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「なんであんな女が選ばれるのよ……!」
馬車に乗り込んだ私は、座席を拳で殴った。
それが通じたように馬車が揺れて、衝撃で私は座席に横倒しになる。
「ぎゃっ!」
思わずみっともない声が出た。
すぐに手をついて体を起こすと、唇を噛みしめた。
……貴族学園に入学して最初に出来た友人がシェルだった。
元々、私よりも美しい人と仲良くなる気はなかったので、ちょうどいい女だと思った。
平々凡々な栗色の髪に、大して整ってもいない顔。
性格も大人しく、どこか愚鈍な彼女は、立派な引き立て役になってくれた。
シェルは気づいていないようだが、ほとんどの人が彼女に哀れみの目を向けていた。
私のような美人と歩くのは不釣り合いだと、影で笑われていた。
しかし、私は特にそれをどうこうすることもなく、むしろ歓迎していた。
私にとって友人とは、利用価値がある人のことを言ったのだ。
学園を卒業して公爵家との縁談が舞い込んだ。
相手は二周りも歳の離れた男性だったので、すぐに断った。
だが、それがいけなかった。
高位貴族の間で、私が公爵家との縁談を断ったと噂になり、ろくに縁談が来なくなってしまったのだ。
私は悔しさに打ち震えた。
こんなことなら断らなければよかったと反省したが、もう既に時は遅い。
そんな苦しんでいる時に、シェルが結婚したという話を聞いた。
相手は私と同じ子爵家のコーラルという男性で、容姿は思ったよりも整っていた。
どうしてあの地味な女が、私に手に入れられないものを手に入れるのだろう。
胸が潰れるような思いになり、私はコーラルに接触していた。
そのまま不倫関係になるも、シェルとコーラルが離婚した後にすぐに関係は終わった。
仕方なしに別に男でも探していると、シェルが今度は伯爵家のスカーという男性と結婚したと聞いた。
冷たい見た目をしているが、コーラルよりも顔は整っていて、私の全身を嫉妬が包み込んだ。
今度も奪ってやる。
男なんて単純だ。
そう思った私は、スカーもシェルから奪うことにした。
……馬車が家の庭に止まる。
私の心の中は、怒りの炎で包まれていた。
私よりも幸せになろうとするシェルもそうだし、彼女を好きだといったスカーもそうだ。
私の思い通りに動かない二人が、とても憎かった。
馬車を降りて玄関まで歩いていると、ふいに背後に足音がした。
「ローズ」
どこかで聞いた声に振り向く。
そこにはやつれたコーラルが立っていた。
「コーラル……どうしてここにいるの? もう私たち、終わったはずでしょう?」
「そんなこと言わないでくれよ……もう一度やり直そう。な?」
コーラルの目はどこか虚ろで、まるで現実が見えていないようだった。
ふと彼の足元を見ると、靴が土で汚れていた。
「どうやって入ってきたか知らないけど、もう帰ってちょうだい。あなたと話をする気分じゃないの」
冷たくあしらうも、彼は苦笑する。
「ははっ、冗談はよしてくれよ。僕と君の仲だろう」
「しつこいわね。さっさと消えろって言ってるの」
私が眉間にしわを寄せると、コーラルの目がカッと見開く。
「ふざけるな! 僕を弄んでおいてその態度は何だ! お前のせいで、僕は勘当されたんだぞ!」
「は? じゃあもう貴族でも何でもないのね。ますます興味が無くなったわ」
私は呆れて思わず笑ってしまう。
彼に背を向けると、吐き捨てるように言う。
「五秒上げるから私の目の前から消えてちょうだい。いくわよ、五、四、三、二……」
「お前が悪いんだからな」
声の後、背後から鋭い痛みに突き刺された。
背中を抜けて胸まで届いており、私は恐る恐る顔を下に向ける。
胸の間から大きなナイフが突き出ていた。
「え……」
全身の力が抜け、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
ぼやける視界で、何とかコーラルの姿を捕らえる。
「ははっ! お前が悪いんだ! お前のせいだ!」
まるで子供のようにコーラルは天に向かって叫んでいた。
その声を聞いてか、兵士の重い足取りが迫ってくる。
「どうして私が……」
コーラルが兵士に取り押さえられ、私の名前が何度も叫ばれた。
しかし私の意識は徐々に薄くなり、やがて完全に消えた。
馬車に乗り込んだ私は、座席を拳で殴った。
それが通じたように馬車が揺れて、衝撃で私は座席に横倒しになる。
「ぎゃっ!」
思わずみっともない声が出た。
すぐに手をついて体を起こすと、唇を噛みしめた。
……貴族学園に入学して最初に出来た友人がシェルだった。
元々、私よりも美しい人と仲良くなる気はなかったので、ちょうどいい女だと思った。
平々凡々な栗色の髪に、大して整ってもいない顔。
性格も大人しく、どこか愚鈍な彼女は、立派な引き立て役になってくれた。
シェルは気づいていないようだが、ほとんどの人が彼女に哀れみの目を向けていた。
私のような美人と歩くのは不釣り合いだと、影で笑われていた。
しかし、私は特にそれをどうこうすることもなく、むしろ歓迎していた。
私にとって友人とは、利用価値がある人のことを言ったのだ。
学園を卒業して公爵家との縁談が舞い込んだ。
相手は二周りも歳の離れた男性だったので、すぐに断った。
だが、それがいけなかった。
高位貴族の間で、私が公爵家との縁談を断ったと噂になり、ろくに縁談が来なくなってしまったのだ。
私は悔しさに打ち震えた。
こんなことなら断らなければよかったと反省したが、もう既に時は遅い。
そんな苦しんでいる時に、シェルが結婚したという話を聞いた。
相手は私と同じ子爵家のコーラルという男性で、容姿は思ったよりも整っていた。
どうしてあの地味な女が、私に手に入れられないものを手に入れるのだろう。
胸が潰れるような思いになり、私はコーラルに接触していた。
そのまま不倫関係になるも、シェルとコーラルが離婚した後にすぐに関係は終わった。
仕方なしに別に男でも探していると、シェルが今度は伯爵家のスカーという男性と結婚したと聞いた。
冷たい見た目をしているが、コーラルよりも顔は整っていて、私の全身を嫉妬が包み込んだ。
今度も奪ってやる。
男なんて単純だ。
そう思った私は、スカーもシェルから奪うことにした。
……馬車が家の庭に止まる。
私の心の中は、怒りの炎で包まれていた。
私よりも幸せになろうとするシェルもそうだし、彼女を好きだといったスカーもそうだ。
私の思い通りに動かない二人が、とても憎かった。
馬車を降りて玄関まで歩いていると、ふいに背後に足音がした。
「ローズ」
どこかで聞いた声に振り向く。
そこにはやつれたコーラルが立っていた。
「コーラル……どうしてここにいるの? もう私たち、終わったはずでしょう?」
「そんなこと言わないでくれよ……もう一度やり直そう。な?」
コーラルの目はどこか虚ろで、まるで現実が見えていないようだった。
ふと彼の足元を見ると、靴が土で汚れていた。
「どうやって入ってきたか知らないけど、もう帰ってちょうだい。あなたと話をする気分じゃないの」
冷たくあしらうも、彼は苦笑する。
「ははっ、冗談はよしてくれよ。僕と君の仲だろう」
「しつこいわね。さっさと消えろって言ってるの」
私が眉間にしわを寄せると、コーラルの目がカッと見開く。
「ふざけるな! 僕を弄んでおいてその態度は何だ! お前のせいで、僕は勘当されたんだぞ!」
「は? じゃあもう貴族でも何でもないのね。ますます興味が無くなったわ」
私は呆れて思わず笑ってしまう。
彼に背を向けると、吐き捨てるように言う。
「五秒上げるから私の目の前から消えてちょうだい。いくわよ、五、四、三、二……」
「お前が悪いんだからな」
声の後、背後から鋭い痛みに突き刺された。
背中を抜けて胸まで届いており、私は恐る恐る顔を下に向ける。
胸の間から大きなナイフが突き出ていた。
「え……」
全身の力が抜け、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
ぼやける視界で、何とかコーラルの姿を捕らえる。
「ははっ! お前が悪いんだ! お前のせいだ!」
まるで子供のようにコーラルは天に向かって叫んでいた。
その声を聞いてか、兵士の重い足取りが迫ってくる。
「どうして私が……」
コーラルが兵士に取り押さえられ、私の名前が何度も叫ばれた。
しかし私の意識は徐々に薄くなり、やがて完全に消えた。
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