上 下
11 / 11

11

しおりを挟む
「クロエ。どう、憧れた塔を見て」

外国の大都市。
私の隣には、笑顔を浮かべるナタリアが立っていた。
彼女に顔を向けると、私は子供のようにはしゃいだ声で言う。

「最高……こんなに高いなんて思わなかった」

「ふふ、そうでしょう? 私も最初すごく驚いたの」

私たちの目の前には、街の象徴である塔が建てられていた。
遥か古代に建てられたそれは、今でも当時の雰囲気を纏い、堂々とそこに建立している。

「夢が叶ったんだ……」

私は塔の先端を掴むように、手を上に伸ばした。

ナタリアと一緒に住んでいる家に帰ると、執事が私に手紙を渡してくる。

「クロエ様。ハズバンド公爵よりお手紙が届いております」

「え? ハズバンド公爵から?」

それは街でも一番と言われる大貴族の名前だった。
私はナタリアと顔を見合わせると、緊張した手つきで手紙を開封する。
そして中身を見て、唖然とした。

「なになに、何が書かれているの?」

ナタリアが興味津々な声で手紙を覗き込む。
途端に、彼女がにんまりと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「縁談じゃない! やったわねクロエ!」

それは縁談を申し込む手紙だった。
相手はハズバンド公爵家の長男のアーサー様。
端正な顔立ちと優しい性格で評判高い青年だった。

「どうするの!? 受けるのでしょう!!」

興奮気味にナタリアが私の肩を揺する。
少し迷った挙句に、私はコクリと頷いた。

……自室に入ると、手紙を机の上に置いて、息をはく。
今日は色んなことがありすぎて、少し疲れてしまった。
もちろん嬉しいのは明白だけれど。

「縁談か……」

以前のように愛されない日々がまた訪れたらどうしようか。
今更になってそんな不安が胸を過る。

おもむろに窓に近づいた私は、雲一つない青空を見つめた。
数羽の鳥が気持ちよさそうに天空を滑空している。
その様子を見ていたら、不安がどこかへ吹き飛んでしまい、自然と笑みがこぼれた。

「まあ、何とかなるわよね」

昔の私だったならば、変化することが怖くて、何も行動できなかっただろう。
しかし今の私は違う。
幸せが満ちた今の私は、きっと誰よりも変化することを望んでいる。

それが幸せになれる方法だと知っているのだ。

「さて、お返事書かないとね」

私は嬉しそうに息をはくと、手紙の返事を書き始めた……
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

夫の様子がおかしいです

ララ
恋愛
夫の様子がおかしいです。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

愛する人とは結ばれましたが。

ララ
恋愛
心から愛する人との婚約。 しかしそれは残酷に終わりを告げる……

溺愛された妹は私の全てを奪っていく。

ララ
恋愛
思い描いた幸せは一瞬で崩れ去った。 私は全てを奪われた。

飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。

希猫 ゆうみ
恋愛
王立学園の卒業を控えた伯爵令嬢エレノアには婚約者がいる。 同学年で幼馴染の伯爵令息ジュリアンだ。 二人はベストカップル賞を受賞するほど完璧で、卒業後すぐ結婚する予定だった。 しかしジュリアンは新入生の男爵令嬢ティナに心を奪われてエレノアを捨てた。 「もう飽きたよ。お前との婚約は破棄する」 失意の底に沈むエレノアの視界には、校内で仲睦まじく過ごすジュリアンとティナの姿が。 「ねえ、ジュリアン。あの人またこっち見てるわ」 ティナはエレノアを敵視し、陰で嘲笑うようになっていた。 そんな時、エレノアを癒してくれたのはミステリアスなマクダウェル侯爵令息ルークだった。 エレノアの深く傷つき鎖された心は次第にルークに傾いていく。 しかしティナはそれさえ気に食わないようで…… やがてティナの本性に気づいたジュリアンはエレノアに復縁を申し込んでくる。 「君はエレノアに相応しくないだろう」 「黙れ、ルーク。エレノアは俺の女だ」 エレノアは決断する……!

処理中です...