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 マーガレットが修道院に送られたと連絡を受けて、僕は唖然とした。
 報せを伝えたメイドに詰め寄る。

「おい、その話……本当なんだろうな! なんでマーガレットが修道院送りになったんだ!」

 メイドは眉間にしわを寄せて困惑した表情で告げる。

「な、なんでも……姉のメルダ様の縁談相手を奪おうとしたとかで……お父上の逆鱗に触れて修道院に送られたようです」

「なんだと……マーガレットが……そんな……」

 メイドは慌てて頭を下げると、僕の部屋を去っていく。
 僕はふらふらと歩を進め、窓辺の椅子に腰をかけた。
 
「嘘だろ……マーガレット……信じていたのに……」

 僕はマーガレットと初めて出会った日のことを思い出していた。

 ……メルダと結婚して一年と少し。
 僕が外出から帰ると、廊下でメルダと彼女の妹のマーガレットに会った。
 妹がいることは知っていたが、こうして顔を合わせるのは初めてだった。

「初めましてオルド様! お姉ちゃんがいつもお世話になってます!」

 まるで若葉のように元気で可憐な少女だった。
 僕は一瞬にして心奪われてしまい、心臓がドクンと跳ねた。

「……ああ。こちらこそお世話になっているよ」

 上手く言葉が出ず、笑顔すらぎこちないものになってしまう。
 それを見透かしたように、マーガレットは意味ありげな笑みを浮べていた。

 彼女が家を去った後も、僕の頭の中はマーガレット一色だった。
 メルダを愛していた気持ちは消えてしまい、マーガレットと早く会いたいという想いが胸を埋めた。

 それから程なくして彼女は再び家を訪れた。
 ちょうどよく家にいた僕は、メルダと一緒に応対して、話をした。
 夢のような時間だった。
 マーガレットはやはり、僕の考えていたような明るい女性で、彼女と話しているだけで幸せな気持ちになれた。

 その後も、僕はメルダと一緒にマーガレットと話すようになり、どんどん彼女にのめりこんでいった。

「マーガレット……僕を愛しているとあんなに言ったのに……くそっ……」

 意識が現在へ戻り、僕は拳を握りしめた。
 マーガレットは僕だけを愛していると思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。
 メルダの縁談相手が何者なのかは知らないが、そちらに傾いて修道院に送られたなんて、滑稽の極みだ。

「クソ女が……」

 マーガレットへの愛の気持ちが消え、僕は椅子から立ち上がる。
 いつまでも不貞腐れてはいられなかった。
 両親にはマーガレットと結婚する約束で、メルダとの離婚を許してもらった。
 結婚相手がいないなどという事態になったら、激昂するに違いない。
 
 しかし縁談相手を探すにも両親に相談しなくてはいけない。
 重たい気持ちを引きずりながら、僕は何とか部屋を飛び出した。

 ……僕は予想していたよりも、事態は深刻だった。
 両親の所に行った僕は、マーガレットと僕についての噂を聞かされた。

 それは僕が妻の妹に鞍替えしたにも関わらず、その妹は最低女で修道院送りになったという噂だった。
 なかなかに事実を捉えた噂だが、最悪なのはそれが貴族社会に広く伝わってしまったこと。
 
 両親曰く、縁談相手はしばらく見つからないということだった。
 
 その時の僕は誠心誠意両親に謝罪をすることで、何とか逆鱗に触れるのは回避できたが、運命はこの瞬間に狂ってしまった。

 その後も、縁談相手を求めて待ち続けた僕だが、妻の妹に手を出すような男を受け入れてくれる令嬢などおらず、結局は一生恋人すら出来なかった。
 
 もちろんその時の僕はそんなこと露知らず、内にある不安を苦笑で誤魔化していた。
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