夫が友人と不倫しました

杉本凪咲

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 コーラルとの離婚はすんなりと進んだ。
 慰謝料も迅速に払われて、支援金の打ち切りも正式に決定した。
 
 実家の自室で、コーラルの誕生日プレゼントに買った腕時計を見つめていた。
 綺麗な水晶の装飾が施されていたが、とてもつける気にはなれなかった。

 コン。
 短く扉がノックされた後に、父の声が外から飛んでくる。

「シェル。ちょっといいか?」

「はい」

 私が扉を開けると、父が一枚の紙を渡してくる。
 そこには、黒髪で真面目そうな男性の顔写真があった。
 
「彼は伯爵令息のスカー。以前、パーティー会場でシェルを見て気になっていたそうだ」

「え……もしかしてこれって」

「ああ、お前に縁談が来たんだ。離婚したばかりですぐには考えられないだろうが、一応伝えておこうと思ってな。先方はいつまでも待つと言ってくれているから、気長に考えるといい」

「わ、分かりました」

 扉が閉まり、足音が遠ざかる。
 私は手に持った紙を見つめながら、近くの椅子に腰かけた。

「スカーさんか……」

 ……一か月後。 
 私はスカーとの顔合わせに臨んでいた。
 離婚したばかりで、あまり次の縁談については考えられないが、いつまでも待たせても悪いと感じたのだ。

 スカーの家の応接間に入ると、既に彼は席についていた。
 互いの両親が仕事で参加できないため、初回から二人だけという、緊張する場である。

「は、初めまして……シェルと申します」

 カーテシーをすると、どこか冷たい声でスカーが返答をした。

「名前は既に知っています。どうぞお座りください」

 いきなり出鼻をくじかれた私は苦笑するしかなく、背中に汗が伝うのを感じながら、彼の向かいの席に座った。

「えっと、スカーさんはどうして私に興味を持って頂けたのですか?」

 もっと手ごろな挨拶の言葉があったはずなのに、焦ってしまい急な質問となってしまう。
 しかしスカーは嫌な顔一つせずに、淡々と答える。

「パーティー会場で、あなたは常に周囲を見て他人を気遣っていました。同じ伯爵家として尊敬に値するものがあると感じ、興味を持ちました」

 これは、褒めてくれているのよね?
 口調が淡々としているため分かりづらいが、賞賛と受け取ることにした。
 
 その後も私たちは会話を進めていった。
 相変わらず、スカーの口調は淡々として模範解答みたいだったが、それでも、悪意はないようで、ただ単に正直なだけだとすぐに分かった。

 思っていたよりも話しやすくて、時間はあっと言う間に過ぎていく。
 帰る時間になると、私は名残惜しさを残しながら、応接間を後にした。
 
 廊下を歩いていると、ふいに背後に足音が迫った。
 振り返ると、スカーが息を乱して立っていた。

「スカーさん? どうかされたのですか?」

 心配な目を向けると、彼は私をしっかりと見据えて口を開く。

「あなたに好きだと伝え忘れていました。シェルさん……あなたが好きです」

「……え!?」

 突然の告白に心臓が跳ねる。
 しかしスカーの方は、冷静な顔つきで、「では」と背を向けて去っていく。
 
「面白い人」

 私は胸に手を当てながら、困ったように微笑んだ。
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