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「どうして……」

 サラは狼狽えた顔で立ち上がる。
 チラっと床のナイフに目を落とすが、すぐにアーサーがそれを拾う。

「サラ。もう終わりだ。君がエレナを殺そうとしたのを僕が見ていた。法律家である僕の証言があれば、君は即座に断罪される」

「ふっ……そうですか……」

 アーサーが私の隣まで歩いてくる。
 それを見届けると、私は口を開いた。

「サラ……いえ、あなたの本当の名前はマリアなのよね?」

「……そんなことまで調べているなんて、凄いですねぇ」

 サラは全く反省などしていないように、不敵な笑みを浮かべた。

「でもよく分かりましたね。私の素性を調べ上げただけじゃなく、殺されるのも未然に防いだ……まるで神様の加護でも受けているみたい……」

「そうね、そうかもしれない……」

 今の彼女にタイムリープの話をする気にはなれなかった。
 友人だと思っていた彼女の裏切りに私は慎重に言葉を考えていると、先にアーサーが言葉を放つ。

「全部、僕の知り合いの腕利き探偵のおかげさ。君が昔、オーレンと親しくいていたことは分かっている。住み込みで働いていた教会が潰れ、そこのシスターに引き取られ街を出たんだろ? しかしオーレンのことが忘れられず戻ってきたってところかな?」

 サラは小さく息をはくと、頷いた。

「その通りです。でも、彼は私をマリアだとは気づかなかった。もう十年以上経っているもの、私の顔はもうあの頃のものとは違う。それに気づいた時、私は深い悲しみの海に落ちました……そしてサラと名前を変えて、愛する彼の傍で生きていくことを誓った」

 サラはふいに目を指でこすった。
 灯りに照らされ、一滴の光のようなものが彼女の目からこぼれ落ちるのが見える。
 私は拳をぎゅっと握ると、口を開く。

「本当のことを言えばよかったじゃない。昔仲良くしていたのなら、きっと気づいてくれるはずだわ。そうすれば全部解決だったじゃない」

「知ったような口きかないでください!!!」

 サラが大声を上げて、私を睨みつけた。

「彼にとっては私との思い出なんてどうでもいいことなんです! だから私がマリアだと気づかなかった! 違いますか!? 大体、あなたみたいな女はオーレンに似合いません! 大人しく私に殺されておけば良かったんです!」

「なるほど……だから私を殺そうとしたのね」

 アーサーの調査で、サラがどこか怪しい人物だと分かったが、犯人と断定するのには証拠に欠けていた。
 だから私たちは今日まで何もせずに、犯人を捕らえることにした。
 もちろん犯人がサラだという可能性が高かったが、そうだとすると動機だけが分からなかった。

 サラは私の友人だ。
 助けることはあっても、特に恨まれるようなことはしていない。
 だが、彼女の話でその動機も明らかとなった。

 私はため息をはくと、同情を込め呟く。

「あなたはオーレンに幸せになって欲しかった。でも私じゃ彼を幸せにできないと思ったのね?」

「その通りですエレナ様。オーレンにはもっと、素敵な女性がお似合いです。周りが羨むような聖女のような人が……」

 と、その時だった。
 サラの背後からぬっと人影が現れた。
 それはオーレンだった。

「サラ……君は……マリアなのかい?」
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