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「やっと集まった……」
僕の全財産に友人から借りた金貨を合わせて、ついに二千枚が集まった。
それを自室の机の上に置いて、ジェシカと共に袋に詰めていく。
「アレン……本当にありがとう。私の分まで集めてくれて」
「気にするな。僕の愚行を許してくれたんだ、それくらいのことはさせてくれ」
あの悲劇のパーティーの後、僕達に慰謝料請求が突きつけられた。
共に金貨千枚ずつ、二人合わせて二千枚だ。
ジェシカの爵位を考えて、彼女に支払い能力がないと悟った僕は、肩代わりをすることにした。
「これからは君だけを愛するよ。命にかけて」
「ありがとうアレン」
窓から差し込めていた夕方の陽光が、静かに色を失っていく。
窓をチラリと見ると、既に夜が近づいていて、空腹を感じた。
「ジェシカ。金貨を持っていくのは明日にしよう。今日はもう遅いから」
「うん。分かった」
その夜、僕達は親子のように身を寄せ合って眠った。
……目を覚ます。
いつも通りの天井を見て、横で寝ているジェシカに顔を向けた。
しかしそこにはジェシカの姿はなく、もぬけの殻となっていた。
「もう起きたのか」
苦笑しつつ上半身を起こした僕は、違和感を覚える。
以前はあったものが無くなっているような……。
そこまで考えた時、机の上に置いたはずの金貨が入った袋が消えているのに気づいた。
「え……」
嫌な予感が立ち込める。
僕はベッドから抜け出すと、自室の扉を開けた。
ちょうど近くを通りかかった使用人がびくりと肩を震わせる。
「おい! ジェシカを見なかったか!?」
「ああ……はい。ジェシカ様なら先ほど……」
「私がどうかしたのぉ?」
軽快な声と共に、ジェシカが階段を上ってくる。
彼女は何食わぬ顔で僕に駆け寄ってきた。
「ジェシカ……金貨が入った袋はどうしたんだ?」
「はい? 何のこと?」
「起きたら無くなっていたんだ! どこへやった!」
「え、そ、そんな……私、知らない……」
ジェシカは怯えるように声を震わすと、顔を青ざめさせた。
どうやら嘘は言っていないらしい。
しかしそれならば、なぜ袋は消えたのか。
疑問が未だに尾を引いていると、使用人が口を挟む。
「あの……それでしたら、先ほど使用人の一人が持って行くのを見ましたよ」
「なんだと!? そいつの名前は!?」
使用人はおずおずと名前を告げる。
それは、かつて僕が浮気をしていた使用人の名前だった。
「えっと……アレン様の代わりに届けに行くと言っていたのですが……違うのですか?」
「そんなことは頼んでいない……」
僕はその場に崩れ落ちる。
ジェシカが何かを言っていたが、全く頭に入って来ない。
浮気ばかりしていたつけが今になってのしかかる。
これほどまでに重いとは。
「終わった……」
その後金貨が返ってくることは永遠になかった。
僕の全財産に友人から借りた金貨を合わせて、ついに二千枚が集まった。
それを自室の机の上に置いて、ジェシカと共に袋に詰めていく。
「アレン……本当にありがとう。私の分まで集めてくれて」
「気にするな。僕の愚行を許してくれたんだ、それくらいのことはさせてくれ」
あの悲劇のパーティーの後、僕達に慰謝料請求が突きつけられた。
共に金貨千枚ずつ、二人合わせて二千枚だ。
ジェシカの爵位を考えて、彼女に支払い能力がないと悟った僕は、肩代わりをすることにした。
「これからは君だけを愛するよ。命にかけて」
「ありがとうアレン」
窓から差し込めていた夕方の陽光が、静かに色を失っていく。
窓をチラリと見ると、既に夜が近づいていて、空腹を感じた。
「ジェシカ。金貨を持っていくのは明日にしよう。今日はもう遅いから」
「うん。分かった」
その夜、僕達は親子のように身を寄せ合って眠った。
……目を覚ます。
いつも通りの天井を見て、横で寝ているジェシカに顔を向けた。
しかしそこにはジェシカの姿はなく、もぬけの殻となっていた。
「もう起きたのか」
苦笑しつつ上半身を起こした僕は、違和感を覚える。
以前はあったものが無くなっているような……。
そこまで考えた時、机の上に置いたはずの金貨が入った袋が消えているのに気づいた。
「え……」
嫌な予感が立ち込める。
僕はベッドから抜け出すと、自室の扉を開けた。
ちょうど近くを通りかかった使用人がびくりと肩を震わせる。
「おい! ジェシカを見なかったか!?」
「ああ……はい。ジェシカ様なら先ほど……」
「私がどうかしたのぉ?」
軽快な声と共に、ジェシカが階段を上ってくる。
彼女は何食わぬ顔で僕に駆け寄ってきた。
「ジェシカ……金貨が入った袋はどうしたんだ?」
「はい? 何のこと?」
「起きたら無くなっていたんだ! どこへやった!」
「え、そ、そんな……私、知らない……」
ジェシカは怯えるように声を震わすと、顔を青ざめさせた。
どうやら嘘は言っていないらしい。
しかしそれならば、なぜ袋は消えたのか。
疑問が未だに尾を引いていると、使用人が口を挟む。
「あの……それでしたら、先ほど使用人の一人が持って行くのを見ましたよ」
「なんだと!? そいつの名前は!?」
使用人はおずおずと名前を告げる。
それは、かつて僕が浮気をしていた使用人の名前だった。
「えっと……アレン様の代わりに届けに行くと言っていたのですが……違うのですか?」
「そんなことは頼んでいない……」
僕はその場に崩れ落ちる。
ジェシカが何かを言っていたが、全く頭に入って来ない。
浮気ばかりしていたつけが今になってのしかかる。
これほどまでに重いとは。
「終わった……」
その後金貨が返ってくることは永遠になかった。
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