」
私は慌てて玄関に向かう。
彼の正体は分からないが、とても重要な人のような気がした。
玄関近くまで行くと、使用人が「お客様です!応接間に!」と教えてくれた。
私は踵を返して応接間に入る。
「初めまして。あなたがレノアさんですね」
中にいたのは、まるで王子と見間違うような美青年だった。
しかし大人の雰囲気を漂わせており、見た目が若いのだと思った。
「は、はい……私がレノアですが……」
ゆっくりとそう答えると、彼は怪訝そうな顔になる。
「シーラとあなたの夫が旅行に出かけたというのは本当ですか?」
「え? あ、まあはい……えっと……あなたは……?」
私の言葉に彼は我に返ったような顔になると、苦笑しながら言う。
「申し遅れました。僕はシーラの夫のエメラルドと申します」
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