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お父様がお母様でない人を寝室に連れ込んで、何をしているのかは分からなかった。
ただ、お母様が言った仕事というのは僕には嘘に思えた。
お母様自身はきっと気づいていないと思うが、嘘をつくとき目が細くなる。
使用人のおばあさんがこっそり僕に教えてくれた秘密だ。
『エリザベス。これからも僕の最愛の妻を演じてくれ。分かったな?』
扉の向こうから聞こえてきたお父様の言葉は、とても嫌な感じがして、悲しい気持ちになった。
僕は扉から耳を離すと、物音を立てないように静かに歩いて、自分の寝室まで戻った。
「ふぅ……バレてないよね」
扉をゆっくり閉め、僕は安堵の息をはく。
心臓がまだバクバク音を立てていて、体中が熱かった。
胸に手を当てたまま数十秒立っていると、やっと心臓の鼓動がおさまってくる。
「やっぱりお父様は浮気していたんだ……」
最近読んだ本に、今の僕達と同じような話があった。
父親が母親ではない女の人と浮気をして、母親が息子を連れて家を出る話だ。
浮気というものがどういうものかは詳しく分からないけど、お母様をとても悲しませるものであることは僕にも分かった。
目を細め、大丈夫と言うお母様の悲しそうな顔が何度も脳裏をよぎる。
……お母様が僕に嘘をついた時、僕は決心した。
お母様の嬉しそうな顔を僕がもう一度取り戻すことを。
そしてお父様を叱ってあげるんだ。
女神のように優しい心を持ったお母様に代わって。
それから僕は毎晩夜遅くまで起きるようにした。
お母様はきっとお父様と何か話をするはずだから、こっそりついていって、僕がお母様を助けようと思った。
本に出てきた息子も同じことをしていたから、きっと上手くいくはずだ。
しかし、いざ扉の前に来た瞬間、足がすくんで動けなかった。
精一杯耳を扉に近づけて、二人の話している会話を聞くくらいしか僕にはできなかった。
今までの出来事を振り返り、僕は首を横に振る。
「これじゃあだめだ……」
そのままベッドに腰を下ろすと、拳をぎゅっと握った。
「こんな僕じゃお母様を助けられない……」
二人の会話はたまに聞こえなかったが、なんとなく話していることは分かった。
お母様は僕のためにお父様の悪事を許してしまったみたいだが、それはおかしな話だ。
全部お父様が悪いのに、叱られることもないなんておかしすぎる。
勉強を教えてくれる先生はよく僕に言っていた。
悪い事をしたら、必ず天罰が訪れると。
そして、悪い事をされている人がいたら必ず手を差し伸べるようにと。
「このままじゃダメだ」
もう皆はベッドに寝転がって寝ているだろう。
しかし、僕の目は冴えていた。
ベッドから飛び出すと、本棚の本に目を走らせる。
「どれだ……うーん……あ、これだ……」
中から僕の大好きな物語の本を取り出して、パラパラとページを捲る。
先生が僕の誕生日にくれた大切な本だ。
そして、僕の人生に役に立つと言っていた本でもあった。
……僕は本を最後まで読み終えると、バタンと閉じた。
ふと顔に光を感じ、窓に目を移す。
熱を帯びた太陽が、頭を地平線から突き出していた。
昇りかかっている朝日を見つめながら呟く。
「僕がお母様を助けるんだ」
ただ、お母様が言った仕事というのは僕には嘘に思えた。
お母様自身はきっと気づいていないと思うが、嘘をつくとき目が細くなる。
使用人のおばあさんがこっそり僕に教えてくれた秘密だ。
『エリザベス。これからも僕の最愛の妻を演じてくれ。分かったな?』
扉の向こうから聞こえてきたお父様の言葉は、とても嫌な感じがして、悲しい気持ちになった。
僕は扉から耳を離すと、物音を立てないように静かに歩いて、自分の寝室まで戻った。
「ふぅ……バレてないよね」
扉をゆっくり閉め、僕は安堵の息をはく。
心臓がまだバクバク音を立てていて、体中が熱かった。
胸に手を当てたまま数十秒立っていると、やっと心臓の鼓動がおさまってくる。
「やっぱりお父様は浮気していたんだ……」
最近読んだ本に、今の僕達と同じような話があった。
父親が母親ではない女の人と浮気をして、母親が息子を連れて家を出る話だ。
浮気というものがどういうものかは詳しく分からないけど、お母様をとても悲しませるものであることは僕にも分かった。
目を細め、大丈夫と言うお母様の悲しそうな顔が何度も脳裏をよぎる。
……お母様が僕に嘘をついた時、僕は決心した。
お母様の嬉しそうな顔を僕がもう一度取り戻すことを。
そしてお父様を叱ってあげるんだ。
女神のように優しい心を持ったお母様に代わって。
それから僕は毎晩夜遅くまで起きるようにした。
お母様はきっとお父様と何か話をするはずだから、こっそりついていって、僕がお母様を助けようと思った。
本に出てきた息子も同じことをしていたから、きっと上手くいくはずだ。
しかし、いざ扉の前に来た瞬間、足がすくんで動けなかった。
精一杯耳を扉に近づけて、二人の話している会話を聞くくらいしか僕にはできなかった。
今までの出来事を振り返り、僕は首を横に振る。
「これじゃあだめだ……」
そのままベッドに腰を下ろすと、拳をぎゅっと握った。
「こんな僕じゃお母様を助けられない……」
二人の会話はたまに聞こえなかったが、なんとなく話していることは分かった。
お母様は僕のためにお父様の悪事を許してしまったみたいだが、それはおかしな話だ。
全部お父様が悪いのに、叱られることもないなんておかしすぎる。
勉強を教えてくれる先生はよく僕に言っていた。
悪い事をしたら、必ず天罰が訪れると。
そして、悪い事をされている人がいたら必ず手を差し伸べるようにと。
「このままじゃダメだ」
もう皆はベッドに寝転がって寝ているだろう。
しかし、僕の目は冴えていた。
ベッドから飛び出すと、本棚の本に目を走らせる。
「どれだ……うーん……あ、これだ……」
中から僕の大好きな物語の本を取り出して、パラパラとページを捲る。
先生が僕の誕生日にくれた大切な本だ。
そして、僕の人生に役に立つと言っていた本でもあった。
……僕は本を最後まで読み終えると、バタンと閉じた。
ふと顔に光を感じ、窓に目を移す。
熱を帯びた太陽が、頭を地平線から突き出していた。
昇りかかっている朝日を見つめながら呟く。
「僕がお母様を助けるんだ」
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