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「なんだと……?」
トルーシー公爵の剣のように鋭い目が、アーロンへと向いた。
アーロンは「待ってください!」と青い顔で声を荒げる。
「そ、そもそも僕は余命一年なのですよ? だ、だから仕方なかったというか……イチカ! お前だって認めただろ!」
怒鳴るように私に言うので、仕方なく返答をしてあげる。
「はい、確かに私は認めました。しかしよくよく考えてみれば、余命一年なのだから妻と一緒にいたいと思うのが夫としての正常な思考なのではないでしょうか?」
「おい、ちょっと待て」
トルーシー公爵の声が若干震えていた。
「アーロン。お前が余命一年だと? どういうことだ、説明しろ」
どうやらアーロンは、自分が一年の命だと父に告げなかったようだ。
大量の汗をかきながら、アーロンは今までのことを簡単に説明した。
すると父は顔を真っ赤にして怒り、息子の胸ぐらを掴んだ。
「この馬鹿息子が! そんな話を信じるやつがあるか! ただの風邪だ、馬鹿者が!」
「ひぃぃっ!」
父の激昂にアーロンは怯えた声を出す。
逃げようと立ち上がろうとするが、上手く立てなくて、ソファの背に寝るように背中をつけた。
そんな彼に容赦なく公爵は言葉を続ける。
「加えて不倫をしていただと!? そんなゴミに育てた覚えはないぞ!!!」
公爵の叫びで応接間が揺れているようだった。
ちらちと隣を見ると、真っ青になった父がいた。
公爵を止めるべきかどうか迷っているように、目を泳がせている。
目の前の二人に目を戻すと、アーロンが口を開いていた。
「し、しかしお父様……ぼ、僕は被害者なのです……あの医者が余命一年だと言わなかったら……こんなことにはならなかったのです! 僕は悪くありません!」
地獄から救済を叫ぶように、アーロンは主張する。
しかし公爵の怒りは、そんなことでは収まらない。
「悪くないわけがないだろう! そんなのは結果論だ!」
そしてついに公爵はおもむろに手を引くと、アーロンの頬に思い切りビンタをした。
パシン!!!
鋭い音が応接間に響き渡り、ついでアーロンの悲痛な叫びがこだまする。
「いたぁぁぁぁ!!!!!」
「反省しろ馬鹿息子!!!」
公爵も負けじと叫ぶと、更に何回もアーロンをビンタした。
混沌とした時間が続き、挙句の果てにはアーロンは頬を真っ赤にして泣きだしてしまう。
「ご、ごめんあさぁい……」
「ふん、これでも足りぬぐらいだ」
公爵は大きなため息をはくと、目の力を急に弱め、私に頭を下げた。
「この度は愚息が迷惑をかけた。本当に申し訳ない」
誠心誠意の謝罪だが、逆に私の父は焦ったように言う。
「トルーシー公爵! 顔を上げてください!」
しかし公爵は顔を上げることなく、言葉を続ける。
「アーロンとは即刻離婚してもらって構わない。慰謝料として金貨千枚と屋敷を二つ。それに新たな縁談相手もこちらで探そう」
そこまで言ったところで、公爵は顔を上げた。
「イチカよ。他に欲しい物はあるか?」
私は逡巡することもなく、ふっと笑みを浮かべる。
「何もありませんが、医者の件は任せてもよろしいでしょうか? トルーシー公爵から取り締まって頂ければ医者も観念すると思いますので」
「ああ、もちろんだ。そうさせてもらう」
公爵は笑顔を浮かべると、放心状態になったアーロンを引きずって帰っていった。
半年後。
向かいのソファには、トルーシー公爵が選んでくれた縁談相手が座っていた。
私はアーロンとの一件を思い出しながら、質問を口にする。
「もし余命一年と宣告されたら、何をして過ごしたいですか?」
トルーシー公爵の剣のように鋭い目が、アーロンへと向いた。
アーロンは「待ってください!」と青い顔で声を荒げる。
「そ、そもそも僕は余命一年なのですよ? だ、だから仕方なかったというか……イチカ! お前だって認めただろ!」
怒鳴るように私に言うので、仕方なく返答をしてあげる。
「はい、確かに私は認めました。しかしよくよく考えてみれば、余命一年なのだから妻と一緒にいたいと思うのが夫としての正常な思考なのではないでしょうか?」
「おい、ちょっと待て」
トルーシー公爵の声が若干震えていた。
「アーロン。お前が余命一年だと? どういうことだ、説明しろ」
どうやらアーロンは、自分が一年の命だと父に告げなかったようだ。
大量の汗をかきながら、アーロンは今までのことを簡単に説明した。
すると父は顔を真っ赤にして怒り、息子の胸ぐらを掴んだ。
「この馬鹿息子が! そんな話を信じるやつがあるか! ただの風邪だ、馬鹿者が!」
「ひぃぃっ!」
父の激昂にアーロンは怯えた声を出す。
逃げようと立ち上がろうとするが、上手く立てなくて、ソファの背に寝るように背中をつけた。
そんな彼に容赦なく公爵は言葉を続ける。
「加えて不倫をしていただと!? そんなゴミに育てた覚えはないぞ!!!」
公爵の叫びで応接間が揺れているようだった。
ちらちと隣を見ると、真っ青になった父がいた。
公爵を止めるべきかどうか迷っているように、目を泳がせている。
目の前の二人に目を戻すと、アーロンが口を開いていた。
「し、しかしお父様……ぼ、僕は被害者なのです……あの医者が余命一年だと言わなかったら……こんなことにはならなかったのです! 僕は悪くありません!」
地獄から救済を叫ぶように、アーロンは主張する。
しかし公爵の怒りは、そんなことでは収まらない。
「悪くないわけがないだろう! そんなのは結果論だ!」
そしてついに公爵はおもむろに手を引くと、アーロンの頬に思い切りビンタをした。
パシン!!!
鋭い音が応接間に響き渡り、ついでアーロンの悲痛な叫びがこだまする。
「いたぁぁぁぁ!!!!!」
「反省しろ馬鹿息子!!!」
公爵も負けじと叫ぶと、更に何回もアーロンをビンタした。
混沌とした時間が続き、挙句の果てにはアーロンは頬を真っ赤にして泣きだしてしまう。
「ご、ごめんあさぁい……」
「ふん、これでも足りぬぐらいだ」
公爵は大きなため息をはくと、目の力を急に弱め、私に頭を下げた。
「この度は愚息が迷惑をかけた。本当に申し訳ない」
誠心誠意の謝罪だが、逆に私の父は焦ったように言う。
「トルーシー公爵! 顔を上げてください!」
しかし公爵は顔を上げることなく、言葉を続ける。
「アーロンとは即刻離婚してもらって構わない。慰謝料として金貨千枚と屋敷を二つ。それに新たな縁談相手もこちらで探そう」
そこまで言ったところで、公爵は顔を上げた。
「イチカよ。他に欲しい物はあるか?」
私は逡巡することもなく、ふっと笑みを浮かべる。
「何もありませんが、医者の件は任せてもよろしいでしょうか? トルーシー公爵から取り締まって頂ければ医者も観念すると思いますので」
「ああ、もちろんだ。そうさせてもらう」
公爵は笑顔を浮かべると、放心状態になったアーロンを引きずって帰っていった。
半年後。
向かいのソファには、トルーシー公爵が選んでくれた縁談相手が座っていた。
私はアーロンとの一件を思い出しながら、質問を口にする。
「もし余命一年と宣告されたら、何をして過ごしたいですか?」
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