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「……冗談よね?」

そんなはずはなかった。
こんな私が……妹よりも美しくない私が誰かに好かれるなんてあるはずがなかった。
しかも、相手は妹と付き合ったことのあるウィル。
私の初恋の相手。

「冗談なんかじゃない。僕はずっと後悔していたんだ。なんであの日、ソフィアと付き合ってしまったのか。僕が本当に想いを告げるべきだったのは君なんだ。フローラ!」

フィルの目は真剣そのものだった。
その中に微塵な嘘も感じられない。

「ちょ、ちょっと待って……でも私……全然可愛くないし……」

「いや、きみは綺麗だ。確かに見た目ではソフィアに劣る部分があるかもしれない。僕も少なからずそう感じてしまっている。でも、内面は君の方が百倍美しい。それだけは断言できる」

「ううん!そんなことない……私は……そんなに価値のある人間じゃないわ……」

もし私に彼の言うほどの価値があったのなら、もっと幸せな人生を送れていたはずだ。
妹にあらゆるものを奪われ、両親からは愛されず、婚約破棄にもならなかったはずだ。

「それは違うよフローラ」

ウィルは急に落ち着いた口調になる。

「人間に価値のない人なんていないんだ。生まれてきてくれたことが既に価値ある行為なんだ。だから君にも価値が絶対にある。自分では見えないかもしれないけど、僕には見える」

熱い言葉に胸が震えた。
彼の言っていることを信じるべきだと直感が告げている。

「……でも」

そう言ったが、続きは出て来なかった。
いつの間にか、私は自分に向けられた好意までも否定するようになってしまったらしい。

「……分かった」

少しだけ馬鹿になってみようと思った。
あれこれ考えても結局のところ、答えはでない。
ならば、今を受け入れ、もっと楽観的に生きてみよう。

ふとそんな考えが浮かんだのだ。

「ウィル。私もあなたが好きだったの。でも、すぐには婚約者にはなれないわ。もう少し時間をかけてあなたのことを知っていきたいの。それでもいい?」

私がそう言うと、ウィルは嬉しそうに笑った。

「うん、もちろんだよ。いつまでも待つよ」

……それから私はウィルと定期的に会うようになった。
たくさんくだらない話をして、たまには外に出かけるようになった。
そして彼が告白をした時から二か月が経ち、私は彼に言った。

「ウィル。私を婚約者にしてくれますか?」

彼は私の手を取り頷いた。

「ああ。君を世界一幸せにする。一緒に新しい人生を歩もう」

こうして私は、初恋の相手ウィルと結ばれた。
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