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「どけ!!! 通せ!!!」

「あ、し……失礼しました!」

歩いて家に帰った僕は前を塞いでいた使用人を押しのけ、エリザベスの部屋まで急いだ。
絶対エリザベスの仕業だ!あいつが裏で糸を引いているに決まっている!
じゃなきゃ、レベッカが僕が既婚であることを知る訳がない!

「エリザベス! とんでもないことをしてくれたな!」

エリザベスの部屋まで辿り着いた僕は、荒々しく扉を開けた。

「ブラック様? どうされたのです?」

本棚の整理をしていたエリザベスが訝し気な視線を向ける。
僕は感情の限りに叫んだ。

「白々しい! お前のせいでレベッカに振られてしまったじゃないか! お前が全部あいつにばらしたからだ! このゴミが!」

「……は?」

しかしエリザベスは、なんのことか分からないと言ったような顔をしている。

「お前は僕の権限で牢屋にでも入れてやる! くそがっ!」

エリザベスが牢屋の中で泣きわめく姿を想像し、僕はニヤリと笑みを浮かべた。
確かにレベッカを失ったのは痛手だが、代わりなどまた探せばいい。
それよりも、この積もり積もった鬱憤をどう晴らすかの方がだいじだ。

「あのブラック様? 私には、あなたが何を言っているのかが理解できません。詳しくお話願います」

「はぁ!?」

僕は思い切り床を足で叩いた。
ドンという大きな音が部屋に響き、エリザベスは怯えたように一歩後退する。

「だからレベッカに振られたんだ! あいつは僕が未婚だと思って関係を持っていた。だがなぜか僕が既婚だと知っていて、さっき振られたんだ! お前がレベッカに全部ばらしたのだろう!? そうだろ!!」

強い口調で立て続けに叫んだため、ごほごほと咳が出た。
それがやっと収まったタイミングで、エリザベスが口を開いた。

「いや、私はそんなことしておりませんが……何かの勘違いではないですか?」

彼女の声はどこか冷たかった。
嘘をついている時のような、焦りから現れる上ずりは感じられない。

僕は腕を組み、思索した。
確かに、この前ヨハンを盾にして、彼女を脅したばかりだ。
行動が早すぎる、本当にヨハンのことを思うのなら、こんなことはしないはずだ。

だが、彼女じゃないというのなら誰が犯人だというのだろう。
他に思い当たる人物もおらず、やはりエリザベスが犯人である気がする。

「エリザベス!!!」

気づいたら足が動いていた。
エリザベスの眼前に迫り、彼女の胸ぐらを掴んだ。
彼女が「きゃっ!」と叫び、手に持っていた本を床に落とす。

「正直に言え……正直に言ったら全部無かったことにしてやる。いいか十数えるうちに正直に……」

と、その時、僕の背後でヨハンの声がした。

「お父様。お母様は悪くありません」
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