上 下
7 / 7

しおりを挟む
 妹のアクアが産まれた時、ああ、この子は天使だと思った。
 他のどの赤ん坊よりも群を抜いて可愛く見えて、この子を一生守ると誓った。
 
 アクアを守るためには、私自身が強くならなければいけないと思った。
 あらゆる分野で一番を目指し、才能を高めていけば、自ずとアクアを守れるだけの力がつくのではないかと考えた。

 まだ幼かった私は、根拠のない自信と共に、妹のために一人意気込んだ。

 幸運なことに私は才能に恵まれていたらしい。
 あらゆる分野に手を出し、地道に鍛錬を重ねると、すぐに上達した。
 勉強も芸術も武術も、私に出来ないことはなかった。

 しかし反対に、アクアは私のようには上手くできないようだった。
 周りが私とアクアを比較して、彼女を馬鹿にしていることは知っていた。
 噂の根元を潰してやろうとも考えたが、それは少しお節介が過ぎると思った。
 本当にアクアのことを考えるなら、彼女自身も成長しなければならないのだ。
 
 私はアクアに勉強をするように勧めた。
 今までの経験から勉強が一番早くに、努力の結果が得られやすいと私は知っていたから。
 しかしアクアの成績は伸び悩み、本人も勉強への意欲を失くしてしまった。

 それを陰で見守る内に、私は本当にこれで良かったのかと思い始めていた。
 アクアのためを思い、姉として彼女に厳しいこともたくさん言ってきた。
 しかし私が最初に自分自身に誓ったのは、アクアを守ることではなかったか。
 これでは逆にアクアを傷つけているだけではないのか。

 私はもっと柔軟な思考を持つべきだった。
 この時の私は頑固で、自分の行為が間違っていたのだと考えることもしなかった。
 だから自分は間違っていないという結論を導きだして、それ以降もアクアに厳しく接した。
 もし私がいなくなっても、自分の力で生きていけるように。
 絶望に立ち向かえるように。

 アクアが結婚をするまでは、私も結婚せずに家を出ないつもりだった。
 しかしその時は予想よりも早く訪れ、相手が公爵家だと知り、私は焦った。
 今のアクアでは上手く妻をこなせないのではないのかと心配し、つい声を荒げてしまった。
 
 アクアのことを大切に想えば想う程、言葉は鋭くなり、彼女を傷つけた。
 こんな自分が嫌になり、アクアの見送りにも顔を出すことができなかった。
 
 アクアのいない家は本当につまらなかった。
 生きがいが消えたような気になってしまい、私は部屋に引きこもった。
 しかしそんな生活が一年と続いた所で、アクアの夫であるクリストの黒い噂を耳にした。
 
 私は居ても立っても居られなくなった。
 今まで放任してたくさん失敗してきたのだ。
 今回は私の全力をもって、助けなければいけないと思った。

 私はすぐに証拠を集め、クリストの父に提出をした。
 彼はその場では信じていないような態度を取っていたが、時間の問題だと思った。

 そして私はアクアを助けるために、クリストの屋敷へと馬車を走らせた。
 御者では遅いので、私が馬を操縦した。
 屋敷についた私は応接間に通され、程なくして妹が入ってきた。
 久しぶりに妹の顔を見て、私は発狂しそうになったが、何とかその気持ちを抑え込んだ。

「アクア。久しぶりね」

 私はアクアの姉としての責任がある。
 彼女の理想になれるように、彼女よりも強く、守ってあげられるように。
 どんな時も冷静沈着に、完璧な姉でなくてはならないのだ。

 もう失敗はしない。
 今度はこの手でアクアを救うのだ!
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

完結 愛人さん初めまして!では元夫と出て行ってください。

音爽(ネソウ)
恋愛
金に女にだらしない男。終いには手を出す始末。 見た目と口八丁にだまされたマリエラは徐々に心を病んでいく。 だが、それではいけないと奮闘するのだが……

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

お針子と勘違い令嬢

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日突然、自称”愛され美少女”にお針子エルヴィナはウザ絡みされ始める。理由はよくわからない。 終いには「彼を譲れ」と難癖をつけられるのだが……

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢

横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。 このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。 その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。 その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

許して貰わなくても結構です

音爽(ネソウ)
恋愛
裏切った恋人、二度と会いたくないと彼女は思った。愛はいつしか憎悪になる。 そして懲りない男は今でも愛されていると思い込んでいて……

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

処理中です...