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豹変したアーサーの態度に、私は唖然としてしまう。
いや、それよりも、ボンドの墓石を蹴り倒すなんて信じられない。
「あぁあ……反省して損したよ、君が僕を裏切っていたなんてね。そんなに元夫のことが好きなら、一回死んでみるかい?」
「じょ、冗談でもそのようなことは言わないでください!」
咄嗟に反抗するような声が出たが、アーサーは鼻で笑う。
「ふん、そんなに凄んでも意味ないよ。君みたいな尻軽女の言うことなんて僕には全く響かないから」
「私は尻軽ではありません!」
どうやらアーサーの中で、自分以外の男性に愛があるのは不倫に該当するらしい。
確かに妻である立場で他の男性に色めき立つのは非常識だと思うが、私の場合は故人である。
元夫への愛が冷めやらぬ時期に無理矢理アーサーと結婚させられて、そう簡単に気持ちを切り替えられるはずもないのに。
アーサーは私を馬鹿にするような目で見た後、蹴り倒した墓石に近づき、おもむろに蹴り始めた。
まるで恨みを晴らすかのように。
「元はと言えば、こんなものがあるからいけないんだ! 壊れろ! 壊れてしまえ!」
「止めてください!」
私はアーサーにしがみつき、無理矢理止めようとするが、「離せ!」という怒号と共に、簡単に振り払われてしまう。
「きゃっ!」
無様に地面に尻もちをついた私は、思わず涙を流した。
どうしてここまで酷いことができるのか。
これでは天国のボンドがうかばれない。
「僕を馬鹿にしやがって! この! クソが!」
とても公爵令息とは思えないような言葉遣いで、墓石を蹴り続けるアーサー。
私は立ち上がると、再び彼に飛びかかろうとするが、背後に重たい足音がしたのを聞いて、動きを止める。
次の瞬間には、私の隣を駆ける父の姿があった。
「何をしている!!!」
父は叫びを上げると、思い切りアーサーの顔面を殴った。
突然の出来事にアーサーは対処できずに、そのまま吹き飛んだ。
ぐえっと無様な声をあげて、地面に背中から倒れるアーサー。
そんな私の夫のことを、父は獣のように鋭い目つきで見下ろした。
「貴様……自分が何をしているのか分かっているのか……?」
悪魔のような恐ろしい声に、アーサーはガクガクと歯を震わせる。
しかし父はお構いなしに、思い切りアーサーの横腹を蹴り上げた。
「うぐっ!!!」
再びアーサーが呻き声を上げて、のたうち回る。
父は飽き足らずもう一撃蹴ろうとするが、さすがに見ていられないので、私は止める。
「お父様! もういいです! 止めてください!」
私の声に、父は心を取り戻したように動きを止める。
そして厳しい瞳を私に向けた。
「エレノア。けがはないか?」
「は、はい……私なら大丈夫ですから……」
大丈夫じゃないのは、私ではなくアーサーの方だろう。
チラッと見てみると、口から泡を吹いて動かなくなっていた。
ボンドと同じ運命を辿らなければいいが。
「お前が無事なら……それでいい……」
父はぽつりと聞き取りづらい声で言うと、顔を背けた。
そういえば久しぶりにこうして父と話す。
少ししわが増えたのは、気のせいだろうか。
「あのお父様。どうしてここに?」
私の問いに、父は言葉を選ぶかのように少ししてから答えた。
「毎週、ボンドの墓には花を生けていたんだ。お前も大切な人だからな」
「え……じゃああの花は……」
先客はどうやら父だったようだ。
厳しく、冷酷な人間だと思っていたが、考えを改めさせられる。
もしかしたら、父は私が思う以上に、感情を大切にする人なのかもしれない。
「お父様」
今なら言える気がした。
自分の気持ちを、素直に。
父は背けていた顔を、私に戻す。
目にはしっかりと輝きが灯っている。
「私、アーサー様と離婚したいです。そして新しい夫は自分で見つけたいです。だからどうか、その時まで待っていてくれませんか?」
お願いします、頭を深く下げた。
昔の私だったのなら、余計なプライドが邪魔をして、こんなことは出来なかっただろう。
「顔を上げろ」
父はぶっきらぼうに言う。
私が言われた通りに顔を上げると、父は微かに笑みを浮かべた。
「私はそう気が長くはないぞ?」
瞬間、心に温かいものが溢れた気がした。
私は笑顔で頷いた。
「はい!」
いや、それよりも、ボンドの墓石を蹴り倒すなんて信じられない。
「あぁあ……反省して損したよ、君が僕を裏切っていたなんてね。そんなに元夫のことが好きなら、一回死んでみるかい?」
「じょ、冗談でもそのようなことは言わないでください!」
咄嗟に反抗するような声が出たが、アーサーは鼻で笑う。
「ふん、そんなに凄んでも意味ないよ。君みたいな尻軽女の言うことなんて僕には全く響かないから」
「私は尻軽ではありません!」
どうやらアーサーの中で、自分以外の男性に愛があるのは不倫に該当するらしい。
確かに妻である立場で他の男性に色めき立つのは非常識だと思うが、私の場合は故人である。
元夫への愛が冷めやらぬ時期に無理矢理アーサーと結婚させられて、そう簡単に気持ちを切り替えられるはずもないのに。
アーサーは私を馬鹿にするような目で見た後、蹴り倒した墓石に近づき、おもむろに蹴り始めた。
まるで恨みを晴らすかのように。
「元はと言えば、こんなものがあるからいけないんだ! 壊れろ! 壊れてしまえ!」
「止めてください!」
私はアーサーにしがみつき、無理矢理止めようとするが、「離せ!」という怒号と共に、簡単に振り払われてしまう。
「きゃっ!」
無様に地面に尻もちをついた私は、思わず涙を流した。
どうしてここまで酷いことができるのか。
これでは天国のボンドがうかばれない。
「僕を馬鹿にしやがって! この! クソが!」
とても公爵令息とは思えないような言葉遣いで、墓石を蹴り続けるアーサー。
私は立ち上がると、再び彼に飛びかかろうとするが、背後に重たい足音がしたのを聞いて、動きを止める。
次の瞬間には、私の隣を駆ける父の姿があった。
「何をしている!!!」
父は叫びを上げると、思い切りアーサーの顔面を殴った。
突然の出来事にアーサーは対処できずに、そのまま吹き飛んだ。
ぐえっと無様な声をあげて、地面に背中から倒れるアーサー。
そんな私の夫のことを、父は獣のように鋭い目つきで見下ろした。
「貴様……自分が何をしているのか分かっているのか……?」
悪魔のような恐ろしい声に、アーサーはガクガクと歯を震わせる。
しかし父はお構いなしに、思い切りアーサーの横腹を蹴り上げた。
「うぐっ!!!」
再びアーサーが呻き声を上げて、のたうち回る。
父は飽き足らずもう一撃蹴ろうとするが、さすがに見ていられないので、私は止める。
「お父様! もういいです! 止めてください!」
私の声に、父は心を取り戻したように動きを止める。
そして厳しい瞳を私に向けた。
「エレノア。けがはないか?」
「は、はい……私なら大丈夫ですから……」
大丈夫じゃないのは、私ではなくアーサーの方だろう。
チラッと見てみると、口から泡を吹いて動かなくなっていた。
ボンドと同じ運命を辿らなければいいが。
「お前が無事なら……それでいい……」
父はぽつりと聞き取りづらい声で言うと、顔を背けた。
そういえば久しぶりにこうして父と話す。
少ししわが増えたのは、気のせいだろうか。
「あのお父様。どうしてここに?」
私の問いに、父は言葉を選ぶかのように少ししてから答えた。
「毎週、ボンドの墓には花を生けていたんだ。お前も大切な人だからな」
「え……じゃああの花は……」
先客はどうやら父だったようだ。
厳しく、冷酷な人間だと思っていたが、考えを改めさせられる。
もしかしたら、父は私が思う以上に、感情を大切にする人なのかもしれない。
「お父様」
今なら言える気がした。
自分の気持ちを、素直に。
父は背けていた顔を、私に戻す。
目にはしっかりと輝きが灯っている。
「私、アーサー様と離婚したいです。そして新しい夫は自分で見つけたいです。だからどうか、その時まで待っていてくれませんか?」
お願いします、頭を深く下げた。
昔の私だったのなら、余計なプライドが邪魔をして、こんなことは出来なかっただろう。
「顔を上げろ」
父はぶっきらぼうに言う。
私が言われた通りに顔を上げると、父は微かに笑みを浮かべた。
「私はそう気が長くはないぞ?」
瞬間、心に温かいものが溢れた気がした。
私は笑顔で頷いた。
「はい!」
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