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「……つまり、浮気相手を妊娠させたと?」
私が問いかけると、ダルクは顔を歪めた。
「その言い方には語弊があるな。彼女は浮気相手ではなく、俺の愛する人だ。愛を貫いた末に彼女は妊娠したのだ。だからこれは浮気なんていう低俗なものではない」
「は?」
「そうですよぉ、エルザさん。私たちは心の底から愛し合っているんです。ダルクを取られて悔しいからって、嫉妬なんて見苦しいだけですよぉ?」
ふいに頭にズキリと痛みが走った。
この二人との会話が確実にストレスになっているみたいだ。
呆れを通りこして、愚かで身勝手な考え方に、同情すらしてしまう。
離婚だけでも十分に不名誉なことなのに、更に浮気相手を妊娠し、その女と結婚するなんて、どこまで愚行を重ねれば気が済むのか。
もうこうなったらダルクの家とナターシャの家に慰謝料請求をすることは確定しているが、果たしてこの二人の家にそれを払うだけの財力が残されているのだろうか。
「ねえダルク。あなた本気で言っているの? このまま事を進めれば困るのはあなたたちの方よ? 慰謝料払えるの?」
私の言葉に、ダルクは自信満々に頷く。
「払えるに決まっているだろう。俺もナターシャもれっきとした貴族だ。慰謝料くらい何てことない」
ナターシャも賛同するように頷く。
「そう……ならいいけど」
もちろん納得はしていないが、本人が払えると言ったのだ。
親戚中に頭を下げるなどして、何とか払ってもらおう。
そんなことを考えていると、ダルクが口を開く。
「じゃあ離婚成立な。来週までにこの家を出ていけよ」
「……は? ちょっと待って、なんで私がこの家を出て行かなくてはいけないの?」
この家は元々私の兄が使っていて、兄が新しい家を建てたので私が引き継いだものだった。
ダルク側は銅貨一枚すら払っていない。
「独り者のお前が出て行くのが筋というものだろう。常識すらないのか、エルザ」
「それはこっちのセリフよ。この家は元々私が受け継いだものよ。家主は私だと書面にも記されているし、あなたに譲るつもりはないわ」
「なんだと!? じゃあ俺達はどこで暮らせばいいんだ? 外で野宿でもしてろっていうのか?」
「そんなこと知らないわよ。とりあえず実家に帰ってご両親にこのことを相談してみたら?」
ダルクはナターシャとなにやらこそこそと話し始めた。
計画性の無さに脱帽すらしてしまう。
「ふん、仕方ない。この家は諦めよう」
ダルクはそう言うと、ナターシャの手を取り、扉に向かった。
未だに外では雨が降っていて、屋根にコツコツと雨粒が当たっている。
「エルザ。お前の暗い未来を想像したら寒気がするが、助けてはやれない。俺の愛は全てナターシャとそのお腹の中の子に注ぐと決めたからな」
「わぁ、嬉しいダルク!」
「ええ、ご勝手にどうぞ。私もあなたのことを今後一切助けたりはしないので、そのつもりでいてくださいね」
「ふん、誰がお前の助けなんか借りるか! お前の助けなんか借りるくらいなら死んだ方がマシだ!」
ダルクは最後にそう言うと、ナターシャを連れ部屋を出て行った。
「はぁ……全く、どこまで馬鹿なんだか……」
私は大きなため息をつくと、このことを報せるための手紙を書き始めた。
私が問いかけると、ダルクは顔を歪めた。
「その言い方には語弊があるな。彼女は浮気相手ではなく、俺の愛する人だ。愛を貫いた末に彼女は妊娠したのだ。だからこれは浮気なんていう低俗なものではない」
「は?」
「そうですよぉ、エルザさん。私たちは心の底から愛し合っているんです。ダルクを取られて悔しいからって、嫉妬なんて見苦しいだけですよぉ?」
ふいに頭にズキリと痛みが走った。
この二人との会話が確実にストレスになっているみたいだ。
呆れを通りこして、愚かで身勝手な考え方に、同情すらしてしまう。
離婚だけでも十分に不名誉なことなのに、更に浮気相手を妊娠し、その女と結婚するなんて、どこまで愚行を重ねれば気が済むのか。
もうこうなったらダルクの家とナターシャの家に慰謝料請求をすることは確定しているが、果たしてこの二人の家にそれを払うだけの財力が残されているのだろうか。
「ねえダルク。あなた本気で言っているの? このまま事を進めれば困るのはあなたたちの方よ? 慰謝料払えるの?」
私の言葉に、ダルクは自信満々に頷く。
「払えるに決まっているだろう。俺もナターシャもれっきとした貴族だ。慰謝料くらい何てことない」
ナターシャも賛同するように頷く。
「そう……ならいいけど」
もちろん納得はしていないが、本人が払えると言ったのだ。
親戚中に頭を下げるなどして、何とか払ってもらおう。
そんなことを考えていると、ダルクが口を開く。
「じゃあ離婚成立な。来週までにこの家を出ていけよ」
「……は? ちょっと待って、なんで私がこの家を出て行かなくてはいけないの?」
この家は元々私の兄が使っていて、兄が新しい家を建てたので私が引き継いだものだった。
ダルク側は銅貨一枚すら払っていない。
「独り者のお前が出て行くのが筋というものだろう。常識すらないのか、エルザ」
「それはこっちのセリフよ。この家は元々私が受け継いだものよ。家主は私だと書面にも記されているし、あなたに譲るつもりはないわ」
「なんだと!? じゃあ俺達はどこで暮らせばいいんだ? 外で野宿でもしてろっていうのか?」
「そんなこと知らないわよ。とりあえず実家に帰ってご両親にこのことを相談してみたら?」
ダルクはナターシャとなにやらこそこそと話し始めた。
計画性の無さに脱帽すらしてしまう。
「ふん、仕方ない。この家は諦めよう」
ダルクはそう言うと、ナターシャの手を取り、扉に向かった。
未だに外では雨が降っていて、屋根にコツコツと雨粒が当たっている。
「エルザ。お前の暗い未来を想像したら寒気がするが、助けてはやれない。俺の愛は全てナターシャとそのお腹の中の子に注ぐと決めたからな」
「わぁ、嬉しいダルク!」
「ええ、ご勝手にどうぞ。私もあなたのことを今後一切助けたりはしないので、そのつもりでいてくださいね」
「ふん、誰がお前の助けなんか借りるか! お前の助けなんか借りるくらいなら死んだ方がマシだ!」
ダルクは最後にそう言うと、ナターシャを連れ部屋を出て行った。
「はぁ……全く、どこまで馬鹿なんだか……」
私は大きなため息をつくと、このことを報せるための手紙を書き始めた。
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