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「まさかお前が学園を無事に卒業できるとはな。私は人生で最大の驚きを経験しているよ」
学園の卒業式が終わり、家に帰ってきた私を見て、父がいたずらっぽく笑う。
私は腕を組み、腰まで伸びた自慢の赤い髪を揺らした。
「私もお父様がこの時間まで起きていらしていることに驚きですわ。お年を召されているので、就寝は早いかと思っておりました」
「まだ夕方だ。年寄りでもそんな時間には眠らない」
「あら、そうでしたの? おほほほっ」
ふざけたように笑い、私は二階へと続く階段を上る。
しかしすぐに父が「あ、待て」と私を引き留めた。
「お前に話がある、支度をしたら書斎まで来てくれ」
「話? ここじゃだめなのですか?」
「ああ、大事な話だからな。人生を変えるほどの」
「人生を変えるほどの?」
思わずオウム返しをしてしまう。
「分かりました。すぐに行きます」
私は父に背中を向けると、再び階段を上りだす。
先ほどとは違い、牧歌を歌うように軽快に。
……父の書斎を開けると、書類に目を通していた父が顔を上げた。
眼鏡を取り、疲れたように目を何度も瞬かせる。
「お疲れですね」
「まあな……」
たまには気遣ってやるかと思い言ったが、想像以上に疲れている風だったので、心配になってくる。
「だが、それよりお前の話のほうが大事だ」
父は気分を変えるように目を大きく見開くと、太陽のような輝く笑みを浮かべた。
「ライエル、お前に縁談が申し込まれた。しかも相手はあのルーブル様だ!」
「……はい? 誰でしょうそれは」
「は?」
父は私の無知を知り、ため息をはき、肩をすくめた。
「本気で言っているのかお前……はぁ……全く……お前はいつまでもあの頃のままだな」
失礼な!
心の中で舌をべえっと出す。
「ルーブル様はこの国の第三王子だ、黒い髪にサファイアのような綺麗な瞳。物静かだが、聡明で、卓越した頭脳と先見の明を兼ね備えている」
「え……」
王子様……?
驚いた私は、口をぽかんと開けて固まってしまう。
父は再びため息をはいた。
「なぜだか知らんが、お前と昔話したことがあり、ずっと気になっていたらしい。一体どこで関係を持ったんだ?」
まるで私が悪い事でもしたかのように、懐疑的な目を向ける父。
心臓を掴まれたような気分になりながら、私は答える。
「いやいや、話したことなんてありませんよ! きっと誰かと勘違いをしているのですよ!」
「うーん……確かにその可能性もあるが……」
冗談で言ったつもりなのに、父は本気にしてしまう。
やはりそろそろボケが始まってきたのかもしれない。
「とにかく、一度王宮で顔合わせをする予定だから、その辺のことは聞いてこい。ルーブル様からはお前一人で来てくれということだ」
「わ、私一人で……?」
急に不安が込み上げてくる。
王子様と二人っきりで上手く話せる自信はない。
「頼んだぞライエル」
父は全ての希望を込めたようなキラキラした目で私を見つめてくる。
過度な期待に胃が重たくなりながらも、頷く以外の選択肢はない。
「が、頑張ります!」
無理矢理に笑顔を浮かべ、私は父の書斎を後にした。
自室までの廊下を歩いていると、ふと昔の記憶が蘇る。
それは初めて訪れたパーティー会場でのこと。
同い年くらいの黒髪の男の子と話したのだが、確かあの子の名前もルーブルではなかったか。
地味な黒髪に、宝石のような綺麗な瞳。
今思えば、服装は高級な素材が使われていたし、なにより名前が一致する。
彼が第三王子のルーブルだとすれば、私と話したことがあるというのも納得がいく。
「いや、まさかね。そんなことあるわけないわ」
私は首を振って考えを吹き飛ばすと、泥の中を歩くような重たい足取りで自室に向かった。
学園の卒業式が終わり、家に帰ってきた私を見て、父がいたずらっぽく笑う。
私は腕を組み、腰まで伸びた自慢の赤い髪を揺らした。
「私もお父様がこの時間まで起きていらしていることに驚きですわ。お年を召されているので、就寝は早いかと思っておりました」
「まだ夕方だ。年寄りでもそんな時間には眠らない」
「あら、そうでしたの? おほほほっ」
ふざけたように笑い、私は二階へと続く階段を上る。
しかしすぐに父が「あ、待て」と私を引き留めた。
「お前に話がある、支度をしたら書斎まで来てくれ」
「話? ここじゃだめなのですか?」
「ああ、大事な話だからな。人生を変えるほどの」
「人生を変えるほどの?」
思わずオウム返しをしてしまう。
「分かりました。すぐに行きます」
私は父に背中を向けると、再び階段を上りだす。
先ほどとは違い、牧歌を歌うように軽快に。
……父の書斎を開けると、書類に目を通していた父が顔を上げた。
眼鏡を取り、疲れたように目を何度も瞬かせる。
「お疲れですね」
「まあな……」
たまには気遣ってやるかと思い言ったが、想像以上に疲れている風だったので、心配になってくる。
「だが、それよりお前の話のほうが大事だ」
父は気分を変えるように目を大きく見開くと、太陽のような輝く笑みを浮かべた。
「ライエル、お前に縁談が申し込まれた。しかも相手はあのルーブル様だ!」
「……はい? 誰でしょうそれは」
「は?」
父は私の無知を知り、ため息をはき、肩をすくめた。
「本気で言っているのかお前……はぁ……全く……お前はいつまでもあの頃のままだな」
失礼な!
心の中で舌をべえっと出す。
「ルーブル様はこの国の第三王子だ、黒い髪にサファイアのような綺麗な瞳。物静かだが、聡明で、卓越した頭脳と先見の明を兼ね備えている」
「え……」
王子様……?
驚いた私は、口をぽかんと開けて固まってしまう。
父は再びため息をはいた。
「なぜだか知らんが、お前と昔話したことがあり、ずっと気になっていたらしい。一体どこで関係を持ったんだ?」
まるで私が悪い事でもしたかのように、懐疑的な目を向ける父。
心臓を掴まれたような気分になりながら、私は答える。
「いやいや、話したことなんてありませんよ! きっと誰かと勘違いをしているのですよ!」
「うーん……確かにその可能性もあるが……」
冗談で言ったつもりなのに、父は本気にしてしまう。
やはりそろそろボケが始まってきたのかもしれない。
「とにかく、一度王宮で顔合わせをする予定だから、その辺のことは聞いてこい。ルーブル様からはお前一人で来てくれということだ」
「わ、私一人で……?」
急に不安が込み上げてくる。
王子様と二人っきりで上手く話せる自信はない。
「頼んだぞライエル」
父は全ての希望を込めたようなキラキラした目で私を見つめてくる。
過度な期待に胃が重たくなりながらも、頷く以外の選択肢はない。
「が、頑張ります!」
無理矢理に笑顔を浮かべ、私は父の書斎を後にした。
自室までの廊下を歩いていると、ふと昔の記憶が蘇る。
それは初めて訪れたパーティー会場でのこと。
同い年くらいの黒髪の男の子と話したのだが、確かあの子の名前もルーブルではなかったか。
地味な黒髪に、宝石のような綺麗な瞳。
今思えば、服装は高級な素材が使われていたし、なにより名前が一致する。
彼が第三王子のルーブルだとすれば、私と話したことがあるというのも納得がいく。
「いや、まさかね。そんなことあるわけないわ」
私は首を振って考えを吹き飛ばすと、泥の中を歩くような重たい足取りで自室に向かった。
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