4 / 7
4
しおりを挟む
コーラルとの離婚はすんなりと進んだ。
慰謝料も迅速に払われて、支援金の打ち切りも正式に決定した。
実家の自室で、コーラルの誕生日プレゼントに買った腕時計を見つめていた。
綺麗な水晶の装飾が施されていたが、とてもつける気にはなれなかった。
コン。
短く扉がノックされた後に、父の声が外から飛んでくる。
「シェル。ちょっといいか?」
「はい」
私が扉を開けると、父が一枚の紙を渡してくる。
そこには、黒髪で真面目そうな男性の顔写真があった。
「彼は伯爵令息のスカー。以前、パーティー会場でシェルを見て気になっていたそうだ」
「え……もしかしてこれって」
「ああ、お前に縁談が来たんだ。離婚したばかりですぐには考えられないだろうが、一応伝えておこうと思ってな。先方はいつまでも待つと言ってくれているから、気長に考えるといい」
「わ、分かりました」
扉が閉まり、足音が遠ざかる。
私は手に持った紙を見つめながら、近くの椅子に腰かけた。
「スカーさんか……」
……一か月後。
私はスカーとの顔合わせに臨んでいた。
離婚したばかりで、あまり次の縁談については考えられないが、いつまでも待たせても悪いと感じたのだ。
スカーの家の応接間に入ると、既に彼は席についていた。
互いの両親が仕事で参加できないため、初回から二人だけという、緊張する場である。
「は、初めまして……シェルと申します」
カーテシーをすると、どこか冷たい声でスカーが返答をした。
「名前は既に知っています。どうぞお座りください」
いきなり出鼻をくじかれた私は苦笑するしかなく、背中に汗が伝うのを感じながら、彼の向かいの席に座った。
「えっと、スカーさんはどうして私に興味を持って頂けたのですか?」
もっと手ごろな挨拶の言葉があったはずなのに、焦ってしまい急な質問となってしまう。
しかしスカーは嫌な顔一つせずに、淡々と答える。
「パーティー会場で、あなたは常に周囲を見て他人を気遣っていました。同じ伯爵家として尊敬に値するものがあると感じ、興味を持ちました」
これは、褒めてくれているのよね?
口調が淡々としているため分かりづらいが、賞賛と受け取ることにした。
その後も私たちは会話を進めていった。
相変わらず、スカーの口調は淡々として模範解答みたいだったが、それでも、悪意はないようで、ただ単に正直なだけだとすぐに分かった。
思っていたよりも話しやすくて、時間はあっと言う間に過ぎていく。
帰る時間になると、私は名残惜しさを残しながら、応接間を後にした。
廊下を歩いていると、ふいに背後に足音が迫った。
振り返ると、スカーが息を乱して立っていた。
「スカーさん? どうかされたのですか?」
心配な目を向けると、彼は私をしっかりと見据えて口を開く。
「あなたに好きだと伝え忘れていました。シェルさん……あなたが好きです」
「……え!?」
突然の告白に心臓が跳ねる。
しかしスカーの方は、冷静な顔つきで、「では」と背を向けて去っていく。
「面白い人」
私は胸に手を当てながら、困ったように微笑んだ。
慰謝料も迅速に払われて、支援金の打ち切りも正式に決定した。
実家の自室で、コーラルの誕生日プレゼントに買った腕時計を見つめていた。
綺麗な水晶の装飾が施されていたが、とてもつける気にはなれなかった。
コン。
短く扉がノックされた後に、父の声が外から飛んでくる。
「シェル。ちょっといいか?」
「はい」
私が扉を開けると、父が一枚の紙を渡してくる。
そこには、黒髪で真面目そうな男性の顔写真があった。
「彼は伯爵令息のスカー。以前、パーティー会場でシェルを見て気になっていたそうだ」
「え……もしかしてこれって」
「ああ、お前に縁談が来たんだ。離婚したばかりですぐには考えられないだろうが、一応伝えておこうと思ってな。先方はいつまでも待つと言ってくれているから、気長に考えるといい」
「わ、分かりました」
扉が閉まり、足音が遠ざかる。
私は手に持った紙を見つめながら、近くの椅子に腰かけた。
「スカーさんか……」
……一か月後。
私はスカーとの顔合わせに臨んでいた。
離婚したばかりで、あまり次の縁談については考えられないが、いつまでも待たせても悪いと感じたのだ。
スカーの家の応接間に入ると、既に彼は席についていた。
互いの両親が仕事で参加できないため、初回から二人だけという、緊張する場である。
「は、初めまして……シェルと申します」
カーテシーをすると、どこか冷たい声でスカーが返答をした。
「名前は既に知っています。どうぞお座りください」
いきなり出鼻をくじかれた私は苦笑するしかなく、背中に汗が伝うのを感じながら、彼の向かいの席に座った。
「えっと、スカーさんはどうして私に興味を持って頂けたのですか?」
もっと手ごろな挨拶の言葉があったはずなのに、焦ってしまい急な質問となってしまう。
しかしスカーは嫌な顔一つせずに、淡々と答える。
「パーティー会場で、あなたは常に周囲を見て他人を気遣っていました。同じ伯爵家として尊敬に値するものがあると感じ、興味を持ちました」
これは、褒めてくれているのよね?
口調が淡々としているため分かりづらいが、賞賛と受け取ることにした。
その後も私たちは会話を進めていった。
相変わらず、スカーの口調は淡々として模範解答みたいだったが、それでも、悪意はないようで、ただ単に正直なだけだとすぐに分かった。
思っていたよりも話しやすくて、時間はあっと言う間に過ぎていく。
帰る時間になると、私は名残惜しさを残しながら、応接間を後にした。
廊下を歩いていると、ふいに背後に足音が迫った。
振り返ると、スカーが息を乱して立っていた。
「スカーさん? どうかされたのですか?」
心配な目を向けると、彼は私をしっかりと見据えて口を開く。
「あなたに好きだと伝え忘れていました。シェルさん……あなたが好きです」
「……え!?」
突然の告白に心臓が跳ねる。
しかしスカーの方は、冷静な顔つきで、「では」と背を向けて去っていく。
「面白い人」
私は胸に手を当てながら、困ったように微笑んだ。
応援ありがとうございます!
303
お気に入りに追加
445
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる