浮気の代償は支払って頂きますね？

８

「え？　なんで……エレイン……は？」

　アレンは顔を真っ青にしながら、激しく動揺していた。
　隣に立つジェシカは言葉すら発せないようで、ピクリとも動かない。

「アレンさん。私、今はミシェル様の妻となったんです。つまり公爵夫人なんです」

「あ、あぁ……そ、そうなのか。お、おめでとう」

　アレンは引きつった笑みで祝福の言葉を述べる。
　そこに感情が灯っていないことは、誰が見ても明らかだが。

「それで一つだけ、アレン様にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか？」

「聞きたいこと？」

　アレンの顔色が更に青みを増す。
　しかし、私は彼に同情をすることもなく、淡々と告げる。

「慰謝料の金貨千枚、お支払いして頂けますよね？」

「……え？　千枚？　なんでそんな……」

「あら知らないのですか？　慰謝料の請求は事が起こった一年以内なら可能なのですよ。私たちが婚約破棄してまだ一年は経っておりませんし、請求することは可能ですよね？」

「そうだが……金貨千枚なんて大金、僕に払えるわけがないだろ……大体なんでそんなに多いんだ？」

「だって、あなたたくさん浮気しているじゃないですか。後で調べてみたら使用人の方とも何人か関係を持っていますよね？　それに私や侍女を散々馬鹿にして……もしかしてなかったことに出来るとでも思っていたんですか？」

「え……」

　アレンの顔が絶望に染まる。
　ジェシカは我に返ったようにハッとすると、アレンを睨みつける。

「はぁ！？　私、そんなの聞いてないんだけど！？　どういうこと！　説明してよ！」

「ジェシカさん。今日は私たちの結婚パーティーなの。もう少し静かにしてくれない？　それと、あなたにも慰謝料請求をするつもりだから、覚悟しておいてね」

「うそ……」

　ジェシカの顔もアレンのように絶望に染まる。
　私は笑顔を作ると、二人に向かっていった。

「あなたたちのおかげでこんなに素敵な彼と出会うことができました。しかし、だからとって罪を見逃す程、私は甘くありませんよ。それに逆らうこともできませんよ。私、公爵夫人なので。ですよね、アレンさん？」

　アレンはこんな状況にかかわらず、笑みを見せる。
　まるで壊れた機械のように。

「は、はい……その通りです……」

　そしてジェシカに顔を向けると、彼女の手を掴む。

「今日はこ、これで失礼します……帰ろう、ジェシカ」

「う、うん……そうね……失礼します」

　ふらついた足取りで二人が会場を去ると、ミシェルが呆れたようなため息をはく。

「全く。僕の奥さんは本当に恐ろしい女性だな」

　その言葉の裏には愛情が秘められているのを感じながら、私は口を開いた。

「これくらいじゃないと、公爵夫人は務まりませんから！」