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「え?」
私の離婚宣言に、ダリアの顔が歪んだ。
端正な顔立ちが台無しになり、同時に怒りの筋が額に浮かぶのが分かる。
「離婚だと……そんな……は? 何を言っているんだエミリア」
公爵令息の怒りに少しばかり怯んだ私だが、そんな私を助けるようにモンドが口を開く。
「ダリア様。僕はエミリアの幼馴染のモンドと言います。失礼を承知で言わせて頂きます。妻であるエミリアを裏切り、そこの男爵令嬢ローラと浮気をしたあなたは、最低な男です。離婚を宣言されても何もおかしくはありません」
「は?」
ダリアの怒りの矛先がモンドへと向いた。
獣のような鋭い視線で彼を睨みつける。
「なんだお前は。幼馴染? はっ……エミリア、この僕を捨ててそいつと一緒になろうって算段か。あぁ、そういうことか。お前も浮気をしていたのか」
「そんなことはありません! 僕とエミリアは幼馴染の関係です! あなたのような卑劣な真似は致しません!」
モンドが必死に叫ぶも、それをかき消すようにダリアが大声を上げる。
「ふざけるのも大概にしろ!!! 僕は公爵令息だぞ、お前らなんかの指図は受けない!!! これ以上僕に歯向かうなら容赦しないぞ!!!」
どうしてこんな人と今まで結婚してしまっていたのか。
ダリアの本性に完全に失望してしまった私は、過去に戻って自分を殴りたい気分になった。
彼の威勢に押されて何も言えないでいる私たちを見て、ローラがくすっと笑う。
「エミリアさん。心配しなくても大丈夫ですよ。ダリア様のことは私が幸せにしてあげますから。あっ、もちろん演劇の中でね」
彼女の馬鹿にするような言葉に、ダリアも賛成するように頷く。
「そうだな、これはただの演技なのだから。浮気なんかでは到底ない。エミリア、今回の勘違いの件は不問にしてやろう。その代わり、もう僕達の演技の邪魔をしないでくれ。ふふっ……」
ダリアはそう言い放つと、嘲笑うように私たちを見下ろした。
その目には邪悪以外の感情は籠っていなくて、本当に彼の妻である自分が恥ずかしかった。
「ダリア様。申し訳ありませんでした……」
そう言ってお辞儀をする私をモンドが信じられないといった目で見つめた。
「エミリア! 何をしているんだ! 君はこれでいいのかい? このままじゃ君は……」
「もういいのよモンド。諦めましょう」
もちろんこれは私の本心ではなかった。
諦めることなど死んでもしたくはなかった。
ダリアとローラを断罪することだけを考えている。
だからこそ今は、頭を下げたのだ。
「はははっ! エミリア、その聞き分けの悪い幼馴染にもっと言ってくれ!」
ダリアが笑うと、ローラも同じように笑みを浮かべた。
私は自分の思惑が伝わるように目に力を籠めると、モンドは何かに気づいたように小さく頷いた。
「ダリア様……失礼致しました……」
モンドが私と同じように頭を下げた。
それを見て、ダリアはニヤッと笑う。
「ふふっ、それでいいんだよ。じゃあさっさと消えてくれ。僕達はまだ演技の練習が残っているのだから」
彼はそう言うと、ローラの腰に手を当てる。
「ひゃっ……もう、ダリア様……二人が見てますよ?」
「いいじゃないか。見られながらも興奮するだろう?」
このまま行為に及びかねない二人に背を向けると、私は歩きだした。
モンドも私の後をついてくる。
そのまま元いた茂みの中に隠れた私は、ポツリと呟いた。
「モンド。悔しい思いをさせてしまってごめんなさい」
「いや、いいんだ。それより何か考えがあるんだろ? どういうつもりなんだい?」
私は茂みの隙間から、体を重ねるダリアとローラを見つめ、呟く。
「直ぐにわかるわ」
私がそう言った瞬間、森の中に悲鳴が轟いた。
そして数人の貴族たちが森の中から飛び出して、ダリアとローラの逢瀬を目撃した。
私の離婚宣言に、ダリアの顔が歪んだ。
端正な顔立ちが台無しになり、同時に怒りの筋が額に浮かぶのが分かる。
「離婚だと……そんな……は? 何を言っているんだエミリア」
公爵令息の怒りに少しばかり怯んだ私だが、そんな私を助けるようにモンドが口を開く。
「ダリア様。僕はエミリアの幼馴染のモンドと言います。失礼を承知で言わせて頂きます。妻であるエミリアを裏切り、そこの男爵令嬢ローラと浮気をしたあなたは、最低な男です。離婚を宣言されても何もおかしくはありません」
「は?」
ダリアの怒りの矛先がモンドへと向いた。
獣のような鋭い視線で彼を睨みつける。
「なんだお前は。幼馴染? はっ……エミリア、この僕を捨ててそいつと一緒になろうって算段か。あぁ、そういうことか。お前も浮気をしていたのか」
「そんなことはありません! 僕とエミリアは幼馴染の関係です! あなたのような卑劣な真似は致しません!」
モンドが必死に叫ぶも、それをかき消すようにダリアが大声を上げる。
「ふざけるのも大概にしろ!!! 僕は公爵令息だぞ、お前らなんかの指図は受けない!!! これ以上僕に歯向かうなら容赦しないぞ!!!」
どうしてこんな人と今まで結婚してしまっていたのか。
ダリアの本性に完全に失望してしまった私は、過去に戻って自分を殴りたい気分になった。
彼の威勢に押されて何も言えないでいる私たちを見て、ローラがくすっと笑う。
「エミリアさん。心配しなくても大丈夫ですよ。ダリア様のことは私が幸せにしてあげますから。あっ、もちろん演劇の中でね」
彼女の馬鹿にするような言葉に、ダリアも賛成するように頷く。
「そうだな、これはただの演技なのだから。浮気なんかでは到底ない。エミリア、今回の勘違いの件は不問にしてやろう。その代わり、もう僕達の演技の邪魔をしないでくれ。ふふっ……」
ダリアはそう言い放つと、嘲笑うように私たちを見下ろした。
その目には邪悪以外の感情は籠っていなくて、本当に彼の妻である自分が恥ずかしかった。
「ダリア様。申し訳ありませんでした……」
そう言ってお辞儀をする私をモンドが信じられないといった目で見つめた。
「エミリア! 何をしているんだ! 君はこれでいいのかい? このままじゃ君は……」
「もういいのよモンド。諦めましょう」
もちろんこれは私の本心ではなかった。
諦めることなど死んでもしたくはなかった。
ダリアとローラを断罪することだけを考えている。
だからこそ今は、頭を下げたのだ。
「はははっ! エミリア、その聞き分けの悪い幼馴染にもっと言ってくれ!」
ダリアが笑うと、ローラも同じように笑みを浮かべた。
私は自分の思惑が伝わるように目に力を籠めると、モンドは何かに気づいたように小さく頷いた。
「ダリア様……失礼致しました……」
モンドが私と同じように頭を下げた。
それを見て、ダリアはニヤッと笑う。
「ふふっ、それでいいんだよ。じゃあさっさと消えてくれ。僕達はまだ演技の練習が残っているのだから」
彼はそう言うと、ローラの腰に手を当てる。
「ひゃっ……もう、ダリア様……二人が見てますよ?」
「いいじゃないか。見られながらも興奮するだろう?」
このまま行為に及びかねない二人に背を向けると、私は歩きだした。
モンドも私の後をついてくる。
そのまま元いた茂みの中に隠れた私は、ポツリと呟いた。
「モンド。悔しい思いをさせてしまってごめんなさい」
「いや、いいんだ。それより何か考えがあるんだろ? どういうつもりなんだい?」
私は茂みの隙間から、体を重ねるダリアとローラを見つめ、呟く。
「直ぐにわかるわ」
私がそう言った瞬間、森の中に悲鳴が轟いた。
そして数人の貴族たちが森の中から飛び出して、ダリアとローラの逢瀬を目撃した。
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